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3章「学徒奔走」- ②

リラ、ピグ連名の調査報告書に目を通したあと、サラスヴァティはグッと眉間に力を込める。



水神騎と思しき神威の残留を確認。



絶賛悩みの種である調査報告書の内容のため、急遽開かれた緊急招集に参上するためグラズヘイム宮への道を進む。



「あら。」


「ん?」



グラズヘイム宮中央広間。

隣接する水蓮の間を挟むように中央...

上階にある大広間への唯一の昇降階段でふたりは顔を合わせる。



「お久しぶりですサラスヴァティ。

ご機嫌麗しゅうございます。」



「相変わらずだな。

レディ・レイラ。

お父上は健在か?」



名をレイラ・ラック。

齢十八の若さで祝水の聖神騎に就任して以降「鬼神レイラ」と呼ばれ、先々代の聖神騎である父の通り名を見事に引き継ぐ活躍を見せている。

身長はミニマムだが、サラでさえ気を抜けば当てられるほどの神威を纏いながら、レイラは真っ直ぐこちらを見据える。



「えぇ。

それよりも...」



顔つきが変わる。

重々しい神威を放ちながら、ゆっくりとこちらに歩みを寄せる。

並の神騎であれば立つことさえままならないだろう。



「候補生の調査報告拝見いたしました。

あのピグ・ノモスが実地調査を行ったのであれば、こちらの監督不行は確実でしょう。

一学生に片が付けられる案件ではありませんわ。

即刻任務中断の指示を出していただけて?」


「えらく頭に血が上ってんなレディ。

お互い若くねぇんだから血圧には気をつけようぜ。」



相も変わらずヤクザ気質なサラに憶さない様子...

それほどまでにレイラは、身内の不手際に対し徹底的なまでの自己制裁を重んじていた。



「心配すんな。

ピグもそうだが、うちのバディは中々やる玉だ。

お宅のご令嬢には、傷一つ付かねぇ。

神秘に誓ってやる。」


「それなら結構。

若輩に興味はありませんので。

しかし、それはそれ。」



ゆっくりと足首まで丈のあるスカートの裾を少し持ち上げる。

これまで多くの男が求婚し、玉砕してきた優雅でありながらどこか強さを纏うカーテシー...



「こちらにも面子がございますので。

他所の稚児に始末は任せられませんわ。」



まるで邪鬼のような悍ましい笑みを浮かべこちらを見据えている。

全身の体毛という体毛が逆立つ感覚を喉奥に押し込む。



(...あいつ、怒ると相変わらず悪魔みたいだな...)



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「それではこれより、聖神騎会合【ラウンドパーティ】を実施する。」



イグニの声掛けを筆頭に各々顔を合わせる。

円卓に聖神騎全員が集まるのは数十年か数百年ぶりか...

それほどまでに今回の一件は、リラ達個人の想定を超えるほど大きな議題と化していた。



サラからことの本末を事前に聞いていたニンリルは、些か気だるそうに円卓に連なる面々に視線を向ける。



ニンリルの右隣にサラ。

正面には居眠りに目を光らせるイグニ。

左隣にはダム家のご令嬢。



(リラも世話になってるし、ここはひとつゴマすりでもしとくか...)



サラの更に右隣には銘雷の聖神騎であるセト。

レイラの左隣には、恐らく新顔である恵土の聖神騎と思しき人物が見受けられる。



「まず、急な招集となり申し訳ないが早速本題に入る。」



議題内容は大まかに三つ。


ひとつはトカゲ。

こちらの陣営にトカゲと通じる者が居る可能性が高いことに加え、危険度だけで見てもリスクS案件...

神騎【ナイト】が担当するリスクCや純神騎以上が担当するリスクB、聖神騎が主軸となって指揮を取るリスクA案件を超えるいわば「神を主軸とした国家間での対策案件」...

それを一学生に指揮を取らせることの危惧を主題としていた。


ふたつめは各国の更なる連携を図るための具体的な法案の決定。

その中枢を何処が担うかも含めての形式的な牽制。



みっつめは...



