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【番外編】残る甘さ




これは、商家での一日が当たり前になり始めた時のこと。




昼の休憩も中頃に差し掛かった頃。

商家の奥から、甘い香りが流れてきた。


「差し入れだそうです」


番頭が盆を差し出す。

串に三つ並んだ団子。艶のある餡が、やわらかな光を吸っている。


「ありがたいねえ」

「嬉しいわ」


きゃいきゃいと周り声が上がる中、まいは一歩引いた。


自分が、取っていいのだろうか。


周りは当たり前のように団子を食べているが、自分はまだ来て日も浅い。そう思い、壁側に座り直そうとした。


その時、


「どうぞ」


番頭が一本、差し出す。


「え、いいんですか?」


「もちろん」


「ありがとうございます。」


まいは遠慮しながらも、それを受け取った。


「あ、これ……」


思わず、声を漏らす。


以前、ユキと分け合った団子だ。

あの日、笑いながら「美味しいね」と言った記憶が、ふわりと蘇る。


温かい。


指先に、ほんのりとした熱が伝わる。


(もう1回食べたかったんだよね…嬉しい)


そう思い、口へ運びかけて、止まった。


(……生田さんにも)


その考えは、自然だった。


あの日、無理を言って外に出る許可を貰い、

自分だけ美味しいものを食べた。

その申し訳なさが思い出される。



迷いなく、懐紙を取り出す。

まいはそっと団子を包み直し、袖に忍ばせた。







裏手の軒下に、高成はいた。


壁にもたれ、目を閉じている。

だが気配は眠っていない。


まいが近づくと、薄く目を開いた。


「どうした」


なんとなく、視線を向けられると緊張した。

視線を逸らしながら、目的を伝える。


「その……差し入れ、いただいて」


懐紙を差し出す。


「これ、前に食べて、美味しくて」


言いながら、少しだけ声が弾んでいるのが自分でも分かった。


高成は怪訝な顔で懐紙を受け取った。


懐紙を開き、団子を見る。


「……団子か」


それきり、動かない。


まいは、その様子をじっと見つめた。


(貰って、くれるかな……)


その不安と。


そして……本音を言うと、1口食べたいような気持ちもあった。


(だめだめ、それはケチすぎる……!)


でも、それよりも、あの美味しさを高成にも伝えたい。


「……」


高成は、団子を持ったまま、口に運ぼうとしない。


食べないのだろうか。


高成の視線が、ゆっくりと上がる。


「……何だ」


「い、いえ」


食べるのを、待っているだけだ。


指摘されて、思わず見過ぎてしまっていたことに気づき、まいはぱっと視線を逸らした。


その意図を察したのか、察してないのか、高成はわずかに眉を寄せる。


そして、団子とまいの顔を見比べて───


次の瞬間、団子が口元に押し付けられた。


「んぅっ」


柔らかい感触が唇に触れる。


「お前も食え」


「……っ」


まいは反射的に一口噛み、一番上の団子を咥えた。


餡の甘さが、舌に広がる。


(やっぱり、美味しい)


思わず笑みがこぼれる。団子を食みながら、口元を隠して、まいは礼を言った。


「…ありがとう、ございます」


「……元はお前のだろう」


高成は呆れたようにまいの顔を見たあと、残りを引き、今度は自分の口へ運ぶ。


迷いなく、噛む。



───その仕草に、まいの視線が、止まった。



団子を口に含む瞬間、

白い歯がわずかに覗いた。


柔らかな餡が、形を失っていく。


唇の端に残った照りを舌先が静かに掬いとり、


喉が、上下する。


「……っ」


(な、なんで……)


一連の動作が、まいには妙にゆっくり見えた。


視線が逸らせない。


高成はもう一口で、残りを食べる。


「……甘いな」


ぽつりと落ちる声。


その声が、やけに低く響いた。


団子のことか。


それとも。


考える余裕もない。


そして、最後の一片まで、ぺろりと平らげ、


「……何だ、さっきから」


固まったまま動かないまいに、咎めるように問いかけた。


まいははっと我に返る。


「な、なんでもないです!」


顔を覆い、くるりと背を向ける。


「あ、あの!ご、ご馳走様でした……??!」


そのまま、逃げるように走り出した。


裏庭を抜け、角を曲がるまで止まらない。


胸が、うるさい。


(なんで、なんで気になったの……!)


あの唇に触れた団子は、もう戻らない。


甘さがまだ舌に残っている。


そして、あの一瞬は、舌に残る甘さのように溶けてなくなってはくれなかった。



――



取り残された高成は、しばらくその背を見送った。


やがて、小さく息を吐く。


「……何だったんだ」


掌に残る、わずかな餡の感触。


無意識に指先を拭い、視線を落とす。


そして何事もなかったかのように、

壁にもたれ直した。


(やはり、甘いな……)


唇に触れた甘さは、

高成にも、なぜか長く残っていた。


















番外編のつもりがほぼ本編みたいなものになってしまいました。


そろそろバレンタインというのもあり、

普段の2人より一層甘くしてみましたが

どうでしょう?


ちなみに、私自身は貰う予定もあげる相手もいませんので、今年は自分用にフラワーおはぎを注文してみました。届くのが楽しみです笑




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