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第三章:ミルクソップ・アンド・ヘルキャット⑧

「んー、みんな、この辺にはゾンビはいなさそうだね。さっき、青峰先輩が言ってた例の襲撃者(ヤツ)もいないみたいだけど」

 実況を続けながら、二階の倉庫のエリアを抜け、俺は巨大な業務用冷蔵庫のようなものが所狭しと詰め込まれた部屋が続くエリアへと足を踏み入れる。

「あ」

 視線の先に同じ一年生の男子が倒れていた。俺は彼へと駆け寄った。

玲翔(れいと)! 大丈夫か!」

 白いTシャツ。黒地に白のラインが入ったダボっとしたVネックニット。ダメージの入ったブラックのスキニージーンズ。

 それはバスの中で先輩たちと一緒になってはしゃいでいた朝海玲翔(あさみれいと)の姿に他ならなかった。彼もまた、彩葉と同様にゾンビ化の兆候は見受けられない。

「ん……蒼生か……?」

「玲翔! お前、それ噛まれたんじゃないよな!?」

 玲翔のTシャツの方がずたずたに裂け、赤く染まっていた。V系の流れを汲むファッションの傾向から、元々そうだったように見えなくもないが、おそらく人為的なものだろう。

「違う……人間にやられた」

 玲翔も彩葉と同じようにそう言った。

「黒ずくめで大きな鎌を持った奴か?」

 俺がそう聞くと、玲翔はそうだと頷いた。

「小柄で、パーカーだかロンTだかわかんねえけど、とにかくそんな感じのめっちゃダボダボな黒い服を着てた。顔は隠れてたからわかんねえけど」

 黒いパーカー。何かがかちりと頭の中で引っかかったような気がしたが、正体を理解する前にその違和感は解けて消えていってしまった。

「ところで玲翔は、襲撃者(そいつ)に何をされたんだ? やっぱりアイテムを奪われたのか?」

「うん。左腕を鎌で斬られて、そのまま肩に体当たりを喰らって……それで、ボクが持っていたアイテムを全部持っていったんだ。だけど、蒼生はどうしてそれを?」

「さっき、向こうの倉庫の方で同じ奴に襲われたっぽい青峰先輩に会った。そしたら、襲って動かないようにしてから、アイテムを根こそぎ持ってかれたって言ってた。だから、玲翔も同じかと思って」

 なるほど、と玲翔は得心したような顔をした。俺は玲翔の右側に回り、肩を貸してやりながら、

「玲翔、動けるか? ポイントに多少余裕があるなら、どこか安全なところに移動して手当した方がいい」

 俺がそう勧めると、玲翔は困ったように眉尻を下げた。

「ボク、たぶん次そろそろやべーんだよ。さっき十一位でギリだったから。今ポイント使ったら、次の最下位(ビリ)確定だ」

「じゃあ、そのTシャツの裾でも破いて止血しとけよ」

「えー、これ高かったのにィ!?」

「そんなこと言ってられる状況かよ、今」

「それはー、そうだけどー」

 この状況でファッションのことを気にしていられるとは恐れ入る。彼の目元がうっすらと濡れていたのはおそらく傷の痛みによるものではないだろう。俺は呆れながら、近くの部屋の中へと玲翔を放り込む。この部屋の中にはとりあえずゾンビの気配はなさそうだ。

「そうだ、俺はもう行くけどさ。倉庫行けばまだ青峰先輩いるかもだから、鎮痛剤分けてもらえないか交渉してみ? さっき、先輩が交換してたの俺見たから」

「蒼生、ありがと。とりあえず腕縛ったら、先輩のとこ行ってみるわ。あの人がそんな貴重なものあっさりくれるとも思えないけど」

「……まあな」

 それじゃあな、と軽く手を挙げると俺は部屋のドアを閉めた。ドアの向こう側ではびりびりと布を破る音がしていた。

 ゾンビに脅かされている今、人間同士で争い合っている場合じゃない。何者かは知らないが、他の参加者を襲って回っているという何者かを一刻も早く止めねばならない。その決意を新たに俺は再び歩き出した。

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