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突然ですが、娘ができました。2  作者: ほととぎす
第1章の6 中学3年生編 (痴漢事件)
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疑念

いないはずの彼が学校へ来ていた。


訝しむ縁は剣崎に連絡しようとするが繋がらず・・・

  【疑心】


 月曜日、ようやく正月気分の抜けた通りを歩き、3人一緒に電車に乗る。

今日はいつもよりだいぶ混んでいるみたいだ。


 電車に揺られていると、すぐにその違和感に気付く。


 後ろにいる女子高生が嫌に密着してくる。

混んでいるとはいえ、前腕長ほどの空間は取れるはずなのだが。

そう思いはしたが、自分の方がほんの少し梨桜のいる前の方へ詰めることで後ろとの距離を解消する事にした。


「今日はいい天気だから、紗奏と美沙は歩きかな?」

押さえた声で梨桜が聞いてきた。

その距離は30センチほどしかない。

息がかかる程の近距離だ。


「どうかな、寒いからね、こっちかも。」


彼女たちが電車に乗るのは大体半々くらいだ。

それもそのはずで、駅まで、学校までの歩きと電車の時間を入れたら、普通に歩いてまっすぐ学校へ行った方が多少は早いくらいなのだから。だからと言って2キロ近くの道のりは、女子にとってちょっと遠く感じてしまうのだろう。


「 「おはよ。」 」

「 「おはよう。」 」


 次の駅で二人が乗ってくる。

いい天気だとはいえ、やはり結構冷えるからな。


乗り込んでくると、美沙は道兼に守られるような位置を取る。

これ自体はいつものポジションなのだが・・・

この混み具合からか普通にくっついてる。


頼むぞ、道兼。

僕らはまだ中学生だからな。

理性を保ってくれ。


そんなことを思っていると、また後ろの女子が押してきて、必然的に僕の方も梨桜にくっついてしまう。

僕の口元にはそのしなやかな黒髪が・・・・・・。


 やれやれ、これは他人ごとではないな。

改めてつり革を強めに握りなおして、そう自戒する。


それをみた紗奏が軽く笑ったような気がした。



  ◇ ◇ ◇ ◇


 学校の靴脱ぎの先、受付横には今日の室温が書かれてぶら下げてある。

15度を下回ると(14度以下で)ストーブを点けても良い事になっている。

今日の室温は8度、温かく過ごせそうだ。


 先にいた信濃中では私立という事もあってか、16度以下で暖房が入っていた。2度というのは僅かな差にも感じるが、体感的には結構大きい。11月も中旬を過ぎると寒い日が多く、生徒たちの間から不満が聞こえてきたので調べてみたところ、一昨年改定された基準では、『17度~28度が望ましい』となっていた。


 なるほど、よく考えられているものだな。


・・・


 始業式へ向かう廊下で、僕は目を疑った。


本来いるはずのない人物がいたからだ。

僕の頭に警戒音が鳴り響く。


あれから『体調不良』という理由で2学期中休んでいた、本郷一夜だ。てっきり少年院に収容されたものだとばかり思っていたが。


 これは早々に剣崎さんに聞いてみなければいけないな。


・・・


 始業式の後、2限を終えての休み時間、さっそく電話をかけてみる事にした。

校則違反だが、そんなことは言っていられない。


しかし・・・


 『現在おかけになった電話は電波の届かないところにあるか、電源が入っていないためお繋ぎする事が出来ません。』


 僕の中の不安はさらに高まる。よもや彼ほどの人物がそう易々と不覚を取るとは思えないが、繋がらないと言うのはどうもおかしい。

 次いで、交代で来てくれている山崎さんにかけてみる。

一応連絡先を聞いておいて本当によかった。


「もしもし、山崎ですが。」

「もしもし、土井一明の息子の縁と申しまして、梨桜さんの同級生です。」


「おぉー、坊主か、どうした?」

「はい。野暮用で剣崎さんに連絡を取りたいと思ったのですが、繋がらなくて、何かあったのかと。」


「あぁ。なんか知らんがしばらく姫のガードをお願いするって連絡は来たけどな。」

どうやら彼も詳しくは知らないらしいが、何かあったのは間違いない。


「それが、あの時捕まえて貰った本郷ですが、学校に来ているんです。あれだけのことをやっても保護観察程度なんでしょうか?」


「あいつが学校に?そりゃ何の冗談だ?

