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青い穂先の、その先で(菅原真由)

女性農家:真由の恋愛模様

 西尾市の冬は、海からの風がまっすぐ畑を渡っていく。まだ青い小麦の葉が、波のように揺れていた。菅原真由はその中に立ち、手袋越しに土を握る。ひやりと冷たい土の感触が、なぜか落ち着く。


 高校を卒業してから二年。


 進学という選択肢もあったが、家業の小麦農家を継ぐと決めた。。西尾市特産の小麦を作る父の姿を見て育った真由にとって、この選択肢は小さな頃から当たり前のように胸の中にあった。


 そんなある日――。


「テレビ? 私が?」


 地元テレビ局の企画で、西尾市の特産小麦と、それを使ったパンが紹介されることになったという。若手農家代表として、真由が取材を受けることになった。


「俺みたいなおじさんが出るより、若くて可愛い女性の方がテレビ映りもいいだろ」


 父が冗談めかして笑う。噂を聞いた同級生の仲間からも


「ファンレターとかいっぱい来るかもよ?」


 と茶化される。そのとき、ふと一人の顔が浮かんだ。


 ――川井。高校時代に付き合っていた相手だ。


 卒業後は調理の専門学校へ進み、今は地元のパン屋で製パンを担当している。別れた理由は、はっきりしない。進路の違い、将来への不安、意地の張り合い。どちらも素直になれず、気づけば連絡も減り、自然消滅のように終わった。


 それでも、同級生の集まりでは顔を合わせてきた。一緒に話せば、昔よりもずっと落ち着いていて、仕事の話をする横顔がどこか誇らしげだった。


 そして真由は知っている。川井の店の人気商品、「西尾小麦の生食パン」は、自分の家の小麦を使っていることを。


 ――取材の二日前。


 川井からメッセージが届いた。


『今から少し会える?』


 不思議に思いながら真由は返信する。


『いいよ、いつもみんなで集まる公園で待ってる』


 待ち合わせの場所に到着すると、川井の姿があった。二人でベンチに座ると、川井が口を開いた。


「真由、テレビ出るんだって?」


 少しだけ照れたような声。


「うん……なんか、急に決まって」

「緊張してる?」


 図星だった。真由は小さく笑う。


「そりゃ、するよ。東海地方に私の顔が放送されちゃうんだよ?」

「まあ、おじさんが映るより視聴率が上がるっていうテレビ側の意向じゃない?」

「それ、お父さんも言ってた」


 二人で笑い合う時間が温かい。その後、少しだけ黙り込んだ川井が、ゆっくりと言った。


「あのさ、真由のところで作った小麦、本当に味がいいんだ」


 不意打ちだった。


「え?」

「水分量も安定してるし、甘みがちゃんとある。ウチの食パン、あれがあるから出せる味なんだよ」


 真っすぐな目、そして真っ直ぐな言葉だった。高校で恋人だった頃よりも、ずっと心の内側に響いてくる言葉。


「真由の仕事が、うちの商品を支えてるんだ。自信、持てよ。真由の仕事は凄い」


 胸の奥が、じんわりと熱くなる。


「……そんなこと、初めて言ったよね」

「今までは、言うタイミング逃してた」


 少し笑って、そして真剣な顔に戻る。


「俺さ、あの時、真由のことをちゃんと好きだった。でも、ガキだった」


 あの日の自分たちを思い出す。些細なことでぶつかり、どちらも謝れなかった。


「今なら、ちゃんと向き合えると思う」


 喉が渇く。


「テレビの前でさ、変なファンとか増える前に言っときたくて……」


 その言い方に、思わず笑ってしまう。


「真由、もう一回、俺と付き合ってほしい」


 真由は、すぐには答えられなかった。嬉しいのに、怖い。でも、逃げたくなかった。


「……取材、ちゃんと終わったら、返事する」


 それが精いっぱいだった。


「うん。待ってる」


 会話を終え、公園をあとにする。その手を振りながら見送ってくれた川井の表情は高校の頃よりも大人びていて、そして優しかった。


 ――取材当日。


 麦畑での撮影。レポーターの明るい声。カメラの赤いランプ。


「西尾の小麦の魅力は?」


 一瞬、言葉が詰まる。風が強く吹き、髪が顔にかかる。


(落ち着け)


 深呼吸する。


「育てるのに手間はかかります。でも、そのぶん香りが違うんです。」


 言いながら、川井のパンを思い浮かべる。


「誰かの“おいしい”につながると思うと、続けられます」


 少し噛んだ。けれど、ちゃんと伝えられた気がした。取材が終わる頃には、緊張よりも達成感の方が大きかった。


 ――その夜。


 迷いながら、スマートフォンを握る。


『取材、終わったよ』


 すぐに返信が来た。


『おつかれ。俺も現場で見たかったな』


 少しだけ笑って、打ち直す。


『会える?』


 川井はすぐに来た。夜の畑は静かで、街灯の光が小麦の葉を銀色に染めている。


「どうだった?」

「ちょっと噛んだ。髪も風でボサボサになった」

「そっか。でも完璧じゃない方が真由らしいかもな」

「何それ」


 くすっと笑う。


 沈黙。でも、重くない。


「……返事、言いに来た」


 川井の肩が、わずかに強張る。


「うん」

「私も、川井のこと、もう一度ちゃんと好きになってみたい」


 自分の声が震えているのが分かる。


「高校のときより、今の川井のほうが好き」


 一瞬、息をのむ音がした。


「……ほんと?」

「うん」


 小さく頷いた瞬間、指先が震えた。川井の手が、ゆっくりとその指を包む。その温度だけで、胸がいっぱいになった。そのまま、そっと抱き寄せられた。土と、小麦と、パンの甘い匂いが混ざる。


「ありがと」


 耳元でささやかれる声が、くすぐったい。


「俺、今度こそ大事にする」

「私も」


 少し顔を上げると、川井が照れたように笑った。目を閉じて額と額を重ね合わせる。体温が伝わると冬の空気が、少しだけ温かく感じられた。


 離れたあと、二人とも照れて笑った。


「真由の小麦でさ、もっといろんなパン作りたい」

「じゃあ、もっといい麦作らないとね」

「ああ、俺も腕をもっと上げる。一緒に……育ててく感じだな」


 小麦も、パンも、そして――恋も一緒に育てていく。


 まだ若い。でも、ちゃんと根を張れる気がした。海からの風が、また畑を渡る。真由は川井の手を握った。今度は離さないと、静かに思いながら。黄金色の未来は、きっとここから始まる。

- キャラクター プロフィール -

名前:菅原真由すがわらまゆ

職業:小麦農家

好きな事:スノーボード

年齢:20

身長:155㎝(5'1")

体重:45㎏(99lb)

誕生日:2月3日

星座:水瓶座

血液型:A型


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