3章「学徒奔走」- ①
「イーヤーダー」
「駄目だつってんだろ」
王都イルミンスール外交領。
主に王都への来賓や世界規模の交流のためにありとあらゆる人と物が集まる国の砦。
その中央に位置する「煌華劇場」。
創業から二百を超える年月を重ねる由緒正しい舞台劇場。
多くの人に開かれた場であるために、上流貴族向けの演目から子供の遊戯会まで様々な演目を休みなく大衆に向けて提供し続けている。
「今期はあのヴァルキュリア【楯の乙女】が出るんだよ?
リラも見ようよ。」
「興味ねぇし知らねぇ。」
外部電力との供給と両国の和平のためにインドラから寄贈された電気棟。
その丸太のように太い幹?にしがみつき、子供のように喚くピグと、両の足首を持ち無造作に引き剥がそうとするリラ。
二人の姿は奇怪なものに映るためか、否が応でも視線を集めていた...
「だいたい...
そのウンタラの演目お前二十週以上したって聞いたぞ...」
「わから...ないかな...
歌劇は...ね...
何周でも...たのし...めるから...
いいんだ...よぉ...あっ...」
およそ32分飛んで7秒の激闘の記録を制したのは、ヴァルキュリアの歌劇のために4日前から列に並びその後不眠不休疲労困憊のピグを退けたリラであった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
その後1時間の休憩挟み、諸々の移動時間を込みとして3時間後...
リラとピグは、王都郊外にあるラグナ高原に訪れた。
前回のトカゲとの交戦から2週間にも満たないにも関わらず、激戦の後は無かったかのように荷車が悠々と地を進んでいる。
辺り一面変わらずのどかだ。
だが、自然は形容しがたい重い雰囲気を漂わせている。
「特別変わりは見られないね。
それに加えて放射線濃度も正常値。
ヤーヤー、こいつはダーウィンもびっくりだ。
あれだけの土地の攪拌があったのに微生物ひとつ変わってやしない。」
神威というものの偉大さをやや小馬鹿にしながら、ピグ自身割と乗り気で地質調査に取り掛かる。
結論からいえば、取り越し苦労だった。
地質には大きな変化が見られず、残留する神威も魔物を呼び寄せるほど大きなものではない。
「逆に不気味なくらいだけどね。
戦闘前と今とで驚くほど変化がない。
あれだけのサラ教官の神術で、これほど地形や地質に影響してないなんて...
よっぽど腕の立つ神騎がいたか...
そうでなければ...」
第三者の意図的な関与...
ピクがここまで誘導的にこの答えを導き出したということは、自然をフィールドとする恵土の神騎の中でさえ不可能に近い技術ということになる。
まして、それが第三者の仕業ともなればなおのこと警戒が必要になる。
「仮に第三者の仕業だとして、目的は?」
単純にして根幹を突く問。
この際WhoとHowは後に回す。
Whoは恐らくトカゲ、Howは考えるだけ無駄。
ともすれば、必然的にWhy。
ミステリーにおけるWhy dunnit,の解明が優先されるのだが...
「まぁ、単純に考えるなら証拠の隠滅だよね。
ここを根城にしてるなら、コトを知らない商人なんかに警戒心を抱かせない。
あとは...」
「知られたくないことを調べていた...か...」
「そういうこと。」
単に獲物を狩る目的だけに思えないほど綿密に修復された地形。
地中微生物から放射線濃度までも再現した拘りはなにか...
「あいつら、示し合わせたみたいに群れたよね。
それってさ...」
ピグの誘いに乗り、俺たちはトカゲの幹部と思しき三人が現れた地点から半径1kmに渡り細かく調査を進める。
「こいつは...」
「ビンゴだね...」
出現地点の小高い山からおよそ数百メートル先に離れた小さな水路。
恐らく平面から少し削る形となったサラの神術をギリギリ避け残った唯一の生きた大地の中で、それは、想定しうる中で最悪の形で見つかった。
小瓶の中に取り纏めた微弱な神威の結晶。
その中には、本来その場に居ないはずの神威の輝きがひとつ...
「ダムは、足を踏み入れてないよな。」
「それどころか、僕らのいた地点から神威を撃とうものなら、普通は霧散するよ。
聖神騎がおかしいだけで。」
以下、調査報告。
リラ・ウガリット並びにピグ・ノモス両名による地質調査より、水神騎と思しき神威の残留を確認。
以降調査は、祝水に準ずる水神騎及び退役神騎を中心とした内部調査へと移行するものとする。
3章開幕です
副題「トカゲ編」どうぞごゆるりとお楽しみください




