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間章Ⅸ:外国語学部四年 青峰彩葉の場合

 さっきのあいつは一体なんだったんだ。怪我こそさせられたものの、あたしからアイテムだけ奪って去っていった。

 あいつに襲われた後、動けなくなっていたところを成瀬とかいう地味な一年に助けられた。

 この倉庫に連れてこられた後、あたしの身に起こったことを話してやると、案の定、成瀬は驚いていた。無理もない。あたしだって、まさかゾンビじゃなく人間が襲ってくるだなんて思っていなかったんだから。

 あたしはあの襲撃者につけられた傷に包帯を巻き終えると、ライムグリーンのニットの裾を元に戻した。そして、あたしは包帯と一緒にポイントと交換した『イタクナインA錠』とかいうふざけた名前の鎮痛剤の箱を開ける。何なんだこのネーミングセンス。

 あたしは白い錠剤を二錠手のひらに出すと、口の中に入れ、唾液と一緒に飲み込んだ。どれだけこの薬が効くかはわからないけれど、貴重なポイントを二万も使ったのだからきちんと効いてくれないと困る。

 あの襲撃者のせいで無駄にポイントを使わされてしまった以上、そろそろ動き出さないとまずい。二十二時台の順位を考えると、行動を起こして使った分を回収しないと、最下位への転落もありうる。それだけは絶対に防がないといけない。

(あー……そうだった、さっきあいつに武器持ってかれちゃったんだっけ……)

 結構なポイントを使って交換したあたしの相棒(バール)は、先ほどあの襲撃者に襲われたときに、他のアイテムともども持って行かれてしまっていた。

 この先、丸腰の状態でこのゲームに参加し続けるのはあまりにも心許ない。これ以上ポイントを使いたくはなかったけれど、何か代わりになる武器を用意しないといけない。

「あーもうっ」

 あたしは苛々としながら、自分のスマートウォッチの文字盤をタップし、もう一度アイテムカタログのファイルを開く。何か手頃なポイントで取り回しがしやすそうなものはないだろうか。

(そういや、成瀬はバット持ってたな……)

 配信も運動も下手そうなあの陰キャが交換できるくらいだ。あれはそんなに大量にポイントを要求されるような武器ではないのだろう。

「八千ポイントか……」

 あたしは成瀬が持っていたのと同じ金属バットをカタログの中に見つけるとそう独りごちた。

 予想通り、武器の中では要求ポイントは比較的低い部類ではあるが、今のあたしには手痛い出費ではある。必要なポイントがもっと少ないところで言えば、ただの角材なんかもあったけれど、強度的に下手をすれば使い捨てになってしまう。そんなことになってしまえば逆にコスパが悪い。

(仕方ないか……)

 あたしは渋々ながらも金属バットの画像の下に表示された交換ボタンをタップする。交換申請を受け付けた旨のメッセージがスマートウォッチの盤面に表示されると、ほどなくして頭上の天井が開いた。よくよく考えるとこのシステムって怖い。というか普通にキショい。すぐにこうやってアイテムが届くということは、常に大雅(や奴の下僕の香椎製薬の社員)によって居場所をあたしの把握されているということなわけで、要は参加者全員が組織的なストーカーに遭っているようなものだ。そう考えるとますます苛々が募ってくる。香椎製薬の”かしい”は頭おかしいの”かしい”か。

 あたしは頭上から降ってきたバットを空中で柄を掴んで受け止めた。シュッ、シュッと軽く素振りをしてみながら、あたしはこのゲームが終わったら大雅の奴をこれで徹底的にぶちのめそうと決めた。

 あたしは『イタクナインA錠』の箱を潰してホワイトデニムの尻ポケットに突っ込むと、新しい武器を手に倉庫の扉を開ける。

 通路の奥から、見覚えのある人影が腕を押さえながらこちらへ近づいてきているのが見えた。

 Tシャツの上からレイヤードした黒のニットベストに、ぼろぼろのブラックのダメージジーンズ。あれは確か、一年の朝海(あさみ)だったはずだ。

 朝海の足取りは至って普通の人間のもので、ゾンビ化の兆候は見られない。怪我をしているようだけれど、もしかしたらあたしと同じ奴に襲われたのかもしれない。

 一体、今このゲーム内で何が起きているのか。その情報を交換すべく、あたしは朝海のほうへと足を向けた。

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