9話
馬車が違えば乗り心地も大きく違う。
レイス様のご家族が貸してくれた馬車は、すごく乗り心地が良い。
私はレイス様と向かい合って馬車に乗り、窓の外を見つめる。
「本当に、良かったのかしら」
「ん? どうしたんだ?」
「レイス様のご家族のご好意は嬉しいけれど、やっぱり、王族所有の森を住まいに貸してもらうのは……気が引けるわ」
「あー。私としても、出来れば王族の管轄地域に君の家を建てようと思っていたからな。だが君は森が好きだろう? 管轄地域よりも、今回提案してもらった森のほうが、前に住んでいた森と似ているし、君にとってはいいと思うぞ」
「えぇ。それは……そうね」
王城にしばらく滞在していた私とレイス様だったけれど、この度住まいを移すことになった。
私が森に住みたいと思っていることを知ったレイス様のご家族から、王族所有の森に住んではどうかと提案があったのだ。
その森には、王族の避暑地として利用する森であり屋敷があるという。
「いいのかしら」
「ははは。いいんだよ。管理は使用人がしているから避暑地用途だったけどここ最近は誰も行っていないからな」
「そう……それなら良いのだけれど」
王城から一時間ほど馬車で走ったところで、その森にはついた。
森に入ってしばらく進んだところにあり屋敷は、石造りの壁の美しい外観であった。
「素敵」
「中の掃除はされているはずだ。使用人を連れてくることも出来たが、君は嫌だろう?」
「えぇ。そうね」
「この森の周辺には、魔法具が設置されていて、許可した人間でないと入れないようになっている。だから安全性も高いのだ。父上達がここを提案してくれたのにもそれが理由の一つだな」
「そうだったの」
「君は聖女だ。だからこそ、安全な場所でなければな。この屋敷は様々な魔法具が設置されているから、それらの使い方もあとで教えよう」
「ありがとう」
荷物をレイス様が持って下さり、私たちは屋敷の中へと向かって歩いていく。
扉は木製であり、装飾が見事だ。
私はレイス様から受け取った鍵で扉をあけ、中に入り声を上げた。
「わぁぁ。綺麗な屋敷ね」
「君の森の家ではないけれど、いいだろうか?」
「え? ふふふ。もちろん。あ、そうだわ。レイス様、荷物を置いたらこれの契約を解除しましょう」
「ん?」
「前に森で魔法の羊皮紙で契約を結んだでしょう。もう、不必要なものだから」
「あ、そういえばそうだったな。ふっ……これが君と私との始まりのようで、なんだか解除してしまうのが寂しいな」
「ふふ。そうね。でもこの契約書、契約解除後は再利用できるから」
「……再利用」
「人生何が起こるか分からないでしょう? さ、すぐにすむから荷物置いたら解除しましょう」
「あぁ。分かったよ」
荷物を置いた私達は、机に羊皮紙を広げて契約を解除する。
魔法で浮かび上がっていた文字は消え、私はその羊皮紙をくるくると丸めると、談話室にあった棚へと片づけた。
屋敷の中は家具も全て揃っており、使い勝手もよさそうだ。
「さぁ、屋敷を案内するよ」
「あら、楽しみ」
レイス様が流れるような所作で私をエスコートする。
こういうところは、王子様だなと思い少しドキドキとしてしまう。
「一階が基本的な生活スペースと調理場と風呂場とがある。二階は、図書室と音楽室と絵画室とがあるんだ」
「……さすが、王族の避暑地の屋敷ね。私が住んでいた家とは大違い」
「嫌か?」
「嬉しいわよ。もちろん」
あの小さな家は、私を守ってくれたとても思い入れのある場所だ。
だが、それはそれこれはこれだ。家は綺麗で広い方がいいに決まっている。
私とレイス様は、これから一緒に住む屋敷を一部屋一部屋一緒に回っていったのであった。
そんな私達を、黒い小さな影が森からじっと見つめていることなど、この時の私は思いもしなかったのであった。
やっと新居の森にたどり着きました(●´ω`●)
森で幸せに暮らそう!






