第三章:ミルクソップ・アンド・ヘルキャット⑦
あたしは息を潜めてゾンビをやり過ごすと、静かに階段を降りた。こちらには得物もあるし、戦ってもよかったのだが、いかんせん数が多かった。
先ほどの二十二時のランキング発表の後、大雅によってゾンビが五体追加された。ランキングの分母も減り続け、今や生き残っているのはあたしを含めて十二人である。分母が減ったということはその分ゾンビ化した連中がいるということで、ゾンビが多いのも納得しかない。
(やっぱポイント稼ぎのために戦っておけばよかったかな……でもさっきのはきついよなあ)
二十二時のあたしのランキングは十位。そろそろ最下位が視野をちらつくようになってきていた。焦るな、と言い聞かせながら、あたしは先ほど詩乃が防護服の連中に連行された現場へと向かう。
「あった」
あたしは床に鉈が転がっているのを見てそう呟いた。先ほど、詩乃が防護服の男たちから逃れようと最後まで懸命に振り回していた鉈だった。あの白い防護服は防刃仕様なのか、最後まで詩乃の小さな刃が彼らに届くことはなかったのだけれど。
(うーん……これは持って行っても仕方ないかな)
何体ものゾンビを相手取って戦ってきたのだろう。鉈の刃先はゾンビのものと思われる体液と脂でひどく汚れていた。これではもう本来の切れ味など期待できないだろう。
あーあ、とあたしは肩をすくめると再び歩き出す。危険を冒して下に来たというのに当てが外れてしまった。
床に転がったままの鉈に黒いスニーカーの爪先が当たり、からんからんと音を立てる。ランキングの状況が芳しくない今、これからどう動くべきか、あたしは頭を巡らせ始める。
担いだままの大鎌を頭上の蛍光灯が照らす。ゾンビの血で汚れた刃先は、光を受けて鈍色の艶めきを放っていた。




