霜月師走は記念日ラッシュ
11月の後半から、梨桜の周りではお誕生日のラッシュが訪れ、
今年は心を込めたプレゼントが用意できたみたいです。
【お誕生日はこだまする】
私の命をつないでくれたお父さん。
私の居場所を守ってくれた紗奏。
話す度に肩を軽くさせてくれる美沙。その彼氏。
そして、
存在のありかを自分でもつかみかねている、縁。
来週から始まる誕生日のラッシュ。
去年はお父さんにしかできなかった手作りのプレゼント。
今年はちゃんと全員分用意できた。
おっと、まちがい。安藤君へはそんな重い物は渡せない。
縁あてのものは凄く悩んだ。
手作りではそう言う風にとられてしまうかな・・・とか。
でもこんなに大切にしてくれる相手に出来合いのもの?・・・とか。
こういう微妙?な距離感の相手に送るものを考えた時、まず頭に浮かんだのは手袋。これからも仲良くしていこう、的な。
幸い、去年でずいぶん編み物も慣れたので、今年はとても捗ったし、出来栄えも結構いい、と思う。
・・・
皆と相談して、合同の誕生日会は来週末の26日に決まった。
誰の誕生日でもないけど、それは特定の誰かに照準を合わせないという気持ちでもある。
場所はいつもの秘密基地。
4人のご両親も皆来れるといいな。
折角だから家族ぐるみでもっと仲良くなりたい。
◇ ◇ ◇ ◇
(11月26日 土曜日)
綿のような雪がちらちら舞っていた。
この時期のこの地方にはとても珍しい。
何でも60年ぶりの事だという。
外からは一見して普通のオフィスビルにしか見えないその建物は、実は念入りに防音対策と防犯対策がとられている。
本間伸朋が子供たちの為だけに改装した遊び場だ。
1階はスタジオ兼カラオケルーム、2階は準備室とシャワールームも完備している。そして3階はもともとただのラウンジだったのだが、仮眠室にとってあった1区画はオフィスにする予定となっている。
バラの香りが立ち込める1階エントランスには
「おめでとう」の声が幾重にも重なった。
お互いがお互いへ。
それぞれの家族が、それぞれの子供たちへ。
ただ一人、来場者皆を出迎える少し小柄な彼女は、一人ひとり丁寧にお祝いを言い青いバラを配っていた。
花言葉は、『奇跡』
本来はないはずの色。
彼女以外は、みんなお祝いされる人。
『お客様』だ。
それも『奇跡的な縁を持って』の。
そう、彼女は思っている
だから、父親にちょっとおねだりをしてこのバラを用意したのだ。
手に取る時に想いを馳せる。
このバラを作るのにどれだけ苦労したのだろう・・・と。
◇ ◇ ◇ ◇
宴の開始とともに、
一人、また一人と、昨年のお礼と、今年への抱負を語る。
いつも娘を大切にしてくれる皆に向けて。
愛する友達と、愛する誰かへの想いについて。
大事な人と共にあるための決意について。
それを受けて、共に歩いてゆきたいという決意について。
そして、周りへの感謝と、ただ一人への特別な想いについて。
子供たちの言葉に、感動し、驚き、あるいは動揺が隠せない者もいた。
ひたすら純真なこの年頃のまっすぐな想いは、大人にとって、あるいは毒でもある。
◇ ◇ ◇ ◇
「梨桜さん。」
「はい。」
「あの子の気持ちは伝わったかしら?」
「あれはあくまでも、豊富です。おかあさま。
個人的にはまだ何も聞いておりませんので。」
「ふふっ。なんだかそう言うところだけは、似ている気がするわ。」
「あらっ。光栄です。(笑)
でも私は逆指名できるような立場ではありませんけれど。」
「まぁ。何百万人もがあなたのファンでもですか?」
「あれは現実の私ではなくて、着飾ったもの、まやかしです。
実物は、このとおり貧相ですので。」
「ふふっ。困ったわ。
なんでこんなにあなたが愛おしく思えるのでしょうね。」
「へへっ。私の作戦通りですね。
麗子さんもまだまだという事です。」
「私もあの子もまだまだだから、是非ともあなたが必要なのね。」
「本人にそう告げられたら、改めて考えさせていただきますね。」
そう言った直後、背後に人影を感じた。
(ヤバい!! 聞かれた??)
