第二章:ファック・マイ・ライフ⑧
俺がバットをポイント交換で手にしてからほどなくして、ぴるるるるるると再び手元のスマートウォッチが着信を告げた。二十時のランキング発表は先ほど済んだばかりである。
発信者は案の定『香椎大雅』と表示されている。先ほどの聖花の件といい、大雅からの定時以外の連絡には悪い予感しかしない。いやまあ、定時のランキング発表にしたって、ろくな内容だったためしがないのたが。
結愛と視線を交わし合うと、俺は通話に応答する。今度は一体誰が何をやらかしたっていうんだ。
「はいはーいお前らー、また会ったなァ! ざぁんねん、またお前らに悪いお知らせがありまーす! フッフー!」
「やっぱそうだよなあ」「まあそうなるよね」予想を裏切らない大雅の発言にそんな視聴者たちのコメントが流れていくのが俺の視界の隅に見えた。
「四年、灰崎琉貴! 彼が二階の連絡扉を破壊して、研究棟から出ようとしましたー! 何してくれちゃってんのさあ、琉貴ィ」
「何って、こんな馬鹿げたゲームに付き合わされるのにいい加減嫌気が差してんだよ! 管理棟突っ込んで、てめえをのしちまえれば全部終わりだったってのによ!」
大雅によって映し出された黒いクロシェ編みのポロシャツと白いTシャツをレイアードにした男がクッソ、と毒づいたのが見えた。
やれやれ、と言わんばかりに大雅はかぶりを振った。金のミディアムヘアがさらさらと揺れ動く。
「琉貴さぁ、オレ、お前がそんな馬鹿だったとは思わなかったわあー。オレ、最初に言ったじゃん、研究棟を逃げ回れって。つまり、研究棟から出るのはルール違反ってわけ。そんなことも言わねえとわかんねえわけ?」
「大雅てめえ……俺たちをおちょくってんのか!?」
重箱の隅をつつくような大雅の指摘に、琉貴はこめかみに青筋を立てて吠えた。あーやだやだと大雅は肩をすくめると、
「ちゃーんとオレのありがたい忠告を聞いてなかったのがわりーんだろ。見苦しいんだよ。
じゃあな琉貴、お前とはこれでサヨナラだ。――とっととゾンビたちんとこに行っちまいな」
そう言うと大雅はパチンと指を鳴らした。大雅の目元の表情はサングラスに遮られて見えなかったが、画面越しに注がれる彼の視線はひどく冷たかった。
琉貴の元に防護服の男たちが現れる。「んだよ、触んじゃねえよ!」琉貴は彼らを振り払おうと手に持った鎌を振り回す。しかし、男たちと揉み合ううちに彼の得物は叩き落とされ、体を拘束されていった。
「放せ! 放せよ!」
琉貴はじたばたと手足を暴れさせ、拘束から逃れようとする。しかし、それは叶わず、琉貴は男たちに連行されていった。
「そーいうわけだ。琉貴みたいな目に遭いたくなかったら、間違ってもオレのいる管理棟のほうに来ようとしないこったな。今のから学習しねー馬鹿は全員ゾンビ檻送りだかんな! イヤッホーイ!」
それじゃーなー、とテンション高めにワインを瓶ごとラッパ飲みすると、大雅は通話を切った。結構仲良くいつもつるんでいたはずの相手をゾンビの檻へとぶち込んでおいて、このテンションとは頭がおかしいとしか思えない。
「管理棟に押し入るのはやっぱアウトか……」
ゲーム開始直後に館内案内図を見たときに、管理棟に押し入ることも考えたが、実行に移さずにおいて本当によかった。それをやっていたら、俺が今ごろゾンビになっていた。
「そうみたいだねえ。もしかして、蒼生きゅん管理棟攻める気だったのお?」
結愛の無邪気な問いに俺は曖昧な笑みを浮かべた。
「ごめん、それに関してはノーコメで。下手なこと言って、コントロールルームにいる大雅先輩に垢BANされたくない」
「蒼生きゅん、それほぼ答えだよう?」
「草生えるwww」「自白した(笑)」迂闊すぎる俺の言葉を論うようなコメントが俺の配信画面を流れていく。はいはい、どーせ俺は迂闊ですよっと。なんだかちょっと気分が拗ねてくる。
「えいっ」
むくれ気味の俺の頬を結愛がピンクと黒のドット柄の指先でつっついた。「……へっ?」間の抜けたような俺の声に結愛はくすくすと笑った。
「俺もゆありんにつんつんされたいー」「蒼生きゅんずりー」俺を羨むコメントが画面を大量に流れていく。そんなこと言われたって、不意打ちだったし。
「ほーら、蒼生きゅん行こうよお。まだ、あっちの倉庫の方見てないでしょお?」
「え、あ……うん」
それじゃあ行こ、と結愛は俺へと秋波を送る。くっそかわいいな。心臓がずきゅんとする。
俺は先導する結愛に促されるようにして、倉庫が並ぶエリアの方へと足を向ける。二人分の足音がこつこつと廊下に響き始めた。




