3章「学徒奔走」- ④
正門を抜け、屋敷へと足を運ぶ。
道には色とりどりの花々が添えられ、中央からシンメトリーを描くように噴水が虹を彩る。
屋敷の扉には祝水の象徴とされる紫陽花が金装飾であしらわれている。
「屋敷の門には、神華【シンカ】をあしらっておりますわ。
それぞれの神が象徴とする華があり、祝水は紫陽花、篝火は向日葵、恵土は蒲公英、銘雷は雷花、神秘は山荷葉、蘭風は風花となっておりますわ。」
屋敷の中はとても広い。
中央の噴水を中心に、二階へと通ずる二本の大階段。
大小各三十を超える部屋にはそれぞれに専従のメイドが付き、全ての部屋には伝声管が備え付けられている。
装飾は蒼を基調とし、中央を彩る金の装飾の入ったカーペットが一際異彩を放っている。
「祝水の歴史はとても長いですわ。
私の父の代からなので二百年は超えますが、その間大きな争いはなく、統治も民主主義を採用し国民と近い距離を保っている点が我々イルミンスールの特色でしょうか。」
「質問。
なんで特色の大塔にイルミンスールがくるの?
民主主義の国ならアネモスと篝火の里があるじゃないか。」
ピグの質問にお前は知ってるだろという気だるげな表情を浮かべつつこちらに向き直る。
「民主主義という言葉は昔からありましたが、現在広く知られる国民全体で国の在り方を決めると位置づけをしたのはイルミンスールが初めてだからですわ。
現在でも貴族制度などは残っていますが、こちらはいわゆる封建国家時代の名残のようなもの...
昔のように権力を主張する個の独立した存在ではなく、貴族連盟に署名した「貴族会」からなる集団的な財務維持を心掛ける団体が増えてきていますわ。」
(まぁ...
先の一件に乗じて再建を目論む不埒な輩も目立ってきてはいるのですが...)
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「やぁ、ようこそ学徒諸君。
うちの自慢の愛娘が世話になっている。」
大階段を上り中央広間の一室。
王都を一望できる展望スペースを兼ね備えた当主の部屋にて、リラ達一同はラック家前当主でありダムとレイラの父親に当たる男...
先程レイラに屋敷内に幽閉されたばかりのランス・ラックと対面する。
「おや、学徒はダム含め六人と聞いていたのだが...」
「私が彼に別任務を命じたのです。
暇そうにしていたので。」
そういえばバアルはパスとは言っていたが、詳細は濁していた。
「貴族嫌いの彼にはうってつけの任務でしたので。」
「んー。
なら仕方ない。
フリーマン君から仔細は聞き及んでいる。
王都滞在は一泊。
本晩はここで夕食を共にし、ククには明日昼頃合流するよう伝えている。」
用意のいいことだ。
「では、夕食の席で堅苦しい話もなんだ。」
途端、彼の目付きが変わる。
まるで先程の娘大好き親父とは似ても似つかない。
領主としての生真面目な顔が露になる。
「私から諸君らに聞くことは二点。
ひとつ、トカゲと直接接触した君達の所感。
ふたつ、今後の作戦展開の大まかな動き。
こちらもできる限りバックアップはするが、如何せん情報を残さない得体の知れない相手だ。
諸君らの情報がほしい。」
「俺から言います。」
リラが前に立つ。
臨時とはいえ、サラからサードの成り行きを預かった身だ。
説明責任はあってしかるべきだろう。
「まず、トカゲの所感。
戦闘力は俺たち学生でも足止めもしくは拘束を想定とした動きを許す程度には練度が低いかと。
ただ、報告書にも記載した通り、複数名の幹部と思しき者の中には純神騎及び聖神騎に準ずる程の手練がいると推測されます。
次に今後の作戦展開。
俺たちはこれから、この国外交流を通して各地への情報収集を兼ねた注意喚起を。
接敵時は適宜その場での戦闘を避け、一時撤退。
戦力及び勢力範囲が把握でき次第、他神騎への助力を受け本隊を叩く想定です。
期間は当初一年想定でしたが、敵勢力の概要が分からない以上国外交流終了から二ヶ月を予定しています。」
「うん。
確かに妥当なんだけどさ。
リラ、それだと矛盾してるよ。」
ピグが横から口を挟む。
「確かに短期決戦すべき相手ではある。
詳細も分からない相手に時間は有限だからね。
でも、君の立案だと相手の全容把握をスケジュールに入れ込んでるんだから仮に長期に持ち込んでも問題は無いと思うよ。」
「それが、そうもいかないんだ。」
続けてと促すピグとランス、そしてレイラの視線を感じながらひとつずつ情報を精査する。
「恐らく、トカゲは発足して間もない。
接敵してわかった。
個人の戦闘力は正直言って並の練兵のそれじゃなかった。
だが、俺、バアル、ヒノで撹乱に行った時違和感を覚えたんだ。
俺たちの感知をすり抜ける程に個の力があるのに、俺たちでも足止めできる程度にしか連携が取れてなかった。
恐らくここから時間をかければ、トカゲの練度も無視できないまでに成長する。」
「それにだ。」
ヒノがずっと気になっていた点を補足する。
「奴ら、出現した時魔力を纏っていた。
加えて、リラとピグが発見した神威の残滓...
考えたくはないが、魔人側と神騎側での内通も視野に入れると時間はかけられんだろう。」
「...恐らく、今回の一件には私たち水神騎...
それも退役した元純神騎以上の騎士が関わっている可能性が見られますわ...」
レイラが淡々と述べる。
それは、本来調査した俺たちですら知り得ない情報。
「まぁ、大まかな動きはわかった。」
ランスは頭を抱えながら静かにレイラに目配せする。
レイラからそれ以上のナニカが発せられることはなく、一同は夕食のため別室へ移動するのだった。
末永く更新していきます




