恋をまねる、音がかさなる(成田美穂)
女子高校生:美穂の恋愛模様
東栄町の夏は、山の匂いがする。
成田美穂は、軽音楽部の部室でギターを抱えながら、ノートとにらめっこしていた。文化祭まで、あと一か月。二年生として参加する今回はオリジナル曲でステージに立つと決めた。
問題は、歌詞だった。
「恋の歌って、何を書けばいいの……」
好きな人もいない。告白されたこともない。ドキドキした記憶も、ほとんどない。想像だけで書こうとしても、どこか嘘っぽくなる。ため息をついたとき、ドラムのスティックが軽く机を叩いた。
「美穂、悩んでる?」
隣のクラスの林だった。軽音部のドラマーで、普段はあまりしゃべらない。無口で、どこか掴みどころのない人。けれどリズム感は抜群で、演奏中は誰よりも頼もしい。
「恋の歌、書けないんだよね」
何となく漏らした言葉だった。林は少しだけ考えるように天井を見て、それからさらりと言った。
「そっか……じゃあ、俺とデートしてみる?」
「は?」
思わず素っ頓狂な声が出る。
「恋愛経験値、上げれば?」
冗談とも本気ともつかない顔。
「……じゃあ、いいよ。別に」
負けたくなくて、そう返してしまった。
――放課後。
二人は学校から少し歩いた川沿いの道を並んで歩いていた。東栄町の川は澄んでいて、夕方の光を反射してきらきらしている。虫の声と、水の流れる音。遠くに見える山の稜線。
「デートって、何するの?」
「知らない。とりあえず歩くとか?」
「誘っといて何よ、それ」
ぎこちない会話に、二人とも少し笑う。
古い商店街を抜け、小さな公園の前を通り、静かなバス停まで来た。人通りはほとんどない。林が空を見上げて言った。
「こういう所で告白とか、ロマンチックじゃない?」
「え?」
「ちょっとやってみよっか」
次の瞬間、林は急に姿勢を正し、芝居がかった声で言った。
「実は僕、美穂のことずっと好きでした!」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。けれどその真面目すぎる顔が可笑しくて、美穂は吹き出した。
「あははっ! 何それ? なんか、ぜんぜんドキドキしないんだけど!」
「ひどっ」
林も笑った。
風が吹き抜ける。告白ごっこは、それで終わった。
でも、その帰り道――胸の奥に何かが残っていた。ドキドキしない、と笑ったはずなのに。どうしてか、その言葉が何度も頭の中で再生される。
(ずっと好きでした! か……)
それから、二人の演奏が少し変わった。これまでは、楽譜ばかりを追っていた。テンポ、入り、フィルのタイミング。けれどいつの間にか、目が合うようになった。サビに入る前、ほんの一瞬。ブレイクの直前、呼吸を合わせるように。林のドラムが、自分の心臓の音みたいに感じる瞬間がある。
部活の仲間が茶化した。
「最近さ、二人って付き合い始めたの?」
「は!? 違うし!」
声が揃って、真っ赤になる。けれど否定しながらも、どこか胸がくすぐったい。そんな感情が自然と言葉になり、歌詞が紡がれてゆく。そして曲は完成した。
――文化祭当日。
体育館は思ったよりも人が集まっていた。照明が落ち、スポットライトが当たる。曲名は、まだ仮のままだった。
イントロ。林のドラムが力強く響く。美穂はギターをかき鳴らし、歌い出す。
――まだ名前のない気持ち
――まだ言えない言葉
それは、自分でも気づいていなかった本音だった。ステージの上で、林と目が合う。ほんの一瞬の視線で、次のフレーズが自然と重なる。
観客の手拍子が広がる。最後のコードを鳴らしたとき、大きな拍手が起こった。胸がいっぱいになった。
――夜。
仲間たちとの打ち上げを終え、二人は帰り道を歩いていた。途中の公園のベンチに腰を下ろす。夏の匂い。遠くで虫が鳴いている。しばらく沈黙が続いたあと、林が口を開いた。
「なあ、美穂。俺さ……」
その声は、あの日の芝居がかった調子とは違っていた。
「美穂のこと、ホントに好きになったみたい。付き合ってほしい」
(えっ?)
胸が、どくんと鳴る。美穂は、わざと少しだけ意地悪を言った。
「また演技?」
「違うって。マジの告白」
即答だった。その真っ直ぐな目を見て、もう分かってしまう。
「……そっか。いいよ。OK」
声が少し震えた。林が、ほっとしたように笑う。少しだけ調子づいたのか、それとも照れを隠すためか。林が言った。
「キスでもしてみる?」
「ええっ!?」
顔が一気に熱くなる。美穂は勢いで言ってしまった。
「あのさ、もし、ここで私が『良いよ』って言ったら……できるの?」
沈黙。二人とも、顔が真っ赤だ。数秒が、やけに長い。
やがて林が小さく笑った。
「ごめん、無理かも。そういうのは、ゆっくり進めよう」
その言葉に、なぜかほっとした。
「そうだね。賛成」
代わりに、そっと手を差し出す。林が、ぎこちなく握り返す。初めてつないだ手は、思ったよりも温かかった。
夜空には星が瞬いている。まだ名前のない恋。でも確かに、ここにある。ドラムのリズムみたいに、少しずつ、確実に。
美穂は隣の体温を感じながら、静かな夜空を見上げた。きっとこの気持ちが、次の歌になる。
- キャラクター プロフィール -
名前:成田美穂
職業:高校生
好きな事:軽音楽
年齢:16
身長:152㎝(4'12")
体重:45㎏(99lb)
誕生日:8月30日
星座:乙女座
血液型:B型
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