表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
93/100

波を迎えにいく日(高木美樹)

女性パディシエ:美樹の恋愛模様

 九月の終わり、美浜町の海はやわらかい光をまとっている。


 朝の浜辺に立つと、潮の匂いが胸の奥まで届いた。高木美樹はボードを抱え、沖を見つめる。うねりは穏やかだ。焦るほどの波ではない。


 ――波は、待たなきゃ来ない。三十歳の誕生日の朝だった。


 昨夜、店を閉めてから一人で小さなショートケーキを食べた。自分で焼いたスポンジに、自分で立てた蝋燭を一本。火を吹き消すとき、願いごとは出てこなかった。


 結婚している友人も増えた。子どもの写真が送られてくる。焦りがないと言えば嘘になる。それでも、海に立つと、そんな思いは潮に溶ける。


 パドルをして沖へ出る。すると背後から声がした。


「おはようございます」


 振り返ると、見覚えのある顔。


 美樹の店――海を見下ろす高台の洋菓子店――の常連客、浜野だった。週に一度は必ず来る。新作のケーキと季節のタルトを買い、丁寧に礼を言って帰る人。


 海で見かけるようになったのは一年前からだ。


 店では穏やかなスーツ姿。海ではウェットスーツで、少し無防備な表情をしている。その落差が、なぜか印象に残っていた。


「あ……おはようございます、浜野……さん」


 店では何度も交わしている挨拶なのに、海ではぎこちない。浜野は少し笑う。


「やっぱり、高木さんですよね。お店のお客さんだって、気づいてました?」

「……ええ。なんとなく」


 本当は、すぐにわかっていた。ショーケース越しに見る横顔と、海で波を待つ横顔は、同じだったから。


 でも、声は掛けなかった。店と海は、別の世界のような気がしていた。


 波がひとつ立つ。浜野が先に乗った。無理のない動きで、すっと滑っていく。


 上手い――と思った。


 美樹は思う。焦らず、波の力をきちんと使っている。自分の番を待ちながら、不意に言葉が浮かんだ。


「今日、誕生日なんです」


 声に出していた。浜野がボードを寄せる。


「え、そうなんですか。おめでとうございます」

「三十歳になりました」


 言うと、少しだけ胸がざわつく。数字は、思っていたより重い。


「三十歳、いいじゃないですか」


 浜野はあっさり言う。


「焦る年でもあるけど、やっと自分のペースがわかってくる年でもある気がします」

「浜野さんも?」

「僕も今年、三十です」


 意外だった。少し年下かと思っていた。沖に、少し大きめのうねりが見える。


「行きます?」


 浜野が言う。一瞬、迷う。少し高い。失敗したら格好悪いかもしれない。――でも、今日は。


「行きます」


 二人でパドルを始める。波が背中を押す。立ち上がる瞬間、心臓が跳ねる。うまく乗れたかどうかは、覚えていない。ただ、風が頬を打ち、視界がひらけた。浜に戻ると、ふたりとも息を弾ませて笑っていた。


「いい波でしたね」

「ええ」


 自然と、距離が近い。


「実はずっと、声をかける機会をうかがってたんです」


 浜野が砂を見つめながら言う。


「お店、数年前から通ってます。高木さんがサーフィンするって知ったのは一年くらい前ですけど。海で見かけるたびに、今日こそはって思ってたんですけど」

「どうして声をかけなかったんですか?」

「タイミング、ですかね。波と同じで」


 美樹は笑う。


「私も、同じです」

「あと、美人と話すのは緊張しちゃって」

「あらお上手ですこと。でも、そんなのじゃないですから」


 今度は浜野が笑う。店では“お客さん”。海では“同じ波を待つ人”。その境目が、少しだけ溶けた気がした。


「今日は、何だか勇気出しました」


 美樹は言う。


「三十歳の記念になったかも」


 浜野が目を細める。


「じゃあ、僕も……勇気出してみようかな。今夜、店が終わったあと、海じゃなくて、ちゃんと食事でもどうですか」


 誘いは静かだった。押しつけがましくない。高台の店から見える海を思い浮かべる。夕方、仕事終わり。ショーケースに映る自分の顔。少し疲れている、でも嫌いではない。


「いいですね」


 答えた声は、思っていたより軽やかだった。


 店に戻ると、窓の向こうに海が広がる。ショートケーキのスポンジを触りながら、美樹はふと微笑む。波は、待つだけじゃなく、自分で迎えに行くこともできる。


 夕方、浜野がいつものように店に現れた。ショーケース越しに目が合う。


「お誕生日、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「お仕事終わるまで、店の外で待ってますね」

「はい、お願いします」


 言葉は短い。けれど、視線は少しだけ長く重なる。


 三十歳。悪くない。高台の店の窓の向こうに、浜野の車が止まっている。その先で、夕暮れの海が光っていた。次の波は、もう来ているのかもしれない。


 店の片付けを終え、扉に鍵をかける。深呼吸をひとつ。


「お待たせしました」


 浜野が振り向く。


 口元が自然にゆるむ。それを隠す必要は、もうなかった。美樹は、もう一度だけ息を整えてから、歩き出した。

- キャラクター プロフィール -

名前:高木美樹たかぎみき

職業:パティシエ

好きな事:サーフィン

年齢:30

身長:159㎝(5'3")

体重:50㎏(110lb)

誕生日:9月24日

星座:天秤座

血液型:A型


このサイトでは可愛い女性キャラクター(AIで生成)のイラスト・動画・エピソードを紹介しています。是非、あなたの「推し」を見つけてください!


・彼女のイラスト配信動画はコチラ↓

https://www.youtube.com/shorts/gpA3MXnkLy0


・彼女のイラストデータをこちら↓のサイト(SUZURI)で配信しています。携帯電話の壁紙等にご利用ください☆

https://suzuri.jp/teruru4040/digital_products/73920

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