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第二章:ファック・マイ・ライフ⑤

 ふいに、手元のスマートウォッチから着信音が響いた。まだ次のランキング発表の十九時には早いはずだ。文字盤を覗き込むと、時刻は十八時三十六分、発信者は大雅を示していた。

「どうしたんだろう?」

「うーん、何なんだろうねえ? ゆありんもわかんなあい」

 俺と結愛は訝しげに顔を見合わせた。ランキング発表でもないのに一体何の用だろうと思いながらも、俺たちはそれぞれ受話器のアイコンをタップする。すると、俺たちの配信画面の横に半透明な大雅の姿が浮かび上がり、テンション高く畳み掛けてきた。

「いやっほうー、お前らさっきぶりィ! ちょっと今回はー、お前らにお知らせがあるんだよねー! それも、残念な方の! いっやあー、マジこういうのテンサゲだよねえー!」

 どの辺りがテンサゲなのか理解できないテンションで大雅はそんなことを宣った。しかし、残念な知らせとは内容が気になる。俺は大雅の態度にイラつきながらも彼の言葉の続きを待つ。

「ケーサツに通報なんてつまんねーこと、させねーってオレ言ったっしょ? なのに、視聴者に頼んで通報させよーなんて、残念なことしようとしたやつがいたんだよねえ。な、そうだろ? 空木聖花(うつぎきよか)チャン?」

 大雅の映像の隣に、モスグリーンのシフォンブラウスにホワイトのテーパードパンツ姿の二年の先輩の姿が映し出された。彼女は悔しげに唇を噛んでいる。「抜け穴塞がれてるとは」「そゆとこGM結構抜け目ないよな」俺のコメント欄を視聴者の感想が流れていく。

「だって……できないとは言ってたけど、視聴者にしてもらっちゃだめなんて言ったなかったじゃない……!」

 ちっちっと大雅はごついリングのはまった指を顔の前で振ってみせると、

「あっまいなあ、聖花チャン。オレ、言ったじゃん。そんなつまんねーことはさせねーって」

「……」

「そーいうわけで! 聖花チャン、とりあえずTicking垢BANな」

「そんな……」

 聖花は顔を蒼白にした。ここでアカウントを失うということはここまで稼いだポイントはゼロになり、これから先、何をしてもポイントが加算されないことを意味していた。つまり、実質的なリタイアである。

「さーて、これで聖花チャンの最下位は完全に確定だ! そーいうわけで、聖花チャンをゾンビ檻へ特別ご招待!」

 一名さまご案内でぇす、と大雅は画面の前で嫌味ったらしくおどけてみせる。「うっわ鬼畜www」「マジキチ」大雅の所業にドン引きしてるらしい視聴者たちがコメントで画面に段幕を作る。俺も激しく同意だ。

 聖花のいる画面に防護服の男たちが現れ、芽依のとき同様に聖花を引き摺って連れていく。あーあ、となんの感慨もなさそうな声を漏らしながら大雅はそれを見送ると、画面越しにこちらへと向き直る。

「そーいうわけで! ルール違反すると、ペナルティで速攻ゾンビ檻送りになっからよーく覚えておくように! ちなみに、聖花チャンじゃねーけど、警察以外――例えば香椎製薬(うち)の役員連中――うちの親父(CEO)とかに知らせよったって同じことになるだけだから、妙な真似はしないことをオススメすんね!

 ああ、あと十五分くらいで十九時のランキング発表だけど、そっちでも最下位のやつはゾンビ檻送りにすっからそこんとこよろしくなー」

 そんじゃあな、と癪に触る投げキッスをこっちに投げてよこすと大雅は一方的に通話を切った。ニヤケ面の残像で胃がムカムカする。

 今しがたの胸糞の悪い光景から早くも気持ちを切り替えたのか、はぁあと結愛は可愛らしく溜息をつきながら、

「聖花先輩やっちゃったねぇ。ゆありんたちはああいうズルはしないでぇ、清く正しくゾンビと戦って行こうねえ、蒼生きゅん?」

「う、うん……」

 このゲームに清さも正しさも欠片もないだろうと思いながらも俺は相槌を打つ。

「それじゃあ、みんなぁ! ゆありんと蒼生きゅんはちゃんと正攻法で頑張ってくから、応援よろしくねえっ! キミのいいね待ってまぁす!」

 そう言って結愛は頭の上でハートを作って見せながらウィンクをする。あざといなあと思いながら俺も「ま、待ってまーす!」上擦った声で結愛に続いた。

 今のやりとりでいいねが少し増え、十九時のランキング発表で最下位になることはないだろうと思いつつも、俺は一点でも多くポイントを稼ぐべく、その場を後にした。「あっ、蒼生きゅん待ってよぉ」頬を膨らませて結愛が後ろを追いかけてきた。

 時刻は十八時五十二分。次のランキング発表まで十分を切っていた。


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