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3章「学徒奔走」- ③

「さて、じゃあ行くか。」



先の国外交流の発表から一夜明けて早朝。

当初帰省は三年後と考えていたリラにとってはひと月ぶりの里帰りとなる。



「ちなみに、現地の移動は各々何とかするとして、今回の国外交流は一応神騎育成校としての恒例行事だからな。

なんで、お前らの里帰りにはこいつを同伴させる。」



サラの後ろから小さな影がひとつ。

およそ俺たちよりも五つは若いだろうと思しき少年が一人...

サラの背後を隠れ蓑にこちらをチラチラと観察している。



「ほれ、挨拶。」



「えっ?あっ...えっ?」



素っ頓狂な声を出しながら肩を押し出され前に出る。

遊牧民の伝統装束に身を纏わせながら、服装の装飾には所々イザベラを思わせる不思議な水晶の飾り...

イザベラの真っ白な純白の髪色とは対象的な何処までも深い黒...


肩ほどの長さでゆったりとウェーブを纏った髪には眉毛ほどの位置をヘアピンで止めている。



「はっ...初めまして...

あの...その...

第三飛空艇団所属...

神秘純神騎【ノア】のクク・ケニス・ノモスです...」



(ん?

ノモスって何処かで...)



「あー。

知らない者もいると思うから一応説明な。

クク・ケニス・ノモス。

倍率の高い神秘の純神騎【ノア】試験を八歳で突破した...

お前らの五つ下の天才だ。」



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「驚いたな。

噂には聞いたことがあるが、まさか実在していたとは...」



「それにリョカだろ?

すげぇなお前。」



「いや、あの、私はリョウカではなくてですね...」



ヒノはともかくバアルが珍しく他人に興味を示しているのにも驚きだが、俺はひとつ聞き慣れない単語を耳にする。



「なぁダム。

リョカ?ってなんだ。」



「お前は...」



そんなことも知らないのかという呆れ顔を見せながら、ダムにゆっくりと解説を促す。



「リョウカ、正しくは両華。

地域によってはダブルとも呼ばれるが、要は加護を二人以上の神から加護を授かっている者のことだ。」



「二人以上?」



「そう。

一般に、神の加護や寵愛を受けた人間は大抵がその地に根付いて生活を営み、やがて土に還り、神へ還る。」



稀に、そう出ないものがいる。

生まれた土地に馴染めず、他国を放浪する者...

国境の境で産まれ、両神からの愛を半々に受ける者...

他国の者通しによる国を超えた婚姻...

立場や境遇は違えど、それらは等しく神の寵愛を多く受ける両華となるのだ。



「わ、私は両華ではないんです...」


「だあッッッ...」


「...すまない...

余り触れられたくない話題とは知っていたが...」



驚いたリラ、謝罪を述べながら驚きに少し心臓を抑えるダム、興味の尽きないヒノとバアルのため、改めてクク本人の口から言葉が紡がれる。



「私は、両華ではなくただの半端者です。」



曰く、ククは産まれは恵土の小さな集落だが、幼い頃からその奔放性に馴染めず、五歳の時に父母に別れを告げひとり神秘の国へと渡ったのだ。



「両華の方々をあまりよく思われない人はいます。

いわゆる【人、一柱に尽くす】という一人の神からの愛を一人が生涯をかけて返すというものですね。」



ただ、ククは違う。

生まれ故郷を出たあと行き着いた先は前時代的なアネモスから更に輪をかけて閉鎖的な秘匿主義者の集う国...



「どうにか純神騎になることはできましたが、私の力は...」



フッと両の掌で空をなぞる。

途端に指先に方陣が描かれ、方陣には幾何学模様の中心に右手に壱、左手に弐と書かれた文字が刻まれる。



「九つ。

この方印のマーキング限界です。

九つであれば、それぞれが作用し方印同士を繋いだ瞬間移動【テレパス】が可能になります。

恵土様の加護を宿しながら地に馴染めず、何とか行き着いた先でもまた馴染めず...

両華のように二種類の加護を使える訳でもなく...

恵土と神秘のどちらとも、どっちつかずとも取れる神術...

私の性格の現れでしょう。」



...遠い目をしていた...

ここまで実力が在りながら自己評価の低い人間を見たせいか、各々は自分への過信を少し改めるべきかと心に刻むのだった...



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「とまぁ、国外交流を息巻いたは勝手だがな...」



王都に来て初めての貴族領。

それも下級貴族への謁見ではなく、正真正銘上流貴族の豪邸への訪問に、リラはもちろん生真面目なヒノもまた襟を正す。


元々各地を旅しているピグや興味のあること以外に頓着のないイザベラは、友人の家に初めて遊びに来た程度のテンション感...



バアルに至っては...



「俺は貴族はソリに合わねぇんだ。

今回はパス。」



そういうと商業区の方に一人ぶらつきに行った次第だ。



「まぁ、私が案内してもいいんだが...

