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突然ですが、娘ができました。2  作者: ほととぎす
第1章の6 中学3年生編 (痴漢事件)
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縁の思惑、梨桜の苦悩

たった一粒の種から、一つの筋書きを起して事件に向き合う縁。


一方、訳が分からない梨桜は不安にかられ・・・

  【敵か味方か】


「剣崎さん、分かるでしょ。これだけ状況揃ってるんだ。

 認めちゃいましょうよ。」


 剣崎鉄二、彼はおおよそ一週間が過ぎた今でも、まだ信じられない気持ちでいっぱいだった。


突然背後に近寄ってきた女子高生が、突然自分を痴漢だと言い出し、あろうことかそれを見たという別の女子高生まで現れたのだ。

 彼の脳裏に真っ先に浮かんだもの、それは最近になって増えて来たと思われる『示談金詐欺』

彼の両手はずっとつり革と手すりを掴んでおり、近くの会社員にはそれを十分証明してもらえると思っていた。


 ところが。


『すみません、人の事なんて気にしてませんでした。』

一人はそう言い、

『掴んでいたと思いますけど、ずっとだったかどうかわかりません。』

もう一人はそう言ったのだった。


 真正面と真横にいながら、そんなことがあり得るのか?

彼は今の人たちがそれほどまでに無関心なのかと思う反面、まさかこいつらもグルではないだろうか?そんなことまで頭をよぎった。


 しかし、そこはそれ、彼は元警察官である。

今、現時点で自分は『現行犯逮捕』されたわけではない。

そう思いなおす。


誰が何と言おうと、無実を主張し続け、降って湧いた災難を回避せねばならない。自分の経験から言えば、この手の犯罪は必ず繰り返される。目の前のJK二人も一度の成功に味をしめて、繰り返し犯行に及んでいるに違いないのだ。


 痴漢及びその冤罪について、いろいろ世間を騒がせた報道もあったが、その半分ほどは事実だと彼はみている。


 今の自分のように『痴漢だと叫ばれたらほぼアウト』の現状が残念ながら一つあり、ほんの10年ほど前には、『監視カメラにつり革を掴む手』が映っていたにもかかわらず、『有罪判決』となるような事例すらあったのだ。

 その理由が驚くべきことに『監視カメラに手が映っていなかった僅かな時間がある。その間に触っていないとは言い切れない』という何ともあきれ果てた理由からだった。

それほどまでに、日本においては『痴漢事案』に対して厳しかった。


 しかし、昨今の詐欺事件等の犯罪増加に伴い『それなりに客観的に見ようとする風潮』が生まれているのも頼りなくはあるが現状の一つある。


それを踏まえたうえで、今この現場において決してしてはいけないことが、いくつか存在する。

 一つに、『触れたかもしれない』と弱気な発言をする事。

 二つに、『正々堂々と駅員室で釈明する』などという事。

 三つに、『名刺などを置いて、この場を立ち去る』などという事。


そして、これは決して口には出せないが、

『逃げられるものなら逃げたほうが良い』というのは残念なことに一つの事実だとも考えている。もっとも、いたるところに監視カメラのある現状、それをかいくぐり逃げおおせる事はたやすくはないのだが。


 さて、すなわち今この現状で自分が取りえる手段、それはたった一つしかない。

現場を動かず、『そんなことはしていない』という態度を貫く事。


 小遣い稼ぎのために人を犯罪者に仕立て上げようとするクソガキどもにはきつい拳骨をくれてやる。


  ・・・


 そのはずだった。

しかし、いま彼はこうして古巣である神川南警察署で取り調べを受ける立場となっていた。


「悪いが、やってないものはやってないとしか言えねぇよ。

 それより、俺の手の繊維検査はちゃんとやってくれたんだろ?」


「ええ、もちろんです。残念ながらなにも出ませんでした。

 ですが、それじゃぁやってない事の証明にはならないんですよ。

 それくらい知っているでしょう?」


「ああ、もちろんだ。それからな、こういう取り調べも俺相手にぁあ無意味だって分かってるだろ。やってないもんはやってない、以上だ。」


 聴取を担当していた西村は、剣崎のその表情から、今日もここまでか・・・そうため息をつき、時計を確認して打ち切ることにした。



  ◇ ◇ ◇ ◇


 昼休み、僕は少しだけ貸しを作っておいた二人の女生徒にお願いごとをする事にした。そう大したお願いではないが、これは男子より女子の方が適任だと判断した。その後、保険のために道兼にも協力を仰いでおく。

