第二章:ファック・マイ・ライフ⑨
あーあ。あいつ何馬鹿なことやってんだか。
あたしは二十時のランキング発表後、ほどなくしてかかってきた通話を思い出しながら、そんなことを思った。
琉貴が二階にある連絡扉を破壊し、管理棟に侵入しようとした。こんな馬鹿げたゲームに付き合わされたくないという彼の意見にはあたしも全力で同意するが、あんなことをして無事でいられると本気で思っていたのだろうかと呆れないではいられない。
(『研究棟』を逃げ回れ、ね。だから、『研究棟』を出て『管理棟』に侵入するのはアウト、か)
無理やりすぎる屁理屈だと思わないでもない。けれど、生き残りたければ、たとえ滅茶苦茶でも大雅の決めたルールとやらに今は付き合うしかない。
あたしはそんなことを考えながら、二階の通路を奥へと進んでいく。階段のところに貼られていた館内案内図によると、連絡扉はフロアの奥の方だったはずだ。
「おー、動画でもみたけどこれは派手にやったねえ」
連絡扉の前に辿り着くと、辺りにはガラスの破片が散乱していた。天井に張り付いた昼光色のLEDの蛍光灯の光を受けて、割れたガラスが無垢な煌めきを放っている。
「お」
あたしは廊下の隅に大鎌が転がっているのを見つけて、バケットハットの下で片眉を上げた。さっき、琉貴が連行されていくときに、防護服の男たちに得物を取り上げられたのは大雅から共有された配信の画面で確認していたが、奴らに回収されずにここに残っていたのは幸運だ。らっきー、とあたしは呟きながら鎌を拾い上げる。さっき拾った雪平のナイフでは心許なかったし、これはツイている。結構交換に要求されるポイントは多かったはずだが、これ以上琉貴に同情する気はない。
あたしは琉貴によって割られた連絡扉をちらりと見た。割れ目から手を入れれば、向こう側から鍵を開けられそうだったが、あたしは琉貴の二の舞になるつもりはさらさらない。だって、あたしは自分の身の安全の方が大事だし。
新しい武器を手に入れたとはいえ、こんな逃げ場のないところでゾンビと鉢合わせしたくはない。こんなところからはさっさと立ち去ってしまったほうがいいと、あたしは踵を返した。




