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第五章:ピース・オブ・ケイク①

 追加でゾンビが五体、大雅によって施設の中に放出され、本日最初(24時)のウェーブが開始された。

 現在、このゲームに残っているのは結愛を含めて四人だ。早ければあと一、二時間ほど、遅くとも三時間後にはこのゲームの勝者が決定する。

「成瀬くん、これ」

 結愛は床から金属バットを拾ってくると、俺へと手渡した。俺はそれを受け取ると感触を確かめる。

 手の動きはぎこちない。腕も何だか、突っ張った感じがあって、動くまでに時間がかかる。

 それでも、戦えないほどじゃあない。彼女を無事に帰すために、まだ俺にはできることがある。

 俺は結愛のスマートウォッチのカメラの画角に収まるように立つ。結愛の配信画面では、彼女の横で土気色の肌に血管をびっしりと浮き上がらせた冴えない男がぎょろりとした目でぎこちなくこちらを見返していた。

「ゆありん髪下ろしててもかわいいw」「蒼生きゅん随分変わっちゃったな……」などというコメントが彼女のコメント欄を流れていく。そう言いたくなる視聴者の気持ちもめっちゃわかる。俺だってそう思う。

 結愛は画面の向こう側の視聴者たちに状況を説明するべく甘ったるい鼻にかかった声で呼びかける。彼女は俺を手で示すと、

「みんなー、ゆありんの隣にいるのは蒼生きゅんなの! みんなも見てたと思うけど、蒼生きゅんは咬まれてゾンビになりかかっちゃったの! そのせいでこのゲームからはリタイアさせられちゃったけど、それでもゆありんと一緒にいて最後まで戦ってくれるっていうの!」

 ね、と結愛は俺へ同意を求めた。俺は小さく頷き返すと、すうっと息を深く吸った。背を伸ばして顎を引くと、画面の向こうを意識して声を張る。

「もう、俺自身はここから帰ることは叶わない。だけど、結愛ちゃんだけは絶対に無事に帰す、最後まで勝ち残らせるって約束するよ。だから、みんな、いいねで俺たちに力を貸してくれ!」

「みんなぁ、応援よろしくねえ!」

 そう言うと結愛は顎下に両手を添え、いいねボタンになぞらえてハートを作ってみせる。今の彼女のこの一言だけでごそっといいね数が急増した。たぶん十万の位の数字が変わった。

「結愛ちゃん。それじゃあ行こう。いつまでもここにいたら、ゾンビが集まってくるかもしれない」

『ゾンビコナーズ』の効果が切れてからしばらく経つ。結愛を生還させるためには動かなければならない。視聴者たちが俺たちを応援したいという気持ちや関心を途切れさせないようにしなければならない。どうしたものか、と俺は思考を巡らせながら、金属バットを手に一歩を踏み出した。

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