 後は、僕の想像が当たっているかどうか、だ。


  ◇ ◇ ◇ ◇


「ねぇ梨桜、彼となんかあった?」


お昼休み、二人で窓の外をぽけ~っと見ながら、ついさっきまで雑談していたはずの紗奏が、不意にそう言ってきた。


「えっ? ん~~・・・

 ・・・ん~~。 うん。」


「あはっ。やっぱり。

 いつもとちょっとだけ感じ違ったもんね~。」


するどいなぁ・・・。

何にも違わないと思っていたんだけど・・・そう思い正面の親友を見やる。


(告られた。)


 正直に、だけど誰にも聞こえないように、唇の動きだけでそう伝えた。


(やっぱり。)


2人で目を合わせて笑いあう。


「で、どう? やっぱりまだな感じ?」

「う~~ん、・・・気になるようになった。」


(きゃ~~、り・お・の~・は・る・だ)

(笑)


「なんだなんだ~、また二人でイチャイチャと~。」


「あ、美沙~、後で話すね。」


「おーけー。ところで、道兼見なかった?」

「あ、さっき縁と二人で出てったよ?」

「そっかそっか。

 ところで、どうだった、ブクマ?」

「すっごい楽しかったよ!

 ほらコレとか・・・」


・・・それから、そのときに撮った写真なんかを見て貰いながら久しぶりに3人でお昼休みを過ごした。



  ◇ ◇ ◇ ◇


 放課後、家路を5人で歩いている。

「初めてだね~、一緒に帰るの。」

「うん。梨桜たちはちょっと高嶺の花だからね~。」


「高嶺の花って!(笑)」


「うそうそ。それより、ブクマのお手伝いありがとう。

 あれから結構いっぱい応援メッセ貰ったよ。」

「ううん。初めてだったけど、とっても楽しかった。

 誘ってくれてありがとう。

 それから、漫画すっごい良かったよ。続きも読ませてね。」


「嬉しいこと言ってくれちゃって~~。

 その気になっちゃうよ~~。」


・・・


 そんな話をワイワイしながら歩いていると、あっという間に駅に着く。

楽しい時間は早く過ぎるな。


 ちょっと用事があると言うので、駅で二人と別れて3人でホームに向かう。

電車を待っていると・・・

「あ、電話だ。ごめん、次ので行くから、先に行ってて。」

「うん。じゃ、駅でね~。」


 縁に手を振り、紗奏と二人で電車に乗り込んだ。


  【炙り出される犯人】


 しばらく電話を掛けるふりをしながら、人待ちのようなしぐさで周囲を確認する。絵里沢さん、渡辺さん、少し離れた位置に道兼の存在と、『その人』を確認したところで、電話を切る素振りをして前を向く。

 さすがにこれは偶然じゃないな。そう疑いを強める。


 電車が滑り出してまもなく、その女子高生は僕の方に接近してくる。

それから、およそ3分後・・・


「この人痴漢です!」


後ろの女子高生が突然そう叫んだ。

思った通りだ。これで一連のことがだいたい読めてきた。

問題は、相手が『何人いるか?』だ。

それを確かめねばならない。


 僕はさっと振り向くと、

「それは僕の事ですか?」

一応確認のためそう聞いておく。


「あたりまえでしょ! 私のお尻触ったくせに!」


「僕の右手はこの通りずっとつり革ですし、左手は鞄です。」


「私もはっきり見てましたよ! 今はつり革を掴んでますけど、

 さっきその手でその子を触ってました!」


 その女子高生の少し離れたところから、援護射撃が加わった。

 なるほど、この子も仲間か。

さて・・・電車は間もなく次の駅に到着だ。


「もうすぐ次の駅ですから、降りて貰っていいですか?

