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夕焼けの約束(野村紗菜)

女子大学生:紗菜の恋愛模様

 5月の柔らかな風が、豊田市内の小学校の桜を揺らしていた。


 大学3年生の野村紗菜は、緊張で背筋を伸ばしたまま職員室の前に立っている。


 ――教育実習初日。


 将来は小学校教員になる。そのための大切な一歩だと分かっているのに、心臓の鼓動がやけに大きい。


「野村さん?」


 後ろから穏やかな声がした。振り向くと、白いワイシャツ姿の若い男性が立っていた。


「今日から実習だよね。俺、指導担当の本間です」


 にこりと笑う。その笑顔は、教師というより少し年上の大学生のようだった。


「よろしくお願いします」


 深く頭を下げると、彼は苦笑した。


「そんなに固くならなくていいよ。同じ20代なんだから」


 思わず顔を上げる。


「えっ……」

「今年で25。ほら、ほぼ同世代」


 その言葉に、少しだけ緊張がほどけた。


 ――この時、心の中で何かが始まった気がした。


 実習が始まると、毎日は嵐のように過ぎていった。授業準備、教材研究、子どもたちへの対応。理想と現実の差に、何度も立ち止まりそうになる。


 放課後の教室で、紗菜はノートを睨んでいた。


「野村さん、うまくいかなかった?」


 本間が、机の端に腰かける。


「はい……説明が長くなってしまって。子どもたち、途中で集中が切れてて」

「うん、確かに少し難しかったかも」


 やんわりとした指摘。だがすぐに続ける。


「でもさ、野村さんの“伝えたい”って気持ちはちゃんと伝わってたよ」


 胸が、ふっと温かくなる。


「ありがとうございます。教育について一生懸命勉強してきたけど、知識だけではうまくいかないものですね」

「そりゃそうだよ。だから教育実習をするんでしょ?」


「はい……」

「俺だって同じ道を通ったよ。大丈夫。そうやって真剣に悩める野村さんなら素質あるよ」


 穏やかな笑顔が胸に刺さる。指導教官でもあり、先輩でもあり、兄のようでもあるその笑顔が、胸に残った。


 (本間先生にそう言ってもらえて嬉しい……)


 紗菜は照れを隠すようにノートを閉じながら質問した。


「本間先生は、どうして先生になったんですか?」


 気づけば口から出ていた質問に、本間は少し空を見上げる。


「俺? 単純だよ。子どもの頃、担任の先生が好きだったから」

「好き……?」

「尊敬って意味ね」


 笑いながらも、その横顔はどこか真剣だった。紗菜の胸の奥が、静かに揺れた。


 ある日、体育の授業で紗菜は補助に入った。フィットネスが好きな彼女は体を動かすことに慣れている。跳び箱の手本を見せると、子どもたちが歓声を上げた。


「先生すごーい!」


 本間が小声で囁く。


「野村さん、かっこいいね」


 その一言に、心臓が跳ねる。


「先生だって、かっこいいです」


 思わず言ってしまい、顔が熱くなる。本間は一瞬驚いた顔をして、それから笑った。


「それ、実習終わってから言われたら嬉しいかも」


 冗談めかした声。けれど、どこか意味を含んでいるようで――。


 実習はあっという間に最終日となった。


 紗菜は気づいてしまう。本間を見るときの自分の視線が、少しだけ特別になっていることに。だが、実習生と指導教員。越えてはいけない線がある。


 ――最終日。


 子どもたちから寄せ書きをもらい、胸がいっぱいになる。


「先生になってね!」


 無邪気な文字。帰り際、校門の外で本間が待っていた。


「野村さん、お疲れ様」

「本間先生、ありがとうございました。本当に」


 夕方の空が淡く染まっている。


「正直さ、最初は心配してた」

「えっ」

「野村さんは真面目すぎるから、潰れないかなって。でも今は思ってる。きっといい先生になるって」


 胸が熱くなる。


(私は……この人に認められたい)


 そう思っていた自分に、今さら気づく。


「本間先生」

「うん?」


 深呼吸をする。


「私、先生のこと――」


 言葉が震える。好きです、と続けてしまいそうになる。だが、紗菜はぐっと飲み込んだ。


「……尊敬してます」


 本間は少しだけ寂しそうに笑った。


「俺もだよ。野村さんのこと」


 沈黙。


 風が吹き抜ける。


「実習、終わったね」

「はい」

「じゃあさ」


 彼は少しだけ声を落とす。


「来年、教員採用試験受かったら。そのときは“先生”じゃなくて、本間って呼んで」


 心臓が止まりそうになる。


「それって……」

「そのときなら、ちゃんと向き合える気がする」


 甘くて、ずるい約束。紗菜は笑った。


「じゃあ、絶対受かります」


 12月14日、21歳の誕生日。紗菜は勉強机に向かいながら思い出す。


 あの夕焼け。

 あの約束。

 恋だったのか、憧れだったのか、まだ分からない。


 でも確かなのは――自分は、あの人に胸を張って会いたいと思っていること。


「次に会うときは、対等で」


 小さく呟く。


 豊田の冬空は、澄んで高い。

 まだ終わっていない。

 この恋も、この夢も。


 春が来たら、きっとまた会える。

 今度は、“先生”としてではなく――。

- キャラクター プロフィール -

名前:野村紗菜のむらさな

職業:大学生 教育学部

好きな事:フィットネス

年齢:20

身長:158㎝(5'2")

体重:56㎏(124lb)

誕生日:12月14日

星座:射手座

血液型:A型


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