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私の人生に、インナーガレージを(田嶋凛)

住宅設計士:凛の恋愛模様

 田嶋凛、二十九歳。住宅メーカー勤務の設計士だ。


 図面の上では、彼女は誰よりも冷静で正確だった。線は迷わず、基本に忠実。だが現実の凛は、今もオフィスのデスクに突っ伏している。


「……今日も終電コースですか」


 隣の席から声がする。住田。二十五歳。凛より四つ下の同僚。


「設計士に定時なんてないの」


 顔も上げずに答えると、机の上に缶コーヒーが置かれた。


「ブラック、好きですよね」


 それだけ言って、住田は自分のモニターに向き直る。飄々としている。効率重視。力を抜いているように見えて、肝心なところだけ外さない。


(本当に、調子が狂う)


 凛は小さく息を吐き、画面に視線を戻した。


 小牧市郊外の分譲地。ロードバイクが趣味の夫婦が、今回の担当だ。


「敷地内にガレージを建てたいんです」


 嬉しそうに語る夫。だが敷地は限られている。ガレージを広くすれば、居住空間が削られる。


(基本に忠実に。家はまず、暮らしが優先)


「ガレージを少し小さくする案を提案するしかないか……」


 呟いた、そのときだった。


「インナーガレージにしたらどうですか?」


 隣から住田が画面を覗き込む。


「家の中にガレージを取り込むんです。空調や間取りに制限は出ますけど、生活と趣味が一体になります」


 凛は息を止めた。外に置くのではなく、中に取り込む。その発想は、なかった。悔しさと同時に、胸の奥が熱くなる。


「……いい案かも」

「素直ですね」

「うるさい」


 二人で図面を練り直す。動線を修正し、収納を工夫し、光の入り方まで再計算する。夜十時を過ぎた頃、凛が立ち上がると、視界が一瞬揺れた。


「大丈夫ですか」


 住田の声が、思ったより近い。


「平気。ちょっと寝不足なだけ」

「最近は終電続きですよね」


 図星だった。本当は行きたかった。メナード美術館の特別展。三週間前から楽しみにしていたのに。


「仕事は裏切らないから」


 ぽつりと零れる。住田が静かに言う。


「人は裏切る、みたいな言い方ですね」


 凛は何も返せなかった。


「恋人もいないし」


 自嘲のように続けると、住田の視線が一瞬だけ強くなる。


「……もったいないです」


 その言葉の意味を、凛は深く考えなかった。考えないようにした。


 数週間後、図面は承認された。


「家の完成が楽しみです!」


 夫婦の笑顔に、凛の胸が温かくなる。


 この瞬間のために、また無理をするのだ。


 ーーその日の夜。


「打ち上げ、行きません?」


 住田が言う。断る理由が、浮かばなかった。


 駅前の小さな居酒屋。ジョッキが空くたび、凛の頬は赤く染まる。


「ああもう! 私の恋はどこにあるの!?」

「急にどうしたんですか」

「住宅設計はできるのに、自分の人生は全然設計できてない」


 テーブルに額をつける凛。住田が、ふっと笑う。


「田嶋さん、住宅は完璧主義なのに、自分のことになるとずいぶん臆病ですよね」


 凛が顔を上げる。


「何それ」

「外にばかり置いてる。恋も、休みも、多分……俺も」


 言葉が止まる。空気が変わった。


 住田はゆっくりと凛に視線を合わせた。


「いつになったら、俺の好きに気付いてくれるんですか」


 心臓が跳ね上がる。


「……は?」


 頭が真っ白になる。


「嘘……でしょ?」

「こんなこと、嘘で言いません」


 まっすぐな目。凛は逸らせない。鼓動がうるさい。


「今日は俺が払います。今の話、ちゃんとメッセージでも送ります」

「ちょ、ちょっと待って――」


 住田は会計を済ませ、凛をタクシーに乗せた。


「おやすみなさい」


 その声が、妙に優しかった。


 ーー翌朝。


「……飲みすぎた……頭痛い」


 スマホを開く。


『俺、田嶋さんのこと好きです』


 昨夜の言葉が、鮮明に蘇る。


(私、告白……されちゃった)


 ベッドに倒れ込み、天井を見上げる。机の上には、承認された図面。


 ――インナーガレージ。


 外に置かず、中に取り込む設計。


「……私、何を外に追い出してきたんだろ」


 恋も、休息も、誰かの気持ちも。全部、仕事の外に置いてきた。


 凛はゆっくりと文字を打つ。返信しなければ、なかったことにできる。けれど、それはきっと後悔になる。


『昨日はありがとう。ちゃんと話したい。今度は、酔ってないときに』


 送信。すぐに既読がつく。


『俺はいつでもOKです。今夜でも』

(早っ)


 重たい話のはずなのに、彼の軽やかな対応に胸の奥がじんわりと温まる。凛は鏡を見る。そこに映る自分は、昨日より少し柔らかい。


「人生設計、やり直しか」


 でも今度は、完璧じゃなくていい。

 少しくらい無駄があってもいい。

 誰かを、隣に置ける間取りで。


 窓の外は、よく晴れている。凛の新しい設計図は、まだ白紙だ。


 けれど今度は――外ではなく、隣に立つ人ごと、中に取り込んでいこうと思った。

- キャラクター プロフィール -

名前:田嶋凛たじまりん

職業:住宅設計士

好きな事:博物館巡り

年齢:29

身長:155㎝(5'1")

体重:54㎏(119lb)

誕生日:11月29日

星座:射手座

血液型:A型


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