 俺ぁなんも聞いてねぇけど、少なくとも殺人未遂の教唆、加えて略取誘拐の教唆もあったんだろ?どう低く見積もっても年少行きか、普通なら逆送だって視野に入ってくるレベルだぞ。」


「僕もそう思います。でも実際に学校に来ているんです。

 どういう事が考えられるでしょう?」


「可能性としてあるのは、ガサかけても何にも出なかったって場合だが、それでも『略取誘拐の教唆』が消えるだけで、こっちは奴が不良グループと話してるとこだってしっかり撮ってる。それから、まぁこれは内緒の話だが、殺意があったことはやつら自身が認めてるんだ。普通に考えりゃ、殺人未遂の教唆は当然逃れられねぇ。だが、それすら無いとなりゃ、不良グループの方がそれを否定してるってこったな。だがそりゃねぇ話だ。そんなことをする意味がねぇし、仮に『言わないことを条件とした高額の報酬』なんて約束があったにしても、あんなガキどもが易々と逃れられるようなヌルイ取り調べはしねぇ。」


「そうですよね。僕もその辺までは考えました。

 警察官にしらを切り通せるのは、気合の入ったヤクザ位のものだと思います。

 それで、じゃぁどうして不良グループが本郷とのかかわりを否定するのかって考えた時に、彼ら自身が本郷に指示されたとは思っていないんじゃないかって。そう言う考え方は変でしょうか?」


「そりゃどういう事だ?」


「不良グループはもともと僕らに遺恨がありました。だからそもそも本郷が僕らに危害を加えるよう依頼をしたりする必要はないと思うんです。それに、傷害とはいえ少年犯罪でしかもおそらく保護観察程度で済んでますから、本郷が彼らの事や僕らとのかかわりを知り得るとは思えない。では、彼らと本郷が偶然会ったのかと言われれば、そうも思えません。なら、どうしてそれを知りえたのかも気になりますが、本郷としては、もともとある火種に油を注ぐだけでよかったんじゃないかなって。それが剣崎さんが撮ってくれた密会写真の現場だったんじゃないかって。どうでしょう?」


「ちょっと待ってくれよ、頭を整理すらぁ。

 ・・・

    ・・・

 すると、縁はあれか?

 あの不良グループは、心底本郷もカモったと思っている、お前はそう考えるんだな?」


「ええ。それで一応の話の筋は通ります。

 どうやったか分かりませんが、本郷は彼らと僕らの事情を知り、彼らに接触し、上手にたきつけると同時に、上手に金を奪われた。彼らにとってみれば、本郷をカモにしたおまけに、僕らの通学路や住所なんかも聞きだし、大満足だったんだと思います。

 ただ、一応の筋は通っていますが、そんな取ってつけたような話を警察が信じるかと言われればちょっとそうは思えないんです。」


「うーん。こうやって話を聞いていると、そうおかしな話にも思えんが、実際にあった状況を積み上げるとサツ官ならまず信じねぇわな。

第一に、2度とも偶然本郷が学校を休んでいること、

第二に、自分が絡まれた相手をつけて縁達が絡まれる現場に居合わせたこと、中学生の心情として第二は特にあり得ねぇ。」


「ですよね。でも、証拠が無いから警察としてはそれ以上追及できなかった、という事かもしれません。誘拐依頼はほぼ間違いなくネット経由だと思いますが、それも自宅PCや端末を使わないなら、足はつきません。金銭授受はなかなか難しい点かとは思いますが。」


「だな。だが高々中坊がそこまで考えるとは思えねぇんだよな。」


「そうでしょうか?