今回ばかりは私もユノスの学園生として、見学側に周ろう。」



そういうと、ダムは示し合わせたかのように門前に佇む屈強な男に会釈する。



「話は、フリーマンから聞いている。

客人に満足いただけるかは分からんが、今回は私が案内を...」



言い終わるのも束の間。

見知らぬツインテールの少女が、男に詰め寄る。



「父上、私が案内しますのでっ。

おやめになって!?」


「姉上、そんなに怒気を放っては父上が小さくなってしまいます。」



あたふたと慌てるダムを他所に、およそ二回りも大柄な男を担いだかと思うと、少女は風のように消え、波のように静かにその場に戻ってきた。



「父が失礼をしましたわ。

改めて、案内役の聖神騎【パラディン】レイラ・ラックです。

愚妹が世話をかけましてよ。」



こちらに軽くカーテシーで挨拶をする。

まるで人形【ドール】のような整った顔つきは、リラの顔とは似ても似つかないが、目つきの鋭さだけはやや近いものを感じる。



そんなことをぼんやりと考えている時だった...



「...ダム、やはり貴方は神騎には相応しくありませんわ...

話は学長に通してあげますから、国外交流が終わり次第うちに戻りなさい。」



...唐突な発言だった...

周りを一瞥し、久方ぶりに帰った妹に掛ける言葉とは思えない。

だが、心做しか...

ダムの表情からは諦めとも取れる悲しそうな顔が浮かんでいる。



「他の学徒を見ても、貴方は数段劣りますわ。

それも...」



そこから先は延々とダムの神騎としての人間性の否定ばかりだった。

やや不機嫌になるピグを除き、誰もが声を上げようとする。

しかし、それは他ならぬダムによって遮られる。

皆理解していたのだ。

この場での発言権が誰にあるかを。

それほどまでに、彼女の聖神騎として放つ神威とは凄まじいものだった。



...頭はいいが、察しの悪いこの男を除いては...



「それは、駄目だろ。」



場が凍る。

ダムは固まり、レイラはゆっくりとしかし真正面から顔を捉える。

イザベラとピグは笑いを堪えることに手を焼き、ヒノはただ、こんな時でも動き出せない己の無力を痛感する。



「...驚きましたわ...

リラ・ウガリット...

報告書に目を通した限りでは少しは利口な人間かと思っていましたが...

まさか彼我戦力すら分からないような者がサラの任意補佐【バディ】とは...

老骨は焼きが回っていきませんが、若手も品がなくて困りものですわね。」



「悪いが、利口な人間は公の場で身内を立てるもんだぜ。

これじゃラック家は、ダムの過大評価...

良くて三流貴族だな。」



剣先が頬を掠める。

思いも寄らない、しかし想像に固くないダムからの抜刀を躱しながら、リラはそのままダムの腕を引き上げ自らの胸に抱き寄せる。



「まぁ、あんたがどれだけ勝手を言おうが...

今のこいつは俺の部下だ。」



瞬間、リラがレイラの背後に背中合わせで立っている。

放心し呆気に取られていたダムは当然、眼前に捉えていたヒノもイザベラも察知しきれない程の高速移動...



「...最期に見る景色がベッドの上じゃ...

あんたも寂しいだろ...」



「...肝に銘じておきましょう...

貴方のその、無謀な勇気に免じて。」



双方殺気を収め、屋敷への門をくぐる。



(...ニンリル、大層自慢の息子を育て上げましたわね...)



先程の緊張感がじわじわとレイラの肌をヤスリのように刺激する。

力において、自分がリラに負けることは無い。

騎士としても、武人としても...

全てにおける能力で己が勝っているという自負も揺らいではいない。



(...殺し合いでなければ...ね...)



竜技・龍歩【リュウホ】。

膝関節と両足母指、それに加えて上体の微かな反動だけで爆発的な加速力を生み出す歩法。


それに加えて先程の一幕。

背後に立ったリラは、外行きのドレスを破ることなく繊維の間を通してこちらの背中にアイスピックを触らせた。



(背中合わせの状態でこちらの衣服の繊維すら傷つけずに通し、こちらを挑発できる技術...)



それらの情報を加味した上で、先程の言葉がただの脅し文句に取れる訳もなかった。



(これ以上続けるようであれば、騎士としてではなく...

人としてこちらを仕留めにくる...か...)



眠っている最中であればこちらも無防備だろうという考えは安直だが、彼ならやりかねない。

あの短気な思考といい、ダムには良い刺激になるかもしれない。



「...ダム...」


「はっ、はい、姉上...」


「...婿にするなら、御相手は品が大事でしてよ...」



頭上にハテナを浮かべるダムに、まだ少しだけ彼女の幼さを垣間見る。

いつか見た穏やかな表情を一瞬だけ見せ、レイラは一同を己が屋敷に招き入れるのだった。

章ごとのまとめはカクヨムにて閲覧できます。

コメント等励みになりますので応援のほどよろしくお願い致しますm(*_ _)m

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