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【書籍2巻9/25発売】追放後の悪役令嬢は、森の中で幸せに暮らす~うさぎの呪いを解きたくない~  作者: かのん
第二章

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21話

 ゆっくりと目を開けると、そこは昨日通った道ではなかった。


 祭壇の前であり、祭壇の前には黒い精霊達が空中を飛び回っている。


「ちゃんと帰って来た」


「治せるんだろうな」


「嘘はいけない」


「早く治せ」


 空気が、ぴりぴりとしており、息をするのすら憚られるようなそんな雰囲気であった。


「治したら、この紋を消してくれるのよね」


 私がそう尋ねると、精霊達が私の周りを回し始める。


 空気がどんどんとなくなっていくような息苦しさに私は胸を抑えた。


「う……うぅぅ……」


 恐ろしい。


「精霊神様がお認めになったら」


「きっと消してくれるよ」


「さぁ早く」


「「「「「早く」」」」


 こちらを焦らせるようなその声に、私は呼吸を整えると、精霊神の元へと向かう。


 そして、その口元に、瓶に入れて持ってきた薬をゆっくりと流しいれていく。


 元気になりますように。そう、祈りを捧げながら飲ませた。


 だが……。


 何も起こらず、何も変わらない。


「薬は……その通りに作ったのに……」


 全身が気だるい。


 力が入らず、私はその場に座り込む。


 早く帰らなければならないのに、私の全身に精霊の紋が広がっていく。


「ねぇ……私……どうなるの?」


 息が苦しくなってきた。


 レイス様にも、ルカにも帰ると言ったのに……。


「「「「「「約束破りは眠るんだよ」」」」」


 眠る……どれくらい?


 目覚められるの?


 急にどんどんと怖くなってくる。


 私は、もう帰れないのだろうかと不安になって、涙が溢れてくる。


「帰り……たい」


 聖女の能力を測定すると言ったのに。


 それだけだと思っていたのに……どうしてこうなってしまったのだろうか。


 何か私はいけないことをしたのだろうか。


 帰ると約束したのに、約束を破る私を、二人は許してくれるだろうか。


 涙がぽたぽたと零れ落ちていく。


 一人は寂しい。それを私はレイス様に出会って知ってしまった。


「帰りたい……レイス様のところに」


 傍に居たい。


 すると、私がこぼしたその涙を受けた花々は咲き誇り、そして突然緑の清涼な風がまるで渦を巻くように吹き続ける。


 空へと花々が舞い上がり、風によって黒い光を纏う精霊達も宙へと舞い上がっていく。


「わぁぁぁぁあ」


「めがまわるぅぅぅ」


「こわぁぁぁぁぁい」


「とめてぇぇぇぇぇ」


「精霊神様ぁぁぁぁ何怒っているのぉ!」


 何が起こっているのだろう。


 ただ、目がかすんで良く見えない。


「あぁ。可哀そうに……すまないね」


 視線をあげると、そこには精霊神と呼ばれる方が立っていた。


 私の頬にそっと手を当てた瞬間、木々の香りがした。


 土の匂いと花の匂い、そして優しい風の香り。


「あとほんの百年ほどあれば、自分で病を消化できたのだけれどね。うちの精霊達が、迷惑をかけたようですまないね」


 空色の瞳は美しく、私は自身の体から精霊の紋が消えていることに気付く。


「あ……消えている」


「すまないねぇ。精霊の紋を聖女にこのように使うとは、あの子達は十年ほどあのままにしておこうねぇ」


「十年!? あ、あの、私は怒っていませんので。どうか、お許しを」


 私は姿勢を正して立ち上がると一礼をする。


 視線を合わせてはいけないと思った。


 すると、精霊神は優しく微笑みを浮かべ、私の頬にそっと触れる。


 「清らかな魂をもった聖女よ。慈悲をありがとう。精霊達は私が叱っておくからね……私が少しへまをして魔障病を患っている間に、酷い目に合わせてしまったようで、すまないね。……聖女にこんな怪我を負わせるなんて思わなかったよ」


