二章「神騎候補生」- ⑪
サラの調査から程なくして、リラは以前提案されていた任意補佐【バディ】としての初任務を実践していた。
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「部隊編成はお前に任せる。
実施内容は、主にトカゲの痕跡の調査と残党の処理。
EP【EmergencyProtection】は一時的に解除する。常時戦闘可能状況維持ってやつな。
兵装のチェックと作戦共有が出来たら行動開始な。
期間はおよそ一年を想定。
長期作戦にはなるが、拠点は王都になるわけだから気負うなよ。」
大雑把に渡された資料に目を通す。
(トカゲ...)
得体の知れない奴らだが、寄せ集めを容易に切り捨てる周到さは実によく似合った名前だ。
生き残りを尋問にかけようとしたが、体内に爆薬でも仕込んでいたのか尋問官数名が負傷...
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そこからの行動は早かった。
今回の一件での学びもあり、リラはサード全員でことにかかるべき案件だと考え各々に声をかける。
ヒノの場合。
「すまない。
これから別任務が入ってな。
長期作戦ならこっちの任務が終わり次第合流する。」
バアルの場合。
「自主トレあるからパス。」
イザベラの場合。
「論文発表あるからパス。」
ピグの場合。
「歌劇観に行くからパス。
リラも来る?」
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重大な点を見落としていた。
ヒノは兎も角として他の連中のあまりの協調性の無さ...
ひいては、自由人たちが集められた中での俺とヒノの異常性を...
「期待した俺がバカだった...」
イルミンスール中央噴水広場。
王都の中心に位置する最も賑わいを魅せる活気溢れた場所で、この場にはそぐわない怒りと疲労に満ちた雰囲気を漂わせながら、リラはひとり溜息をつく。
「あと声をかけてないのは...
あいつか...
頭使う作戦にゴリラ連れてってもな...」
ぼんやりとあの金髪ゴリラを思い浮かべる。
確かに才能や応用力でならヒノと同レベルには高いだろう。
ただ如何せんこちらも協調性がない。
もっといえば、明け透けに「私はお前を認めないオーラ」が強すぎる。
(私怨を挟むやつとはろくな連携が取れないってのは、実践想定訓練から学んだからなぁ...)
訓練に限った話ではない。
まして軍人に限った話でもない。
実社会において、感情を優先する人間が多くいればいるほど、仕事に支障は生じる。
あいつが嫌い、これがしんどい、なんかめんどい...
積み重なる不協和音は伝播していき、いずれ環境を腐らせる。
(その都度不特定多数の誰かのために他の誰かが被害を被るのはなぁ...)
そう考えていると、後ろから聞き覚えのある不協和音がひとつ聞こえる。
「誰がゴリラだって?」
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腫れ上がった頬を労るリラを他所目にダムはその隣に腰を下ろす。
「ピグから話を聞いてな。
役不足ながら同行しようと思っていたが、私の力は要らないようだな。」
「まぁ、待てよ。
頭数はほしいところだ。
私怨があろうと、我が強かろうと...
今は猫の手も借りたいくらいなんでね。」
そう言いながら、近くの露店で買った(自分が飲むつもりでいた)瓶詰めキュケオーンを手渡す。
「...これは、人の飲み物なのか...」
「文句言うな。
こちとら仕送り込みでこれが限界だ。」
二人揃って何とも言えない粉っぽくボヤけた味に顔をしかめながら暫しの沈黙が流れる。
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「私の家はな。」
「なんて?」
囁かれるような小さくか細い声に、パレードにも負けないデタラメな大声で返したのが悪かったらしい。
再びの沈黙と、先程とは反対方向の頬を擦りながら続きを促す。
「私の家は、所謂貴族の家柄だ。」
貴族と言っても、そこらの辺境伯などとは違う。
由緒正しい神騎の家系。
神・祝水のため、その身を捧げてきた根っからの騎士の一族。
「家、と...
言っていいのかも分からない。」
物心ついた時、父上から聞かされた。
私は、家の前に捨てられていたと。
ご立派にも「立派な騎士となれるように」という置き手紙まであったらしい。
顔も知らぬ親に情など湧かないが、父上と母上の話を聞いた時に察することができた。
年端のいかない私でも、彼らが何故こんなにも心を痛めて、何故こんなにも私に優しくしてくれたのか。
「きっと、実の娘のように思ってくれているんだと思う。」
捨て子を拾う。
よくある話ではある。
王都では聞かないが、バアルの故郷であるインドラ帝国では、捨て子は売り捌かれ、年に数十人は行方不明者が後を絶たないと聞く。
「私は、あんなに優しい人達に少しでも恩返しがしたい。
姉上は私のことをあまり気に入ってはいないようだが、それでも家に迎え入れてくれる。
妹君も、嬉しいことに私に懐いてくれている。」
使用人の者たちもそうだ。
本来なら素性の知れない者など厄を招くとしか言えないというのに...
「私の夢は、家をもっと大きくすることだ。
私自身の手で、名家として誇れる娘であることだ。
そのためにも、私には今武功が必要なんだ。」
握りしめる手に力が入る。
力み過ぎて拳が震えるほどに。
胸の内を晒したのは恐らくリラがはじめてだろう。
己の境遇と正反対を生きる男。
それでも、あの人達の為なら、私は...
「...お前...クソ真面目だな...」
「なッッッ」
リラは、微動だにしていなかった。
泣き落としのつもりはない。
力不足ならそれでもいい。
ただこの男は、一言そういうと不味かったキュケオーンを再度飲み干している。
「武功結構。
繁栄結構。
そもそも不純な動機なんて転がり散らしてるのが神騎だがよ。
家族なんて、迷惑かけてかけられてでいいだろ。」
家族。
血の繋がりが最も大切と人は言うが、そうは思えない。
思いたくもない。
所詮紙切れ一枚。
所詮指輪ひとつ。
所詮血の繋がった赤の他人。
「血にこだわるより、先にやることあるだろ。」
「は?」
ダムの驚愕は本心からだった。
今までずっと自身の抱いてきた負い目のようなもの。
それを血の繋がった他人という一言でこの男は片付けようとしている。
「巫山戯るなよ。
私には、こんな返し方しか分からないんだぞ。
家族として扱ってくれているあの人達に、掛ける言葉がそれか貴様は。」
勢い余って胸ぐらを掴んで睨み合いになる。
たまらず振り払うかと思えば、今度はリラの方から私の鎧の首元を掴んでくる。
「いいか。
迎えられる側がどうかは知らねぇが、こっちはとうに家族のつもりでいるんだよ。」
ニンリルの時もそうだった。
変に空回りして、トレーネといらない溝まで創りそうになった。
「歩み寄られて離れるくらいなら家族やってねぇわ。
家族になろうとしてるのに、お前から壁作ってどうすんだよ。」
互いに沈黙が走る。
先程のような気まずい空気ではなく、あからさまな殺気がその場を支配する。
暫しの硬直の後、互いが手を離す。
「とりあえず、一時間後。
兵装準備して商業地区に集合。
以上解散だ。」
拉致があかないとでも言ったように、リラは荷物を取りに宿へ戻る。
ただ一言。
先程の言葉だけが、針を刺すように彼女の胸を締め付けるのだった。