 僕は痴漢なんてしていませんので。」


 彼女たちは待ってましたとばかりに頷き、汚物を見るような目で僕を睨んでいる。さて、僕のすぐ近くにいる会社員風の人たち、本来なら『僕の手がつり革を掴んでいたこと』くらいすぐにでも証言してくれるはずの彼らがだんまりを決め込んでいるのは、どうにもおかしい。


 僕が中学生なのは明らか。対するあちらは高校生なのが明らかだ。

こんな時『普通の人が冤罪の可能性が高いような場面』に遭遇したらどうするのか?『被疑者』がビジネスマンなら、関わりたくないと無視する人も多かろう。しかし人はその場の強弱関係を微妙に勘案して行動してしまうものだ。この場合は勿論僕が『弱者』に映るはずで、おかしいと思ったならば声を上げてくれる人が殆どではないだろうか?すなわち、僕の周りの幾人かも『彼女らの仲間』である可能性がある。


 扉が開き、僕と女子高生二人、それから僕の周りにいた内の二人も電車から降りてくる。

 向こうの扉からは僕の味方3人が。


(ちゃんと梨桜には電話してくれただろうか?)

それが気になった。


「申し訳ありませんが、録音させてもらいます。」

まずそう断りを入れてから、彼女たちに正対する。

「それで、僕があなたを触った、というのは確かなんですね?」

「しらじらしい! 何言ってんの!

 電車走り出してすぐ触って来たくせに!」

「うん! 私も見てたよ。中房のくせに痴漢だなんて!

 ろくな大人になんないよ! 今のうちに叩きなおしてもらえ!」


 まずはその言質を取り、会社員二人に向き直る。

一人はビジネススーツを着た男性、もう一人は同じくビジネススーツの女性だ。

「お二人は僕のすぐ近くにいたと思いますが、僕の手がつり革をずっと掴んでいたのを見てましたよね?」


「いや、悪いけど他人の手まで見てないわ。」

「私もよ。違うのなら助けてあげたいとは思うけれど、ごめんなさい。」


 二人の言葉の温度には明確な差がある。女性の方は興味本位で降りて来たのかもしれないな。

 だが、男性の方の発言はおかしすぎる。他人の事は無関係というような物言いをするならなぜわざわざ電車から降りて来た?本来ここで下車するようには見えなかったが。

少なくともこいつは共犯だな。そうあたりをつける。


すると、何やら向こうが騒がしくなり、警察官が駆けてくるのが見えた。


(違ったか。)

そう直前の思考を訂正する。

この女性も共犯の可能性が高い。女子高生も、男性ビジネスマンもスマホを手にしてはいない。周りの人たちがそれをするとは思えない。であればこの女性の方が通信役だったのだろう。

この場で丸め込んで駅員室まで連れて行ければそれでよし、そうでないなら即警察を呼ぶと言う手はずだったようだ。


「痴漢被害にあわれた、というのはあなたですか?」

「はい! この中学生に痴漢されました!」


「周りの方たちは事情を知ってらっしゃる方々ですね。

 お手数ですが、署の方までご同行願います。」


彼はそう言うと、警察無線に手をやろうとする。


「すみません、少しだけいいですか?

 僕はそんなことはしていないと言うのですが、彼女がそうだと言って聞かないものですから、こうして録音もさせて貰っています。

 恐れ入りますが、官姓名を聴かせていただいてもよろしいですか?」


「あぁ、中学生には思えないね、君は。

 私は駅前交番勤務の一池というものだ、階級は巡査だよ。」


そこまで言うと、また無線に手をやろうとするので、また付け加える。


「実はこれは予想していたことなので、僕の友達が録画してくれています。」

そう言って右手を高々と上げると、人だかりの中から3人が歩み出てきた。


一池巡査は唖然として、

正面の女子高生二人は何が言いたいのか分からないと言う仕草で、

そして、その横に立っていた会社員の二人は、あたかも関係ないから・・・とでも言わんばかりにこの場を離れようとする。


「お二人もこの事件の関係者ですよ、一池巡査が良いと言うまで離れられません。」


僕はそう言って二人の足を止める。


「その通りです。あなた方二人も、そこの女子高生が痴漢されたという現場に居合わせたのですよね?であれば、事情を聞かせて貰えるまで帰すわけにはいきません。」


「ちょっと待ってくださいよ、俺は関係ないでしょ。それを見たとも見なかったとも言ってないんだから!」


「申し訳ありませんが、それを判断するのは我々です。」


「だから、それは任意でしょう!」


「この案件自体がほぼ『現行犯』の様相を呈していますので、目撃者もこの場の関係者とみなされます。いわゆる参考人です。基本的に帰すわけにはいきませんが、帰られるなら住所氏名を聞かせて貰いますし、後ほど必ず事情を伺いますよ。」


