3章「学徒奔走」-⑧
「情報とは、危険なのです。」
情報。
物事の内容や事情についての知らせであり、それは受け手が物事を判断するための物差しに成りうるもの。
「情報とは、常に正しく頭に入らない。
これを皆さん、意識しているはずなのに見落としているんです。」
どんな情報でもそうだ。
そこに人の意思が介入する限り...
客観という言葉は後付けでしかない。
物事を判断する主体は常に本人でしかなく、それは主観に基づいて意味をねじ曲げていく。
「我々が書く新聞記事ですら、文字という視覚を通しても尚曲解を招く。
正しい情報だけ提示し続けても、受け手の意思でそれは善にも悪にもなる。」
仮に今回のトカゲとの接敵をありのまま報道したとして、正確な情報はどれだけの人に入るだろう。
新聞を読まない人間には、人伝で伝えられた情報はどれだけ変化を伴うのだろう。
中には聖神騎の行動ですら批判する人間も現れるだろう。
守るべき学徒が居る、守るべき市民が居るという情報だけ都合良く抜け落ち、その場にいた全員に対して嘲笑を向ける人間のどれ程多いことか。
「情報を正しく扱えない今の神騎に...
預ける信頼は持ち合わせていませんので。」
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暫しの沈黙がその場を駆け抜ける。
時間にして数秒か、数十秒か...
体感では何時間にも感じる重い空間...
「結論、お前はどうすりゃそれをこっちに渡すんだ?」
それまで無言を貫き通していたバアルが、不意に短剣に指を刺しながら呟く。
「正しい情報を、市民に発表してください。
この短剣から調べた情報を足して、分かるだけのことでいい。
無知故の恐怖ではなく、既知故の奮闘を...
戦えない私たちに、戦場を舞う貴方たちの姿を…」
深々と、しかし毅然とした態度でグラスは頭を下げる。
その佇まいは、寧ろ誇らしげですらある。
「...クク、サラ教官に連絡取れるか...?」
「一応は...
ただ、グラスさんの求めている回答はすぐには...
今回の発表は、聖神騎会合【ラウンドパーティ】を通しての回答なので...
如何に聖神騎と言っても、サラスヴァティ様の独力だけでは、どうにも...」
「なら、俺が適任だな。」
リラとククの考えを推し量ってか...
突如、圧倒的な存在感を一同知覚する。
まるで、神々しい太陽のような...
熱く、熱く、熱く...
「学徒諸君、ようこそ我が家へ。
俺が、そこにいる愚息の父イナザ。
そして、俺の横にいるのが、弟のイグニだ。」
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「...聞いてないぞ...
アイツがヒノの叔父なんて...」
「言ってなかっただけだろ?
それに、ヒノは元々拾われたんだよ。
イナさんとイグニの野郎は血縁だが、ヒノは蚊帳の外だ。」
バアルの説明を聞いて少しほっとする。
同時に二人の顔をまじまじと見比べる。
少ししょうゆ顔のヒノとは対象的な濃い眉毛に肌の黒さ。
顔の皺からして五十代後半(...のように見えるが、神に等しい年月を生きる神騎のそれは当てにはならない...)。
筋肉質なところはヒノと変わりないが、元々圧迫感を感じていたイグニすら凌駕するほどの腕周りの太さ...
「...親父、また日焼け止め塗らずに海に出たな...」
「ち、ちげぇ。
俺は、日焼け止め塗ってこれだぞ。」
塗ってそれなのかよ。
「ところで、聖神騎会合【ラウンドパーティ】について意見があるならば、正式な手順を踏むのが筋ではないのか?」
イグニの至極当然の意見。
イナザは少し憐憫を感じグラスの方に視線を送る。
「ッッッ」
突如、現役の純神騎であるククですら知覚できない程の僅かな一瞬...
イナザの背に帯刀している大剣...
その柄に指先が触れようとする。
「...なんだ、杞憂だったか...
お前さん、良い目をしてんじゃねぇか。
...なぁ、退役した俺が言うのもあれだが...」
あれを野放しの方が、後々手痛い目に遭うぞ。
リラにすら聞き取れない小さな声で、イナザはイグニに忠告する。
元とはいえイナザも聖神騎の一席に腰を据えていた身である。
そんなイナザですら思わず臨戦態勢に入りそうになる...
グラスの眼はまるで、澄み切った泥沼のような真実を見据えているようだった。
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「短剣についてはこちらで詳細が分かり次第情報を開示しよう。
ただ、報道は君に任せる。」
唖然とするグラスを他所にイグニは指を差しながら淡々と呟く。
「ひとりは引退しているが、聖神騎相手にここまで啖呵を切ったのだ。
君が記者としてどのような扱いを受けていようと、相応の激務は覚悟してもらうぞ。」
「それからヒノ。」
「?」
「帰省した時くらい、本尊への祈祷を忘れるなよ。」
その一瞬...
今まで見たこともないような、まるで怯えきった子供のような顔をヒノは浮かべた...
誰に気づかれるでもなく、ただひたすらに恐怖を押し止めて呟く...
「...あぁ、お勤め...
...だもんな...」
もうそろそろパートに飽きてきている頃合です