「今回、トカゲの進行が危惧されるがそれは学生の本分を妨げるものであってはならない。

よって...」



さしずめフリーマン辺りが口を出してきたのだろう。

三つ目の議題は至ってシンプル。



「毎年恒例、各クラスによる他国交流会を実施する。」



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「というわけで、集まってもらって悪いんだが...

今回の案件、お前らはサブだ。」



ピグとの地質調査終了後...

物言わず歌劇に戻ろうとしていたピグを引っ張り...

自主トレのバアルを引っ張り...

論文制作による三徹目のイザベラを引っ張り...


先に王都に帰還していたヒノ、王都の調査を継続していたダムと合流し、サード教室にてリラは知りすぎている者と顔を合わせる。



「...なんでいんだよ...ニンリル...」



ゴンッという鈍い音と共にリラの頭部が丸々木製の机にめり込む。

首が折れるような鈍い音を聞き黙するリラを他所に、ニンリルは何事も無かったかのように話を続ける。



「今回のトカゲ案件はちと学生には荷が重いんでな。

ただ、実際顔を合わせたのは数名の手負いの神騎と、ここでぼーっと突っ立ってる主犯をみすみす取り逃したサラ...

あとはお前らサードしか居ねぇからな。

一応はサブって建前で扱き使うことにした。」



ニンリルの傍若無人たる様を他所に、サラは本命の情報伝達に入る。



「ユノスを知ってる奴なら耳に入ったことはあるかもしれんが、この学園は年一で学内、学外、国外交流ってやつをやってる。

まぁ他クラスとの交流は程々に、基本は国外交流が主だ。

てな訳で...」



教室中央。

両の手を広げても足りないほどの大きな黒板にサラが一枚の地図を広げる。

それは、子供の頃から神を身近に見てきたこの世界の人間であれば、何度も心を震わせたであろうそんな光景...



「行き先は、お前らの故郷。

ダムの故郷であるこの王都を拠点に、ヒノの故郷篝火の里、バアルの故郷産業国インドラ、イザベラの故郷魔法都市エルドラド...」



不意に視線が集まる。

サラとニンリルの不敵な笑みが、脳裏に嫌な感覚を呼び起こす。

ニコニコと気持ちの悪い人の神経を逆撫でするような笑みを浮かべながら、ニンリルがサラと説明を入れ替わる。



「そして、リラの故郷港町アネモス。

以上五カ国を周り地域交流、その傍ら、トカゲの情報収集を行う。

引率は各自治区の純神騎以上...

恐らくトカゲとの接触があるお前らは聖神騎直々に村の案内をするかもだが、くれぐれも外交問題だけは避けてくれ。」



謎のウインクに頬をヒクつかせながら、俺は堪らず椅子から力無く滑り落ちる。



「僕のところは遊牧民だから、多分行く先々で会えるからね。」


「そうと決まれば、旅行の準備だな。」


「はしゃぐなバアル。

俺も、帰省の一報を伝えなければな。」



各々が少し浮き足立ちながら教室を後にする。

残されたサラ、ニンリルに挟まれ、リラは暫しの間力無くその場に伏しているのみだった...



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「さっき、なんでサブでも参加させるなんて言ったんだ。」



「ん?」



リラ達が教室をあとにした後の昼休憩。

先刻の聖神騎会合のことを思い出しながら、サラはニンリルに不満をぶつける。



「イグニが黙ってないぞ。

学生には荷が重いってのはあたしも同感だし。」



スーッと息を吐く音が喫煙所に溶け込んでいく。

既に吸殻を溜め込みすぎた灰皿に新たな白雪を落としながら、ニンリルは静かに呟く。



「少しでも早く、私と同じ景色を見てほしいから...かな...」



ふとニンリルの頭に一人の騎士の姿が過ぎる。

寡黙でありながら情に熱く、愛の溢れた優しい騎士...


いつか隣に立てたらと願っていた夢は叶わない。

だが、あの子もまた、その背中を見て育ったのだ。



浮かぶ煙に言葉はなかった。

だが、久しく見ていなかった少し泣きそうな少女の顔に...

サラは少し...

ほんの少しだけ、煙草の煙が目に染みるようだった...

暑いのでカクヨムでも連載初めて見ました

まとめはカクヨムから見れます

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