 一池巡査にそう言われて、口をつぐむ会社員。

女子高生二人は既に顔を青くして固まっている。


 もし、この二人を帰そうとするなら、証拠隠滅の恐れがあると進言しようとも思ったのだが、どうやらその必要はなかったみたいだ。


 それにしても、ただの中学生相手にこの囲みはありえない。

先の件が相当堪えている証拠だろう。

 剣崎さんもこの手にやられたと仮定した場合、同一犯かどうかが彼を救えるカギになるのだが・・・。


駅の階段を降りて来たところで、サイレンの音が聞こえて来た。


  ◇ ◇ ◇ ◇


「よう~、縁。」

 そう言って、彼は片手を軽く上げこちらへ歩いてきた。


「お前に助けられる日が来るとはなぁ。」

 

「いろいろと運が良かったです。

 でも、無事でよかった。」


「なっさけねー話よ。あんなガキにまんまとしてやられるとはな。」


「仕方ないですよ。まだまだ痴漢事案は言ったもの勝ちですから。

 男をはめるなら一番手っ取り早い。」


「お二人とも、署内で雑談はさすがにちょっと。(苦笑)」


「あぁ、悪いな。今の署長は岸本さんだっけか?

 宜しく言っといてくれ。」


 5人で、警察署を後にする。


「今日はほんとにありがとな。

 詳しく話を聞きてぇが、疲れたろ?

 平気なら何でもご馳走するんだが?」


「え~~っと、凄く貴重な体験をさせてもらいました。

 それと、全っ然疲れてなんていません。お寿司食べたい!」


「ちょ、ちょっと美織!」


( (笑) )


「君は?やっぱり疲れたか?」


「え~~っと、だ、大丈夫です。

 すみません、なんだか事情はよく分からないんですけど、ご馳走になります。」


「僕もだよ、縁。ちゃんと説明してもらうからね。」

「あぁ。」


「おしっ。

 それじゃ、行くか。

 すぐ近くになじみの店があってな。トロが絶品だ。」



  ◇ ◇ ◇ ◇


 警察署を出て駅前までの道を5人で歩く。

その道すがら、まずは連絡せねばとスマホを取り出した。


「もしもし。」

 その声を聴いた瞬間、安堵と、そして罪悪感が込み上げてきた。

この一連の事は彼女に話していない。


「もしもし、縁です。連絡遅くなってごめん。」

「ううん。平気。大丈夫?」

「痴漢に間違われて。でももう大丈夫だから。

 それで今、剣崎さんもいるんだ。」

「そなんだ。助けて貰ったとか?」

「うん。そんな感じ。それでご飯食べに行こうってなって。

 ・・・その、道兼と、絵里沢さんと、渡辺さんもいたりして・・・。」


「・・・。

 なにそれ? 状況よくわかんないんだけど?」


怒ってる。それも凄く。


「出てこられる?詳しく話したい。

 ダメなら、僕は直ぐ帰る。」


「・・・分かった。何か理由がありそうだね。

 お父さんもいるし一緒に行く。」


 何も言わなかったのは失敗だった。

かなり怒っていた。これは付き合う前から玉砕か・・・。

そんなことを思い、顔を上げると4人がこちらを見てる。


「あ、えーっと、ちょっと梨桜さんに電話してた。」


「そりゃ聞いてりゃ分るんだが・・・」


「なんか浮気した旦那みたいだったよ、土井君。」


「梨桜さんには何も言わなかったのか?今日の事は?」


「あぁ。相手に気付かれたくなかったから。

 だけど、まずったな。かなり怒ってた。」


「梨桜さんがいたら、相手も手を出しづらかっただろうしね。大丈夫、話せばわかってくれるさ。」


分かってはくれるかもしれないが、僕の信用は地に落ちたかもしれない。

そう考えるだけで、死にたくなってきた。


  ◇ ◇ ◇ ◇


 信濃駅前で縁を待っていると、スマホが鳴った。

相手は安藤君。私の頭を不安がよぎる。


 話を聞いてみると、縁が痴漢に間違われたけど、そんな事をしてないのは自分たちが見ていたから大丈夫との事だった。

『僕たち?』それは安藤君と美沙?


・・・なんだかひっかかる。なぜだろう?


