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3章「学徒奔走」- ⑦

「それでは、不肖このグラスが篝火の里について説明致しましょう。」



先刻のやり取りから、急遽神騎候補生の国外交流を取材したいと言い出したグラスを加えたリラ達一行は、ヒノの案内を受けながら村の中を周る。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「と、こんなところだ。

あと厠は向こうの方に共用があるから。」



五分で観光は終わった。



「なんでだよ。」


「おかしいだろ。」



村の説明をしてくれとは頼んだが、まさかヤマダさんちとタカハシさんちを紹介されて子供たちが通う荒屋を見たあとヒノの実家をチラッと(体感五秒)覗き見して説明が終わるとは思わなかった。

家族は出払っているとのことで家に上げてはもらったが...



「この里は他の国と比べて観光資源なんてないぞ?

家名なんて由緒正しい家元じゃないと持ってないし。

基本が職人の里だから、腕に自信のある奴は大抵商売根性効かせて他国に渡ってるんだよ…」



「アネモスもそうだが、地方の国の高齢化と担い手不足は否めないな...」



「「...はぁ...」」



田舎者同士の妙な波長を感じ溜息が呼応する。

何も嬉しくもない。


自室のようにくつろぐバアル。

暑さで物理的に溶けだしそうなイザベラ。

何やらソワソワしているピグ。

異様に姿勢の良いダム。


自由人揃いの中でも、地方民同士仲良くしていきたいと切に願う。



「まぁまぁ、この里は他の国に比べると確かに観光資源は少ないですが、歴史的に見ても大事な場所なんですよ。」



グラスの言葉に耳を傾ける。

この篝火の里周辺は、古くから龍脈と呼ばれる特殊な神威の流れが里を中心に螺旋を描くように発せられている。

そのおかげか、あらゆる鉱石を含む採掘物には一定量神威が含まれており加護の影響を受けやすくなっている。



「街灯などのインフラ設備から、戦争のための武装兵力...

人の生き死にまでもが、この里を形作る龍脈のように螺旋を描いて外へ外へと漏れ出していく...

そしてそれは、今の貴方々にも決して無視はできない物となっているはずです。」



グラスがショルダーポーチから一本の短刀を取り出す。



一同息を飲む。



黒曜石のような鈍く光る刃...

突き刺した相手に苦痛を与える為だけに造られたであろう炎のように揺らめく炎状刀身【フランヴェルジュ】...

そして、柄に刻まれた証...


正確には空と海と大地を表す三ツ角【トリニティ・ノット】を中央で両断した意匠...



「...これは、貴方々が対峙したトカゲ...

その中で唯一我々が確保できた、生きた情報です。」



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



新聞記者と言うのは、文字通り世界を飛び回る。

空を飛び、海を越え、地を這い...

情報という何者にも勝る強力な兵器を、人々に安価で提供する。



「それは、こちらに提供するべき重要な証拠品のはずだ。

何故それを、お前が持っている。

そして、何故、お前は...」



この場において、交渉権を主張する?



途端、ダムの殺気が急激に膨れ上がる。

それもそうだろう。

会話の切り口から見て、この女は情報操作したはずのトカゲの存在について知っている。

それに加え、現在こちらが持ちえない物的情報までも手中に収めている。



「今回の一件。

私は新聞記者として、神騎にこの案件を任せるべきではないと考えています。」



「…根拠は...?」



ピグの質問にゆっくり、しかし吐き気を誘う威圧感を放ちながら、グラスは淡々と事実を列挙する。



「ひとつ、トカゲ騒動が発生してから私たちがこの短剣を手に入れるまで、神騎は正式な声明を出さず沈黙を貫いています。

現状、直接商品を扱う商業区でも危険視されるほどにはトカゲの存在が大きくなっている。

そこに対して、無回答というなら、本来治安を預かるべき<騎士>に対して私個人として深い疑念を抱きます。」



人差し指を真っ直ぐこちらに向けながらダムを見据える。

まるで先程のお調子者など何処にもいなかったように、純黒のように深い眼に呑み込まれそうになる。



「ふたつ、国家を揺るがす可能性のある事案に学徒を派遣する神騎。

正直貴方々では戦力としてゼロがイチにすらならない。

どれだけ個の力が素晴らしかろうが、どれだけ鍛錬を積もうが...

貴方々を何も知らない世間様からしてみれば、まだ<何者>ですらない。

そんな何者ですらない者に、命を預けることなどできない。

それを是とする神騎に対して、納得などできない。

してはならない。」



二本の指がこちらを向く。

バアル、ピグ、イザベラの三名は依然として変わらない。

だが、騎士という立場にある種の誇りすら抱いているダム、生真面目なヒノに取ってはどうにも痛いところを突かれる感覚だろう。



「そしてみっつ。

根本的な問題です。

聖神騎...

これの指す言葉の意味が...皆様なら分かりますよね...」



聖神騎。

数いる神騎の中でも神の代行とも呼ばれる六人の騎士。

最も気高く、最も勇ましく、最も強く...

心技体全てにおいて、人を超越し神に並ぶ...

神が誇る、国を守護する最高戦力...



「逃げられた...では済まないんですよ...

純騎士率いる大隊を指揮し、貴方々学徒まで使った囮作戦...

本来であれば、野党相手に過剰戦力もいい所です。

それを、みすみす逃した。」



「それは...」



返す言葉もないとはまさにこの事だ。

本来であれば、今回の一件は良くて純神騎止まりだったろう。

それを聖神騎まで用いてあまつさえ逃したのだ。

額面通りの人間からすれば、<聖神騎サラスヴァティの力量不足>と見做す輩も少なくは無いだろう。



「だが、今回の相手は魔人由来の魔力まで使用していた。

如何に聖神騎と言えど、未知の相手に対して常勝...

という訳にもいかんだろ。」



「そこが貴方の考えの甘さなんですよ。」



バンッと机を叩く音が響く。

やや赤みを帯びた掌を擦りながら、グラスは先程まで荒らげていた声を沈め、落ち着いた声音を取り戻す。



「いいですか?

貴方の言い分が通るのであれば、神騎はハナから情報封鎖なんてしていません。

未知の敵が来ています。

警戒を怠らないでください。

そういえば言いだけ。

でもそうはならなかった。」



グッとヒノに出された麦茶を飲み干す。

グラス自身、両の手に力が入っていることは理解している。


如何に神騎が素晴らしいかも、如何に市民が弱いかも...


だからこそ、曲げてはならない。

たとえ憎まれ役を勝手でも、理解しなければならない。

目を逸らしてはならない。

逃げてはならない。



逃げさせては、ならないのだ。

次回更新予定日

書き終わり次第

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