8話
暗い、闇よりも暗い世界。
何も見えず、自分が今どこに居るのかさえ分からない。
目を覆う装具を付けられ、外そうとしてみたが、取れることはなかった。
「ねぇ……ねぇ、誰かいないの? お願い。お願いよ。寂しいの。誰か……」
手探りで床を触ってみても、何もない。そして、触って触って、たどり着いた格子らしきところに手を
かけ、声を上げる。
「助けて。お願い、助けてよ……」
その姿をじっと見つめる男は、優しい声色で問いかけた。
「ここから出たいですか?」
「誰……え、えぇ。ここから出たいわ」
縋るように格子から手を伸ばす。
その手を、男は優しく握ると言った。
「では、出して差し上げましょう」
「本当に!? あぁ、あぁよかった。良かったわ」
「処刑台に行きますか?」
「え? しょ……処刑台? い、いや、いやいやいやいやいや!」
男に握られていた手を急いで格子の中へと戻すと、出来るだけ離れようと、部屋の奥へと這いながら進んでいく。
その姿を滑稽だなと、男は見下ろしながら告げた。
「処刑台は嫌ですか」
「嫌よ。私は、私は、死にたくない」
「では、私の手を取りなさい」
「……処刑は嫌よ」
「えぇ。ただし、貴方に自由はありませんし、私の命令には必ず従ってもらいます」
「え? で、でも、私」
「ここにいればいずれは処刑されますが?」
「い、行くわ」
男はうなずくと、仲間と共に牢屋から連れ出すと人目をはばかりながら裏口から出て用意していた馬車へと乗せた。
馬車はゆっくりと走り出し、月の輝く夜の道を進んでいく。
「どこへ……行くの。ねぇ、目隠しを外してくれない?」
男は静かな口調で告げた。
「洗脳の能力については、こちらで把握済みですよ。その対策も我々は取っておりますからね」
「……何も、しないわ。ただ、ただ、暗闇がもう嫌なだけ」
「わかりました」
目に着けられていた目隠しの装具を男は持ってきていた装置を使いゆっくりと外す。
頭が軽くなり、瞼をゆっくりと少しずつ、開いていく。
「あ……あぁぁぁぁぁ」
世界が見える。
月を見上げて、女の唇は弧を描く。
「あぁ、綺麗……」
それから視線を男へと向ける。
「私の言うことをこれからなんでも聞いて」
真っすぐに重なる視線。男は冷ややかな瞳で答えた。
「洗脳の能力はね、私には効きません」
「……どうして?」
「種明かしするつもりはありませんよ」
「どうして私を助けてくれたの?」
「ふふふ。さぁ、どうしてですかね」
助けてくれた。
その言葉に男は腹の中で笑い声をあげる。
バカで頭の悪い女というのは、本当に扱いやすくて助かる。
「貴方って不思議な人ね」
容易くこちらに気を許して笑顔を向ける姿に、男は何も言葉を返さない。
馬車は、月明かりの中、静かな森の中を走り抜けていった。
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