23話
「ヴィクター様。気になることがあるわ。いくつか質問しても?」
「え? えぇ」
「オリビアの能力についていつ知ったの?」
「婚約をしてしばらくしてからです。僕の周囲にいた人が、次々にオリビア様に心酔していって、気づけばオリビア様の言うことをなんでも聞くんです。それでおかしいなと思って、父に相談しました。すると少しオリビア様と喋っただけで父もオリビア様にのめりこみました。父は厳格な人です。女性だろうと男性だろうと公平。そんな父の異変は僕にとって衝撃でした。それから僕はオリビア様を観察するようになり、そして、気づいたんです」
「ヴィクター様が洗脳されなかったのは何故?」
「この眼鏡のせいだと思います。最初はオリビア様と会うのが恥ずかしくて、それでこれを付けていたのですが……このおかげで洗脳を防げました。そこからある程度の仮説を立てて、試したのです。オリビア様と同じ空間にいること、視線が一度でも合うこと、肌が触れること。そうしたことが発動条件のようです」
そのことを聞き、私は眉間にしわを寄せる。
「どうして、私は効かなかったのかしら……」
「可能性ではありますが、姉妹で血が繋がっていることで、もしかしたら少なからずミラ様にもその力があるのでは……もしくは、ミラ様がこれまで触れてきた薬草の中にオリビア様の力を防ぐ効力のあるものがあったか……これについては実験をしてみないとわかりませんね」
「そう……ね」
「えぇ……今でこそ、やっと少しずつ僕の言っていることが信じてもらえ始めて、国王陛下にもその可能性を考えてオリビア様とは面会しないでほしいとお願いをしているのです。ただ、その証明ができなくて……」
先ほどの証明とはそのことだったのかと思う。
「……ミラ様の言葉であれば、きっと国王陛下も耳を傾けてくださいます。これまでもミラ様の行方を国王陛下は大層心配しておられました」
「陛下が……」
「はい」
私はしばらく考え込むと、証明の方法について考える。
証明とは言ったが、私は自分の無罪は主張することは出来るが、それが証明というには証拠が足りなすぎる。
では何が一番確実な証明になるのだろうか。
「……洗脳を解く方法は……ないものかしら」
「……」
ヴィクター様は、その言葉に一度動きを止める。
「ヴィクター様?」
「……一つ心当たりがあります」
「それは?」
「ミラ様が追放された後、ローゼウス殿下の体調が悪化された時、どうしてもオリビア様がすぐにこれない時があったのです。その時、本当にローゼウス殿下の容体が悪く、医師がとある薬を飲ませたのです。すると、その時、一瞬ローゼウス殿下が正気に戻ったような気がしました……」
「気がしたとは?」
「悲鳴を上げ、オリビア様を呼ばれました。ですがその時、私は確かに聞いたのです。ローゼウス殿下がミラ様に謝っている声を、自分はなんという過ちを犯したのだと叫んでいる声を……」
一呼吸おき、ヴィクター様は言った。
「私は、現在王城にて国王陛下の元で働いております。ですからその時も、国王陛下に報告するためにローゼウス殿下の容態を見守っていたのです。後ほど医師に確認を取ったところ、飲ませた薬はミラ様の調合したものだと、誰にも言わないでくれと言いながらも話してくれました」
「……私の薬……」
「はい」
しばらくの間私はじっと考え、それから顔をあげる。
「ローゼウス殿下は……オリビアの力で、体調が良くなっているわけでは……ないのですよね?」
「はい。おそらく一時的に洗脳で押さえつけているだけではないかと思います。なので、オリビア様の洗脳が弱くなると、顔色は真っ青になり、息も上がり、今にも倒れてしまいそうです」
「……なるほど。では、こういうのはどうでしょうか」
私は、覚悟を決めて二人に向かって自分の考えを話し始める。
「国王陛下にまず、会わせてください。そこで、私は自分が無罪であることをお伝えします。そしてその上で、国王陛下にローゼウス殿下にオリビアを引き離すことができるように命じていただきます。オリビアには気づかれないように引き離し、私はローゼウス殿下に薬を飲ませ治療を試みるのはどうでしょうか」
そう告げると、ヴィクター様は大きくうなずく。
「それは、いい案です。そうですね。……ミラ様が薬を作れば! それで殿下を治療して下されば! 解決に向かうかもしれません!」
私もうなずき返そうとした時、柔らかい手が、私の手の上にぽんっと置かれた。
視線を下げると、私の横にいたレイス様の手が私の手の上に置かれていた。
こちらに向ける視線には心配の色が浮かんでいる。
「……ミラ嬢」
一言名前が呼ばれ、私は、怖いという思いが溢れ出てしまいそうだった。
今でさえ、本当はヴィクター様と喋っているだけで、ずっと体が震えそうになっている。
人が怖いし信じられない。
私の心の中は、あの日、顔を焼かれた日から止まってしまっていた。
だけれど、レイス様と出会って、レイス様だけは……大丈夫だと、そう思えた。
何故なのだろう。可愛らしいウサギだからなのだろうか。
最初はそうだった。
可愛くて、ふわふわしていて、自分を傷つけない。
だけれど次第にそれは、その見た目でなくても、この人は自分を傷つけない、そういう思いに変わっていった。
レイス様が傍に居てくれるなら、私も頑張れる。
そっとレイス様の手を取り、私は笑みを向ける。
「大丈夫よ。レイス様が一緒にいてくれるから、だから、大丈夫なの。ありがとう」
「無理はしないように。ミラ嬢がキツそうであれば、強制的に止めるからな」
「ふふふ。過保護ねぇ」
「あぁ。私はキミを大事にしたいんだ」
「……そう」
私はそれ以上は考えるのをやめ、そして今回の一件に集中する。
ヴィクター様と話を詰め、そしておおよその流れが決まった時であった。
レイス様が耳をぴくぴくと動かす。
「誰か来るぞ」
その言葉に、ヴィクター様は慌てて眼鏡をかけ、レイス様はクローゼットに隠れた。
私は深呼吸をして顔に笑顔を貼り付けたのであった。
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