「楽しそうだな。」
・・・びっくりした!
びっくりしたーーーー!
お父さんか~~。
「あははっ。麗子さんとのトークは楽しいよ。」
「失礼があったら許してやってください。
貴女にはこの子なりに特別な感情を持っているみたいなので。
正直、この子のこんな姿を見られるのは麗子さんだけなんです。」
「ふふふっ。とっても光栄だわ。
梨桜さんを見ているとね。言葉で言い表せない繋がりを感じるの。
安っぽい言い方かもしれないけど、他人とは思えない。
これは錯覚ではない、と信じているわ。」
さすがにそうまで言われては、身の置き所が無い。
私は直感的にこの人が好きだ。
もちろん、奈菜さんとは違う意味で。
・・・あれ?・・・どう違うんだろう?
奈菜さんは気安くありたい、お父さんを任せられる?
いや、任せたい。そして多分私はそれを遠巻きに見る感じ。
千代子さんは、遠い憧れ。
あんな風に年を重ね、成長の最終地点としてあれたら素敵だなという羨望。
そして、麗子さんは女として、人として?
こうあれたらなんてイイ女なんだろう、という感覚。
そうだ。奈菜さんはお父さんの伴侶としての。
千代子さんは人としての。
そして、麗子さんは女としての、憧れなのかもしれない。
そんな風に、深く思考の海に潜って、水面に顔を出す。
そして、目の前の憧れの『女』を見やる。
これほど素敵な人にも、自分と同じように好感をもってもらえると言うのはとってもとっても恥ずかしい。
そう、改めて自覚し、少し照れてしまっていると・・・
「ほらっ! こういうところ。もう絶対に放したくないわよね。」
これは、・・・・・・私の完敗だ。
いや、そもそも私ごときで太刀打ちできる相手じゃなかった。
そう思った矢先・・・
(ハグッ)
「この子はそう簡単には渡さないよ。」
そう、背後から爆弾が投下された。
「ご子息は、ちょーっと押しが足りません。
このままじゃ、どこかの馬の骨に持ってかれちゃいそうですが、
その前に、私が持ってっちゃいます。」
そういって、麗子さんを甘く睨む。
「あら。私の見立てでは、もう射止めているように見えるのだけれど。」
(いやいやいやいや、射止められてなんていませんよ!
というか、まだ矢を射られてもいません!)
「それは、親の欲目というやつですね。
確かに彼にはある種の存在感があります。
勉強も、運動もとっても凄い。
でも、今の私達にはそう言うのよりもっと必要なものがあります。」
いつの間にか私の代わりに、紗奏がバトルを繰り広げる展開に!
行けっ!、紗奏っ!
「そうね、アナタたちが今強く欲するもの。
あの子は確かにそれを強く前面に出さないかもしれない。でも、今の年頃の子たちが軽い気持ちで口にする甘い囁きは所詮ハリボテ。そんなもので満足できるのかしら?ほかの女子ならともかく、アナタや梨桜さんが。」
「・・・・・・・。」
あら・・・紗奏でさえもあっという間に撃沈してしまった。
「私は別に甘い囁きとかちょっと苦手ですし、正直いって縁君の距離感は凄く嬉しいです。でも、私自身まだそう言う男女的な感情がよく解らないんです。」
「感情は分かる必要はないと思うわ。
というか、誰だって分からない。
理解の外にあるものが感情ではないかしら。
梨桜さんはあの子と居てとても心地いい、それが今一番大事なあなたの気持ちだと、私は思うわ。そしてそれを大事にしてね。」
私にとって居心地のいい場所・・・
たしかに今のこの環境は居心地が良すぎて既に癖になっている。
ちょっとわがままになってきているのも自覚しているし、注意もしているのだけど、それでもみんなが喜んでくれるのでついつい甘えてしまう。
軽くうなずいて返事をすると、麗子さんは微笑んで大人たちの輪の中に戻っていった。
◇ ◇ ◇ ◇
大人たちは程よくお酒も回り、声も大きくなってきた。
反対に、私たち子どもはというと少し手持無沙汰に。
「そろそろ?」
「そろそろ? 梨桜行く?」
「うん。じゃ、トップバッターで。」
さりげなくステージの方へ歩いていき、
さりげなく予定の曲を入れる。
お父さんが『声質がとても合ってる』と言ってくれているので、歌いだしはやっぱりBlackmores Nightに。
選んだのは、『Wind in the willows』
今のこの雰囲気にぴったりだ。
お酒が入っている大人たちがとっても盛り上がってくれる中曲は進み、2度目の男性ボーカルパートの時、お父さんが上がってきて一緒に歌い始めた。肩を組んで一緒に歌っていると、みんなぞろぞろと上がって来る。結局、大小12人が肩を組み大きな輪になっての大合唱になった。本当に中世ヨーロッパにタイムスリップしたみたい。
・・・
曲が終わり、みんなでワヤワヤする中、いつの間にか次の曲が流れ始める。
こ・・・この曲は・・・!
