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リボンは光をまとって(立花結月)

女子高校生:結月の恋愛模様

 6月の終わり、湿った風が校舎の窓を揺らしていた。愛知県幸田町にある県立高校では、文化祭の準備が本格的に始まっている。


 体育館の中央で、立花結月はリボンを高く放った。赤い軌跡が空気を裂き、ゆるやかな弧を描く。小さな体に似合わず、芯は強い。新体操部のエースとして、今年の文化祭では団体演技のセンターを任されていた。


 リボンを受け止めた瞬間、入り口の扉が軋む。


「今の、すごかった」


 振り返ると、照明の脚立を抱えた男子生徒が立っていた。演劇部の金光だ。少し無造作な前髪の奥で、真面目そうな目がこちらを見ている。結月の胸が、ひとつ跳ねる。


「ありがとう、金光。でも、本番はもっと上手くやらなきゃ」


 平静を装ってそう答えながら、内心では鼓動が速まっていた。彼は文化祭のステージ照明を担当している。新体操の演目も、彼が光を当てる。リボンよりも眩しい存在。それが、結月にとっての金光だった。


 放課後、教室で待っていたのは重森美玖だった。肩までの髪を揺らし、明るく笑う。


「さっき、金光と話してたでしょ?」


 結月は一瞬だけ目を逸らす。


「ちょっとだけ」


 美玖は同じ新体操部の親友だ。小学生の頃から一緒に練習してきた仲で、呼吸を合わせなくても動きが揃うほど。今度の文化祭でも、美玖は結月の後ろで演技を支える役だ。


 だが最近、結月は気づいていた。美玖が金光を見るときの視線に、微かな熱が宿っていることを。


 ――文化祭前日のリハーサル。


 舞台袖で緊張に指先が震える。リボンをぎゅっと強く握りしめる。


「立花、緊張してる?」


 低い声に顔を上げると、金光がいた。


「あっ、金光……うん、ちょっとだけ」


 不意な登場に思わず弱音がこぼれる。


「お前の演技、好きだよ。なんていうか……強いのに、ちゃんと綺麗で」


 心臓が、強く打つ。


 好きだよ。


 その言葉は、演技に対してだと分かっている。それでも胸の奥が熱くなる。


「そっか、ありがとう」


 それしか言えなかった。舞台に出る直前、美玖が隣に立ち、耳元で囁いた。


「ねえ、結月」

「なに?」

「もしさ、私が誰かを好きになったら……応援してくれる?」


 一瞬、時間が止まった気がした。


「もちろん」


 親友への答えは決まっている。でも……そう答えながら、喉が少しだけ苦い。


(今は……演技に集中しないと)


 結月は深呼吸をして、舞台へ足を踏み出した。


 ――本番当日。


 満員の体育館。照明が落ち、暗闇の中で金光が当てるスポットライトがひと筋、中央を射抜く。

 

 音楽が流れる。

 結月は踏み出す。

 跳躍。回転。リボンが空を描く。


 観客の気配が遠のき、ただ光の中だけが世界になる。


 視界の端に、照明卓の金光が見えた。後ろでは美玖や他の仲間たちが応援してくれるように演技を続けている。


(金光……美玖……今日で、何かが終わる気がする)


 胸が締めつけられる。それでも結月は舞う。好きという感情も、嫉妬も、迷いもすべてリボンに乗せるように。


 音楽の終わりと共に最後のポーズがピタリと決まる。静寂の後、拍手が湧き上がった。舞台袖に戻ると、美玖が駆け寄る。


「結月はやっぱりすごいね! 最高だったよ」


 その目は少し赤い。


「うん、でもみんなも良かった。みんなのおかげだよ。ありがとう」


 肩を抱き寄せ、互いに笑う。この温かさは本物だ。でも……何かが確かに変わっていた。 片付けが終わった夕方、校舎裏のベンチで結月は1人座っていた。


 金光が近づく。


「立花、お疲れ様。今日は、本当に良かった」

「うん」


 沈黙が落ちる。


「俺さ……」


 言いかけて、彼は視線を逸らした。


「重森から、告白された」


 胸の奥で、何かが静かに崩れる。


「……そっか」


(美玖……告白したんだね。頑張ったね。伝えられて良かったね)


 親友が告白したことに満足を覚え、結月は空を見上げる。


「正直、まだ答えが出せない。でも、逃げたくない」


 金光の声は優しかった。結月はゆっくり立ち上がる。


「ねえ、金光」

「なに?」


 夕焼けが差し込み、彼の横顔を染める。


「私もね、好きだったよ、金光のこと」


 空気が止まる。


「でも、それは私の気持ちだから。返事はいらない」


 涙は出なかった。代わりに、不思議なほど澄んだ感覚が胸に広がる。


「そう……だったんだ……ありがとう、立花」


 その声は、少し震えていた。


 帰り道、幸田町の住宅街に夕闇が落ちていた。文化祭の余韻がまだ耳に残っている。


 結月は空を見上げた。

 好きだった。

 それは消えない事実だ。


 けれど今日、舞台の上で確かに感じた。誰かに照らされるだけじゃない。自分で光れるのだと。リボンの感触が、まだ手に残っている。涙がひと筋だけ頬を伝った。


「次の大会、絶対勝つ」


 小さく呟く。その声は、もう震えていなかった。恋は終わったのかもしれない。けれど結月の物語は、ここで終わらない。


 スポットライトが当たらなくても、彼女はまた舞う。自分の光を探しながら――。

- キャラクター プロフィール -

名前:立花結月たちばなゆづき

職業:高校生

好きな事:新体操

年齢:16

身長:158㎝(5'2")

体重:46㎏(101lb)

誕生日:7月6日

星座:蟹座

血液型:A型


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