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突然ですが、娘ができました。2  作者: ほととぎす
第1章の6 中学3年生編 (痴漢事件)
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顛末と残される問題

縁達が待つ店へ向かう梨桜。

そこで今日のいきさつが語られる。

  【顛末と残される問題】


 僕らが駅前にあるその寿司屋に着くのと、梨桜が父親の車で来るのはほぼ同時になった。

 さっきの電話の様子から、彼女が怒っているのは明らかで、それはそのまま自分の未熟さ故でもある。

 何か一言、彼女に伝えていれば・・・

そう思いながら店の駐車場に停めた車から彼女が降りてくるのを待った。


「ごめん、連絡遅くなって。中でちゃんと説明・・・」


そこまで言った時、彼女が真っすぐこっちに駆け寄ってくる。

そして・・・


「あ・・・あのさ、梨桜?」

てっきり怒っているとばかり思っていた。

僕に駆け寄ってきたから、叩かれることも覚悟していた。

しかし・・・


「心配した。心配したよ、バカ。」

やっぱり相当怒っていた。

ただ、それは僕のことを心配した故での事だった。

彼女が愛おしい、心からそう思い、その背中を抱きしめた。


「悪かった、ちゃんと言っとけばよかった。

 ただ、ほら、みんないるから・・・」


 しばらく小さく震える彼女を撫でていると、ようやく少し冷静になったようで、涙を拭きながら離れてくれた。


・・・


周囲の視線が突き刺さってくるようで、なんだかとても身の置き場のない状況の中、みんなで店の暖簾をくぐる。


「よう大将、さっき電話したんだが、二階は空いてるかい?」

「へぃらっしゃい! 空いてるよ! 7名様二階の『雅』ごあんなーい!」


・・・


 皆がお茶を啜っている間、僕は話の糸口をさがした。

今この場には、事情を全く知らない二人の女子がいる。

また、他の人たちは先の殺人未遂事件までの経緯を全部知っている。


「まず、ちゃんと謝りたいと思います。

 梨桜、本間さん、ごめんなさい。事前に説明できなくて。」

「俺は今からしてくれれば別にいいよ。

 今日起こったことなんだろう。仕方がないさ。」

「・・・うん。説明して。縁。」


「それから、絵里沢さんと渡辺さんも驚いたと思います。ごめんなさい。」

「あ、良いって良いって。」

「道兼もありがとう。助かった。」

「うん。」


・・・


「事の発端は、去年の10月に梨桜さんが誘拐未遂に遭ったところに始まります。被疑者らは今裁判中ですが、有罪や有期刑はほぼ堅いと思っています。ですが、彼らはただの実行犯であり、残念ながらその主犯へはたどり着けませんでした。捜査の詳細は分かりませんが、実行犯にとってはネットを経由した営利目的の犯行であっただろうと予想しています。主犯の目的は彼女を拉致監禁すること以外にありません。

 さらに事件は続きます。11月、僕と梨桜さんが不良グループに絡まれてしまいました。というのは簡単ですが、相手には明らかな殺意があり、間もなく殺人未遂事件として裁判に入ると思います。そしてこの段に至り、ようやく主犯と目される人物を確保する事が出来ました。もちろん主犯だと考えているのは僕の主観だと思ってもらって構いません。

 その時点で、その人物の逮捕あるいは家裁送りは確実だと思っていました。なぜなら、その不良グループとの密会写真もあったからです。彼が不良グループを利用して僕らを襲わせたのだと思いました。

 ところが、今日の始業式にその主犯と目される人物が登校しているのを目にした僕はとても驚きました。すっかり少年院に入ったものだと思っていたので。それで、そのことを聴きたいと、ここに居る剣崎さんに連絡を取ろうとしたのですが、繋がりません。その後の経緯は少し端折りますが、僕は剣崎さんが何らかの事件に巻き込まれているのではないかと考えました。