それは私の大好きな曲。
何年か前、ドラマの主題歌に使われていた曲で、今でも果てしない人気がある。Youtubeの再生回数は5億回を超え、歌ってみた系のカヴァーでも軒並み数百万回再生されていると言うモンスター曲。その中でもカヴァーにアニメ映像を合わせたものが私は特に大好きだった。
彼の声は低く渋い。だからオリジナルとは全く違った趣を醸し出す。
ヤバい・・・もう・・・涙が止まらない。
ただ思い出すだけでもドラマのシーンが被って泣けてくる歌なのに、何、この渋い声は~~。
・・・て、いうか、こんなに上手いなら、いつも歌えよ~~!(号泣)
・・・
私が気持ちよくエグエグするなか、曲が終わる。
(は~~、泣いた泣いた。一週間分泣いた。)
ティッシュを湯水のごとく消費していると、
・・・なんだかすごいイントロが流れ始めた・・・!
次にかかった曲は、日本の名曲!
『天城越え』 !!
マイクを取ったのは麗子さんだ!
その歌でよその人を惑わしちゃダメですよ!(笑)
越えちゃダメ!越えちゃだめだからね!
その峠は!!
◇ ◇ ◇ ◇
その後も、思い思いの歌が披露され、その勢いもあってかグラスに注がれているいろんな色の液体はどんどん減っていった。
ウチのお父さんも決して弱い訳じゃないし、紗奏のお父さんだってなかなかだけど、美沙のお父さんが何と言っても酒豪だ。驚くことに麗子さんがそれに張り合っている。
この血を受け継いでいると言う事は、縁も将来は・・・(ブルブル)
◇ ◇ ◇ ◇
やがて、酔っ払った人から、一人抜け、二人抜けして3階に上がっていく。
いつものラウンジは片付けて、今はお布団をたくさん敷いてある。
こんなこともそうそうないんだろうな。
男女親子12人の壮大な雑魚寝。
お片づけは明日にして、最後になった私たち3人も3階へ上がると、心地よい寝息と、満足そうないびきがお祭りっぽいハーモニーを奏でていた。
みんな奥から詰めてくれたので、私と紗奏と美沙は一番手前の布団に並んで入る。
「どう?梨桜?」
そう言って寝入っている布団を指す紗奏。
「う~~ん?」
まだ起きているかもしれないから、うかつなことは言えない。(笑)
「アハハ。イイ感じか~。」
「まぁ、あれだ、梨桜。とりあえず今のまま尻に敷いておけ。」
「敷いてないし、敷かないよ。(笑)」
布団の中で紗奏がわき腹を突っついて来た。
その顔は反対の横にちょっかいを出せと言っているのかもしれない。
・・・絶対にそんなことはしないよっ!
そう目で合図をして、その手をギュッとする。
やがて降りて来た心地よい睡魔に身を任せていく。
今日はとてもいい夢が見られそうな、そんな予感がした。
お立ち寄りありがとうございます。
ご感想、お待ちしていますね。




