二章「神騎候補生」- ⑩
一帯に夜の帳が舞い降りる。
否、雲の帳が夜を「引き寄せる」。
「これが、神の騎士の頂か...」
男の言葉は誰にも届かず、ただ凄まじい引力を前に言の葉すらも舞い忍ぶ。
「我、天に在りし星のヨスガ也。
光<アサ>、闇<ヨル>、狭間<タソガレ>...
天地万物境界を知れ。」
崩壊星【ホロウ】
人を、大地を軽々と呑み込む程の巨大な力。
視認できずとも、皆が確かにそこに得体の知れない何かが「ある」と感じる程の巨大な引力...
「ふぅ...」
刹那の後...
花草の栄えた緑の大地は硬く乾いた赤土を残し、暗雲の立ち込めた空から徐々に陽光が射し始める。
ただ引き寄せるだけ。
そんな彼女の芸ひとつない圧倒的な力を前に、唯の一歩も歩みを進めない立ち姿がひとつ...
「大したものだ。
神秘って奴は総じて、馬鹿の集まりなのか。」
いや、確かに神秘の神術は計り知れないものが多い。
ただそれは、人の観測しえない事象であるからこその「無知ゆえの恐怖」からくるものだ。
だが、サラは違う。
彼女は「無知」故に恐怖を知らない。
圧倒的なまでの「個」の力と、絶対的なまでの他者への「無理解」。
ラインを知らない。
引き際を知らない。
故に、サラスヴァティは「加減」を知らない。
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「生きてるか...」
「かろうじて...な...」
既に荒野と化した大地の中、蠢く影が数個...
前衛組のリラ、バアル、ヒノ...
こちらに対し敵意を持った影が三つ...
ダム、イザベラ、オスカー、ニーファの四名は、いずれもサラのすぐ近くに居たためか難を逃れていた。
「純神騎【ノア】から報告があった...
神騎より格上の奴らってのは、あんたらで間違いなさそうだな...」
サラから放たれる強烈な殺気...
なまじニンリルからの手ほどきを受け続けていたリラですら刹那臆するような刺さる殺気...
(ニンリルの殺気が喉元に当てられた百を超える刃だとするなら...)
差詰、サラの殺気は研ぎ澄まされた剣山のようだった...
「うーん、事を荒立てるとは言ってもさ。」
黒装束に目深くフードを被った者が三名...
その中で体格が一回り小柄な者が独り言をつぶやく。
(事件は起こすが、事故はごめんってことか)
リラ、ヒノ、ダムの直感は当たっていた。
いくら純神騎とタメを張れるとしても、この場で聖神騎【パラディン】を相手取るのは向こうとしても計算外だったのだろう。
「一先ず引くぞ。
追っ手が来た。」
三人の中で最も背の高い男が聞き取れないほど小さな声色で呟く。
見れば、先ほどのサラの引力により合流部隊までもがこの場に集結しつつあった。
暫しの均衡。
手の内、素性...
全てが未知数の相手との戦闘は、呆気なく...
されど、確実にこちらの戦意を昂らせる形での幕引きとなった。
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馬車が進む。
先ほどのサラの力に負け、もはや木屑と化しかけていた荷車は、ダム、ピグ両名の造形により、先刻よりも寧ろ輝きを増す形で王都へと運ばれた。
あれから一週間。
サラや、囮作戦に参加していた純神騎総勢七名による調査を行ったが、奴らの足取りは掴めなかった。
今回の一件を通して、全神騎及び神騎候補生に通達が届く。
「敵は強大だ」と。
内情を知る者は少ない。
だが、聖神騎と純神騎から逃げおおせたという異例のニュースは、神の騎士を志す者にとって大きな緊張を与える事件となったのだった...
不定期にはなりますがボチボチ更新していきますので気長にお待ちください