 そう考えている時に、ふと頭に浮かんだのが『今朝妙に密着してくる女子高生がいた』という事です。

 結構混んではいましたが、密着しなければならないほどではありませんでした。朝の時点では、『子供の僕をからかっているんだろう』くらいにしか考えていませんでしたが、剣崎さんの件と重ね合わせるとぴたりとパズルのピースがハマったような気がしました。

 そして、痴漢のでっち上げ事件があったのではないかという仮説を立ててみる事にしました。

多分皆さんが思う以上に痴漢事案に対する捜査は一方的です。極端に言えば、言われたら即負けに近い現状すらあります。と言うと捜査関係者のように聞こえてしまって申し訳ないのですが、昨今気になるニュースが後を絶たないので、いろいろ調べてみているのです。

 さて、つまりその位でないと元警察官である剣崎さんを陥れることは難しかろうと言うのも理由の一つでした。

 それくらい、潔癖を証明する事が難しい事案ですので、相当堅い証拠を持って臨まねばなりません。

 ですから、今朝の事が僕を狙っての事なら、必ずまた仕掛けてくると考え、お二人と、道兼に動画の撮影をお願いしました。

 また、相手の犯行を促すためには、僕の身辺には知人がいないほうが良いという判断もしました。

 結果、幸運にも彼らは僕をターゲットとして行動し、女子高生二人と、社会人二人のおそらく計四名が関与した犯行であっただろうと予想しています。また、幸いなことに、剣崎さんを襲った事件も同一人物だったらしくその潔白も同時に証明されました。これは本当に不幸中の幸いでした。

さて、ここで問題になってくるのが、剣崎さんと僕が狙われたのが偶然なのか?という点ですが、こんな偶然がある訳はありません。主犯の目的はあくまでただ一人、それを手に入れるために邪魔者を排除していくと言う考え方に基づいているんだろうと予想しています。


 とりあえず、現時点までを纏めると以上です。」


 僕は一息にそこまで喋り、みんなを見回した。

と、丁度その時。


「失礼いたしまーす。」

「お、来た来た。まずは腹ごしらえと行こうぜ。

 今日はほんとにありがとな。土井さんにもえれぇ迷惑をかけるとこだった。」


 事件の話をとりあえず横に置き、皆出されたお寿司を口に運び、舌鼓を打つ。剣崎さんお薦めの店とあって、本当に旨かった。


予想以上の重い話に、なかなか話を切り出す人がいない中・・・


「相変わらず、すげぇな、お前の頭は。

 今すぐ刑事の報告書でも書けそうだぜ。」


 そう言って剣崎さんは僕の頭をごしごしと撫でた。

僕は警察官を目指すのをやめたんだけどな、だけどそれはまた今度話しておこうと思う。


「とするとだ、縁君。

 前回の暴行事件同様に、今回も実行犯と彼を結びつけるのは難しいと言う事だね。」


「そうなるなぁ。前回の件じゃ、家宅捜索までやってるんだ、それで何にも出なかったって事がちょっと分からねぇんだが。」


「そうですね。パソコンその他の端末や、周辺機器も徹底的に調べたでしょうし、家では何もやっていないのは間違いないでしょう。

 とすると、どこでやったか、やっているかが疑問です。

一昔前ならネットカフェとかも考えられたんですが、今は身分証も必要ですし、監視カメラもいたる所にある。まず違うと思って間違いないでしょう。そうなると、まさか、親が会社のパソコンを使って犯罪の片棒を担いだりは・・・?」


「それは無いと思っていいな。今時、会社のPCで自由にネットを閲覧できるところなどたかが知れているし、そうであってもなくても監視されている。また、外部メモリーなんかも規制されている会社が殆どだからね。」


「あぁ。それに当然あの時親も事情を聴かれたはずだ。おかしいとなりゃ親の会社だって調べられるさ。ま、一般論としても、ガキの犯行を幇助する親が居るとは思えねぇわな。」


「それなんですが、梨桜さんを誘拐した後、どうするつもりだったと思いますか?」


「あぁ、前言ってたやつな。なーに、イイ子にしていたら、『静かに勉強できるところが欲しい』くらい言っておきゃぁ、別荘の一つくらいあの家なら金銭的にも余裕じゃねーかな?。」


「なるほど。」


 こんなことがあっても、あいつを追い込む事が出来ないとは・・・

それとも、本当に彼は無関係なのか・・・?