 母さんが言ってましたが、誘拐した後どうするのかって考えた時に、当然監禁する場所が必要で、小規模な都市ならともかく神川県のような規模の都市のしかも街中では難しい。となれば郊外のどこかという事になり、親も絡んできていて同意を得られているとなります。でも、そんな親が居るのかって言うのがまた新たな疑問になるんですが、ひょっとしたら彼は何らかの理由で人心掌握や、意識誘導に長けているのかもしれません。」


「なるほど。言われてみりゃぁその通りだな。

 麗子さんも相変わらずだと見える。

 ほんと、勿体ねぇ警察官を退職させたもんだ。

 それから、縁も将来は警察官になるんだろ?

 期待しているぜ。」


「いえ、僕は警察官を目指すのをやめようかと思っています。

 ちょっと個人的な理由なんですが、出来るだけ家に居られる公務員を目指そうかと。」


「あぁ。そういうことか。

 ちっ、隅におけねぇ。

 ともかくだ、縁の考える通りだとするなら、なかなか手ごわいかもしれんし、どんな手を使って来るかもわからん。剣崎さんの事は俺も調べてみるが、お前も十分注意してくれ。それからな、護衛の人手は増やすぞ。」


「すみません、ありがとうございます。」


  ◇ ◇ ◇ ◇


 不思議なもので、人と喋っていると自分の考えが整理されていくのが分かる。今話した内容はほとんどが推論だが、蓋然性は低くないと思う。反対に、本郷がこの一連の事と全く無関係だと仮定した場合の不整合が多い。


 最初の仮定で推論を進めていったときに齟齬が生まれる場合は、その最初の仮定そのものが間違いである可能性が高い。

 反対に、ある仮定で推論を進めていき齟齬が無いなら、そのまま推し進めてしまう方が効率がいい。

 僕は改めて本郷が主犯だと言う仮説に基づいて、現状把握と今後の行動を決めていく事にした。


・・・


 まず第一に、剣崎さんに起こった出来事と、それを引き起こした手段はどういったものであるのか?

また、次に狙われるのは他のガードマンか僕自身であり、それらを取り除いた後に梨桜が狙われるだろうと言う事。

なぜなら、これらを取り除かない限り梨桜に手を出すのは困難だとこれまでの事で学んでいるはずなのだから。


 剣崎さんの腕前から、物理的に排除するのはかなり難しい。

それこそ、拳銃でいきなり息の根を止めようとでもしない限りは大人数人でかからないと相手にはならないだろう。何かが起こった故山崎さんに連絡をしたことを思えば、そうした状況ではないと考えられ、脅された可能性が最も高い。


では何を?


 彼は既に妻とは別かれており独り身で、一人息子も東京にいると聞いている。いずれにせよ脅すにしたら弱いし、難しい。

 では、彼のご両親はどうか?

そこまで聞いてはいないが、察するに存命でもそれなりに高齢のはずだ。

ターゲットにするのはたやすいだろうが、直感に頼れば否だ。

なぜなら、それなら携帯の電源を切る事はしないだろう、と考えられるからだ。もっとも、そう命じられれば否やはないが、そう切羽詰まった状況なのだろうかと考えた時に、直感が否定する。


 彼は元警察官なのだ。


 携帯の電源を切らされる、あるいは奪われる状況、それはそんなに容易な事ではない。実力を以て彼が監禁されたのならともかく、そうでない可能性が高い以上、他の要因を探さねばならない。

 携帯を失うことになり、それ以前に通話ができる状況。


たとえば、逮捕されるとか。

 事件に巻き込まれ、警察に自由を奪われることになればそれも頷ける


 『冤罪』、これがこの場合もっとも蓋然性が高い可能性であり、それを突き詰めていくべきだというのが僕の出した結論になった。


 そして、同様の理由から僕の身にも、梨桜の身にも同じことが起こりうる。犯罪に巻き込まれることを警戒したほうが良いということだ。


 なるほど。お御籤が年頭を警戒せよと言っているわけだ。


僕は軽く目を閉じて知らせてくれた神様に感謝を述べた。


お越しいただきありがとうございます。


一人ひとりの努力によって、長く続いている憂いも薄らいできました。

どうぞみなさま、お体にご注意いただき、この苦難を乗り越えていきましょう。

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