24話
「はぁ。ここまで案外遠いのよね。ヴィクター様。面倒なのだけれど……」
オリビアが隠し扉を使って現れそう言い、ヴィクター様は立ちあがると恭しく頭を下げて謝罪する。
「申し訳ございません。ですが、こちらの方が良いかと。執務室の横ですと、他の方々も来る可能性がありますので」
「まぁ、そうね……ふふふ。お姉様のお披露目は盛大にしたいから、しばらくは秘密にしましょ。今、ローゼウス殿下ともお話してきたわ。数日後にある舞踏会で、お姉様のお披露目式してあげるわね」
その言葉に、ヴィクター様が驚いた顔で言った。
「お披露目式ですか?」
「えぇ! お姉様を披露する手はずも考えたわ! お姉様にはね、舞踏会に参加してもらって、そこで自分の罪を自白した上で、償いたいと私の元に来たという話をしてもらうの! ね? お姉様!」
私は貼り付けた笑顔のままうなずいた。
「もちろんです。私の罪を自白し、聖女様にお仕えいたします」
「ふふふ! あぁ気分がいいわ。私、ずーっとお姉様が大嫌いだったけれど、今では大好きよ。お姉様。惨めな姿がとっても素敵」
我が妹ながら恐ろしいなと思う。
聖女の力が仮に今のオリビアのような洗脳であり、洗脳の力が聖女の力だというならば、三十年前の聖女もオリビアと同じだったのだろうか。
聖女は神殿にて神託が落とされると聞く。そして神殿はその乙女を探しオリビアだとされたのだ。
神殿に落とされた神託というものを聞いてみたいと思った。
「聖女様は、神殿に選ばれた聖女様です。私の罪を許して下さる寛大さに、感謝いたします」
神殿について何か聞き出せないかと思いそう言うと、オリビアが嬉しそうに笑い声をあげた。
「あぁ……神殿ね」
くすくすと笑いながらオリビアは楽しそうに言った。
「神官長様ったらね、私の手を取って、おおぉ、なんと神々しい聖女か! って言ったのよ。皆びっくりして、それで私が神の神託による聖女だって判明して、あぁ、あの時、本当に気持ちが良かったわ。それにしっくりも来た。あぁ、私が聖女だから、皆私のことを好きになってくれるのねって。昔はちょっと不思議だったのよね」
オリビアは、自分を聖女だと信じて疑わない。
そして自分の能力が洗脳だとは、おそらく思っていないのだろう。
会話をしていてそれはしみじみ伝わってきている。
「そうなのですね。さすがは神官長様。聖女様をすぐに見つけたのですね」
「えぇ。あの日は王城の庭に散歩に来ていたのだけれど、そこを神官長様が通りかかってね、私と目が合ったの。不思議よね。目が合った瞬間、神官長様は真っすぐに私の方へと歩いてこられたのよ……そして聖女と私を呼んだ。ふふふ。今思い出しても最高!」
一瞬、目が合っただけで。
ぞっとする言葉であった。
「さすがは聖女様でございます」
私は頭を下げると、嬉しそうにオリビアは私の頭をくしゃくしゃと撫でた。それから、私の顎を掴むと顔を上げさせ、楽しそうに笑う。
「あぁ。無様」
笑顔を貼り付けた私のことを見つめる。
「この焼き痕を付けた時も最高だったわねぇ。痛かった?」
「いいえ。私の罪ですので、当たり前のことです」
「あはは! そうよねぇ。醜い顔。さて、貴方の衣装も注文しておいてあげるわ。罪人にぴったりの黒いドレスをね。ヴィクター様。それまでこの人の世話をよろしくね」
「はい。かしこまりました」
「もう。ヴィクター様ってば、私のことが大好きで、今では私の侍従みたいなこともやってくれてすごく助かるわ! ありがとうね!」
「いいえ。滅相もありません」
「それじゃあ頼んだわよ」
そう言うと、オリビアは部屋を出て行き、私は大きくため息をついた。
私の元へとレイス様はぴょんぴょこと駆けてくると、心配そうに私の顔を覗き込む。
「大丈夫か?」
「えぇ。もちろん。吐き気はするけど……でも、大丈夫。その代わり、ちょっとぎゅっとさせてちょうだい」
「ん? あ、あぁ。それくらいなら」
「ありがとう」
私は、先ほどオリビアに触れられて吐きそうになってしまっていた気持ちを落ち着けるためにレイス様をぎゅっと抱きしめる。
それから先ほど気になったことを尋ねた。
「ヴィクター様、侍従みたいにこき使われているの?」
その言葉にヴィクター様は眉間にしわを寄せてうなずいた。
「はい。国王陛下の命に従っていましたら、いつの間にか……ですが、あちらの様子も見たかったので丁度よかったんです……」
「なるほどね」
「あの、ずっと気になっていたのですが、その……お二人はどういうふうに出会われたのですか? そして、その、今のご関係は?」
おそるおそるといった様子でそう尋ねられ、私はふっと笑う。
「森の中で、殺気を放つしゃべるウサギを見て、私、すぐに貴方のことが思い浮かんだのよ」
「そうなのですか……私が獣化の呪いについて研究していると御存知だったのですね」
「えぇ。だから、すぐに貴方が思い浮かんだわ。まぁ、拾った当初は可愛いウサギさんを抱っこしたいと言う思いの方が強かったけれどね」
レイス様をぎゅっとしながらそう言うと、うめき声が聞こえた。
「うぅ。女性に可愛い可愛い言われるのは、なんとも言えない。私はかっこいいと言われたいのだ」
「あら。でもレイス様は人間姿も可愛いわよ」
「え!?」
ヴィクター様は声を上げた。
「ま、まさか解除薬の作り方もご存じで?」
「えぇ。服用し始めて二週間が経つから、後少しで完全に戻れると思うの」
「すごい……確かに本には載せていますが、実際に作るのは本当に大変な作業なのに……」
そうかしらと私は思う。
材料は森で揃えられるし、薬を作ること自体も順番と材料と作り方さえしっかりと覚えていれば大変なことではない。
以前、ローゼウス殿下の薬を調合するにあたり、どこかにヒントがないかと読み漁っていたからこそ覚えていた。
それが功を奏したのだ。
「さて、話を戻しましょう。私は舞踏会で披露されるようだから、すぐにでも決行した方がよさそうよ」
「はい。では、国王陛下の元へと行きましょう。緊急の為、事前連絡は省きます」
「えぇ」
「ミラ嬢。私のことも国王陛下に伝えてほしい。あと、出来れば国に無事だと手紙を送りたい」
「それはそうよね。分かったわ」
私達は急ぎ、隠し通路を使って国王陛下の元へと向かったのであった。
最近、炭酸ジュースが美味しい季節になりました(/ω\)
体重はね、まぁ……ね?
大丈夫大丈夫。
小説読んでくださる皆様に感謝です!