 そんな事さえ頭をよぎった。


  ◇ ◇ ◇ ◇


「お邪魔してもよろしいでしょうか?」


 話が少し行き詰る中、部屋の外からそう声が掛かった。

男性の声だが、何とも透き通っており、どこか聞き覚えがある。


「どうぞ。」


 静かに襖が引かれ一人の男性が姿を現した。

この気配には覚えがある。

杠さんの家に居た使用人・・・御庭番・・・そう言った人物だ。

その黒髪は肩で切りそろえられ、目は切れ長にして静かに私を見据えている。


「お初にお目に掛かります。伊織静と申します。」


 そう言って静かに腰を折る。

一部の無駄も隙も無い動きだ。


「お会いするのは初めてですね。確か杠さんのお宅にいらした・・・」


私がそう言うと、彼はそっと微笑み、


「さすがは、焼山の黒天狗のお弟子様、姿を見せずとも分かりましたか。」


 そうとんでもない事を言ってくれる。

焼山の黒天狗?

なんじゃそりゃ?

それに私は誰の弟子になった覚えもないぞ?


「えーと、良くわかりませんが、私はごく普通のサラリーマンでして、天狗にも師匠にも心当たりがありませんが・・・。」


「はい。ではそう言う事で。

 この度、剣崎様には大変な災難に遭われたとか。

 謹んでお見舞いを申し上げたいと思います。


 さて、皆さまが今ご懸念されている事につきまして、実は少々心当たりがございます。ただ、所謂『証拠物件』なるものはその入手方などいろいろな制約もあるかと思いまして。」


「ああ。その通りだな。証拠品なんてもんは正しい手順と経路で入手されなきゃ何の価値もねぇ。」


「左様でございましょうね。

 ところで、梨桜様。小学生のころ、とてもしつこくあなたを慕っていたご同輩、今どちらにおいでかご存じですか?」


「えっ?

 えーーっと・・・戸田君ですか?

 さぁ・・・分かりませんけど。」


「彼は今隣県の公立中学校に通っています。

 どうしてかというのが若干皆様の懸念していることと繋がってくるのですが、彼はその当時、ちょっと居づらくなるような噂を立てられてしまい、そうするしかなかったと言う事のようですね。」


「んーー、よく分かんねぇな。それが俺たちの事とどう繋がるんだ?」


「彼のお宅、実はご懸念されている家の隣なのでございます。」


「ん?」


「そうか! 本郷は小学生のころから梨桜さんのことが好きだった。彼女に絡むその戸田という生徒は邪魔だった。だから彼が良からぬ噂を流して、戸田を追いやった、そう言う事ですか?」


「そうなのかもしれませんね。」


「でも、じゃぁ戸田にとって彼は敵では・・・

 いや、あいつは普通じゃない。中学生で警察の追及をかいくぐったような奴だ。戸田を排除しつつ、逆に彼に近づいたとか。」


「今、その戸田家では、その子をまるで我が子のようにかわいがり家にも上げているようですよ。」


「じゃぁあれか?その隣の家でいろいろやってたってーことか?」


「さて・・・。

 それで、これは先ほど剣崎様が申されたとおり、何の物証にもなりえないのでしょうね、表の世界では。ですので、後は皆様にお任せいたします。」


そう言って彼は小さな外部メモリーを静かに置いた。

その動作も、まるで空気のごとくだ。


「彼はなかなかしたたかです。証拠品が廃棄される前に行動なさいませ。

 それから、本間様にはまた近いうちに。」


 そう言って、静かに腰を折ると退出していった。


 私達は皆無言でその後ろ姿を見送る事しかできなかった。

あまりに現実離れしたその存在に。


お立ち寄り、ありがとうございます。

ご指摘の点等ございましたら、どうぞご遠慮なく。


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