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間章Ⅰ:国際文化学部二年 雪平律音の場合

 どうしてこんなことになったんだ。俺はただ、先輩たちとバスの中でいつも通りのどんちゃん騒ぎをしていただけなのに。

 大雅は時に悪ふざけが過ぎることがある。去年のクリスマスもフグ毒入りチョコレートのロシアンルーレットなんていう謎の余興に付き合わされた。死人が出ないように『テトロドケシケシ』とかいうふざけた名前の解毒剤が用意されていたが、運悪く大当たりを引いてしまった男子部員は年が変わるのを待たずに退部していった。もっとも、あのときの俺はしこたま酒を食らった後で、先輩たちと一緒に男子部員が悶え苦しむのをげらげら笑ってみていたんだけれども。

 悪ふざけを楽しめる側にいるうちはいい。だけど、こうして大雅に弄ばれる側に回った感想は最悪だった。

 クリスマスのときだって、死人が出ないように対策はしてあった。この施設にゾンビがいるという話も疑わしい。もし実際にいたとしても、さすがにサークルメンバーがゾンビに咬まれるのを見殺しにはしないと思いたい。治療薬の治験は進んでいるらしいとはいえ、rotten-32の治療法が確立されているわけではない以上、そんな大事件に発展しうるようなことはいくら大雅でもしないだろう。……しないよな?

 クソがと胸の中で毒づきながら、俺は自分の左腕に嵌めた黒が基調のスマートウォッチの盤面を操作する。盤面を指先で繰ってインストールされたアプリの一覧を出すと、通常とは違うデザインのTickingのアイコンが俺の目に入った。これが俺が眠らされている間に大雅(とその下僕の香椎製薬社員)によって入れられたTickingの改造アプリかと思いながら、それを八つ当たり気味にタップした。

 通報ボタンがグレーアウトされている以外には通常の画面と変わらない。俺はざっと画面の構成を確認すると配信ボタンを押した。

 目の前の空間に半透明な配信画面が映し出され、俺の視界に像を結んだ。俺は左腕を動かし、写り具合を調節すると、表情筋を動かしていつも通りの軽薄な笑みを無理やり作る。

「ちょりーっす! 雪平律音(ゆきひらりつと)っす!」

 本来なら大雅への憤りでちょりーっすなどと言っていられる心境ではないのだが、それは作り物の笑顔の裏に隠しておく。

 このTickingでの獲得ポイントが生き残るためのランキングに影響するなんて話もどこまで本当だかわからないが、視聴者に媚びを売っておくに越したことはない。最下位の人間をゾンビの蠢く檻に放り込むなんて、いくら大雅でも八割方やらないとは思っているが、二割ほど本当にやるかもしれないと思っている自分がいる。

「なあお前らー、俺がいるこの研究棟とかいうとこには今ゾンビが五匹徘徊してるって話なんだけどどう思うー? ワンチャンGMのハッタリって可能性もあるし、今からちっと探しに行ってみちゃおうかなーとか思ってるんだけどどうよ? お前ら一緒に見に行かねー?」

 俺の配信にぱらぱらと視聴者が入ってくるのが見えた。俺はちーっす、とそいつらに挨拶をすると、「ゾンビwktk」「いいんじゃねw」と乗り気な視聴者たちのコメントを横目に踵を返した。


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