 オリビア達によって焼かれた私の頬を、精霊神は撫でた。その瞬間に、頬が優しい光で包まれ、引き攣っていた肌の感覚が消えた。


「え?」


 頬に触れてみると、でこぼことしていた頬の感触が、元の肌へと戻っていることに気付く。


「ふふ。君の黒猫のルカが、少しは癒していたようだね。私の力が不十分だった故に、あの子にも辛い日々を送らせてしまった」


「辛い、日々?」


「人間とは恐ろしいね……私の愛を受けて生まれたルカを、神殿に閉じ込めてその聖力を搾取するのだから。夢で、ルカの幼い時に会わせたことを、覚えているかな」


「あ……」


 私はその時になって、はっと思い出す。


 真っ白な空間にいた、幼い男の子のことを。


「あのままでは、あの子が壊れてしまうところだったから。君と心を繋げたんだ。あの子の心を助けてくれてありがとう」


 あれは……ルカだったのか。


 それと同時に、神殿に閉じ込められていたと言うことに、私は驚きを隠せない。


「……そんな」


「聖女のおかげで、私が目覚めたからもう大丈夫。ふふふ。神殿から、悪い子は追い出してしまおうね。あぁそうだ」


 私が顔をあげると、精霊神が私の首にかかっていたネックレスに口づけを落とした。


「聖女はとても優しい恋人を選んだのだね。このネックレスから、君への思いが伝わってくる。ここに私の守護を込めたからね」


 精霊神はそう言うと、私のことを抱き上げた。


「さぁ、行こうか」


「どこへ……あ、あの、以前帰ったら、十時間後とかだったのですが、今度も、元の場所に戻ったら、その位の時間になりますか? 急いで帰りたいんです! レイス様も、ルカも、私の帰りを待っているはずなので」


 慌てて尋ねると、精霊神はうなずく。


「ふふふ。すぐに帰りたいのだね。分かったよ。では、元の時間へと、道を繋げよう。あぁ久しぶりに力が上手く使えてよかった。聖女にもルカにも不便をかけてしまったなぁ」


 次の瞬間、光に包まれる。


「精霊神さまぁぁぁぁ」


「とめてくださいー」


「お願いしますー」


「うわぁぁぁぁぁ」


「聖女はゆるしてくれたのにぃぃ」


 精霊神はくすくすと笑う。


「ちょっとは反省しておきなさい。聖女をあれだけ泣かせたのだから」


「「「「「ごめんなさいーい」」」」」


 光の道を歩きながら、私は尋ねる。


「あの、大丈夫でしょうか……」


「大丈夫。あの子達にとってみれば、ちょっとしたら遊びに変わるからね。だが、嫌わないであげておくれ。悪意はないのだよ」


 悪意はない。


 それが最も恐ろしいのではないかと私は心の中でそう思ったのだった。


「精霊神様も……病気になるのですね」


 ふと気になってそう尋ねると、どこか遠くを見ながら答えは帰って来た。


「魔障を全部呑み込んだからね」


「え?」


「まるっと全部」


「全て……ですか」


「うん。呑まないと、人間はすぐにたくさん死んでしまうから。私だったら、まぁ数百年眠るだけだから」


 人の計り知れない存在なのだと言うことが、伝わってくる。


「まぁそのせいで、力をうまく使えなくて色々困ったけれどね。さぁ、出口だ」


 光の輪を精霊神様がくぐった時、そこはレイス様とルカのいた場所であり、二人は息を荒くしながら、

神官達と対峙していた。


 きっと二人であれば神官を倒すことは容易だろう。


 ただ、操られている以上、下手に傷をつけられないと思ったのだと思う。


「レイス様! ルカ!」


 私が二人の名前を呼ぶ。


「ミラ嬢! 無事でよかった」


「やっとかよ。おせーよ」


 二人は私に視線を向けた後に、精霊神様へと視線を向け驚いた様子で固まる。


「まさか……」


「……クソ神。今更姿現しやがったのか……」


 レイス様はその場にすぐに跪こうとしたが、襲い掛かってくる神官を慌てて薙ぎ倒す。


 その様子を見た精霊神は、手をオリビアの方へと向けた。


 それを見て、私は思わず精霊神を見上げて言った。


「私の、妹なのです……」


「……はぁぁ。聖女とは優しすぎていけない。分かった。では、能力の間引きと……あと、お返しだ」


 精霊神は、オリビアの方へと視線を向けたまま、手を開きそれから握りしめた。


 次の瞬間、オリビアが悲鳴を上げた。




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