辺りをくるりと見回すと、ベンチに山崎さんが座っている。

ボディガードのローテーションは分からないけど、大抵は剣崎さん。あとは山崎さんと、西岡さん、高村さんが私の知っているメンバーだ。先の援交事件も彼らのおかげで解決できたようなものなのだ。


「今日は、いつもありがとうございます。

 ちょっとお話いいですか?」


「あぁ。少しならな。

 あまり気安くすると、俺らの意味が薄まっちまうしな。

 それで、どうした?」


「今ちょっと、安藤君から電話で、縁君が痴漢に間違われたそうなんです。大丈夫みたいですけど、何か聞いています?」


「いやー、俺は聞いてねぇなぁ。

 ま、あいつがそんなことする訳ねえし、目撃者もいるなら大丈夫だろう。」


「そうですか。

 あと、剣崎さんって今日はお休みでした?」


「あぁ、しばらくの間は俺が担当だ。大丈夫だぞ。」


「あ、そういうんじゃなくて、ちょっと気になったものですから。」


「さ、間違われたとはいっても、案外時間がかかるかもしれねぇ。

 帰ろっさ。」


・・・


 家に帰っても、どうにも家事が手に付かない。

洗濯ものはネットを使わないものだけ放り込んでスイッチを押しておいた。ご飯は・・・お父さんには悪いけど、今日は出来合いのものにしよう。


 それにしても、痴漢に間違われる?中学生が?それもこんな近距離で?

 なんだかとっても不自然だけど、だからこそ凄く気になる。


そもそも・・・彼と安藤君の異様なまでの注意深さにはいつも驚かされているのだ。電車やバスでは手は必ず見える位置まで上げている。それに女子の傍には決して立たないし。


それに、『僕たちが見てた』って言うのがさらに不自然だ。

それはきっと安藤君と美沙なんだろうけど、どうも傍にいたようなニュアンスじゃなかったように感じた。ちょっと遠くから見ていたような・・・なんでだろう?


・・・。

   ・・・。


そっか、『痴漢してないのを見てたから』安藤君は確かそう言ったはず。だからそう思ったんだ。

傍にいて見ていたなら、その手が上にあることを見ていたわけで『痴漢したのは彼じゃない事は証明できるから』とかそんな言い方になったはず・・・。いや、わからないけど。


でも、じゃぁなんで同じ車両の離れた位置に?

一緒に乗る時はたいていかたまっているのに?


・・・疑問や不安が募る中、玄関のチャイムが鳴った。


  ◇ ◇ ◇ ◇


 縁のことについてお父さんと話をしていると、またスマホが鳴った。

今度かけて来たのは彼だ。


 その声を聞いた時、安心したのと同時に、意味不明なもやもやに包まれた。


 話を聞いてみると、なんとその場には剣崎さんと安藤君の他に、何故か美織ちゃんと茉莉華ちゃんがいるんだとか。


なんだか訳の分からない事になっているみたいで、とってもムカついてきた。私だけがのけ者にされて何かが進行していたような気がしたからだ。


 電話を切り、事件のことをお父さんに告げて、一緒に出掛けることにする。


 そこではたと気づいた。

私、まだ着替えてもいなかった。


・・・


 車の中で改めて『冷静になれ』と自分を戒める。

彼がやることはほとんどが私のためだ。今回、何かをやったのだとしたらそれもきっと私のためで、私が彼に怒りを感じるのは本末転倒というものだと思う。それに、怒る時はしっかりとその原因を見なさいってお父さんに言われたことがある。

 今の私の怒りの原因は、彼が何をやったのか知らなかったと言うところからきているはず。それは単に私のわがままだ。そして、それだけじゃない・・・二人の女子がその場にいたと言う事も原因の一つだ。でもそれはそれこそ偶然だったのかもしれない。たとえ彼女たちの帰り道がその電車でなくったって、駅中で『用事があるから』と言って私達と別れていたからと言って、偶然じゃないとは言えないじゃない。


・・・いや、それはさすがにないよね。どう考えても偶然じゃないし。


 そう、多分彼女たちの言う『用事』は今回のことに絡んでいる。だから私は・・・嫉妬・・・しているんだ。

 でもきっと・・・全部私のためなのに。


もう!この感情の行き場はどうすればいいの!


お立ち寄り頂きありがとうございます。


もしよろしければ、ご感想やご批判など頂けるとありがたいです。


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