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突然ですが、娘ができました。2  作者: ほととぎす
第1章の5 中学3年生編 (日常2)
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文化祭(中編)

文化祭を見て回る、主人公、

久々に母親に会い、相談を持ち掛ける縁。

  【学年ごとのカラー】


 比較的自由な発想というのだろうか。

1年生の作品はどれも興味深い出来だった。

『絵』一つにしても、『書』の筆の運びにしても、『面白いな』と思わせるものが多くて度々足が止まった。


反対に、2年生の作品はというと『小さくまとまった』感が強い。

おそらく、目立ちたくないとかそういった心理に起因するのだろうが、安定志向の強い作品ではどうしても足の進みが早くなった。


そして3年2組の教室を見て回っている時、ふいに声を掛けられた。


「今日は、本間さん。」


 振り返ってみれば、芹野だった。


「やぁ、おはよう。君も来てくれたのか。

 あ、紹介するよ、娘が仲良くしてもらっている土井縁君と、

 お母さんの麗子さんだ。」


「初めまして、麗子と申します。」

「こちらこそ初めまして、芹野奈菜と申します。

 本間さんと同じ会社で働いています。

 ・・・まもなく『いました』になりますけど。」


・・・

   ・・・


「それじゃ、私達はお先に失礼しますね。」


 二言三言言葉を交わした後、土井さん母子はそう言って離れていった。

気を遣わせたのかもしれないが、麗子さんの方はこういった子供の作品への興味は薄いらしく、少し退屈そうにも見えた。長々と見入る私とはそもそもペースが違うように感じてはいたのだが、芹野が来たことで丁度良い区切りになったのかもしれない。


「さっきまで梨桜ちゃんに案内してもらっていたんですけど、そろそろバザーの準備だとかで行っちゃいました。それから、今日は後二人連れて来たんですけど、今はちょっと外しています。」


やはり梨桜から連絡が行っていたようだ。

確かに芹野は正直でまっすぐないい子だ。

だから梨桜が気に入るのも分かるにはわかるのだが・・・。


「あぁ、来てくれてありがとう。あの子も喜んでいただろう。

 なんだか君に懐いているようだからな。」


「案内してもらいながら、初恋の事とか聞かれちゃいました。」


そう言って照れたように笑う。


そう言えば、彼女は入社時からかなり積極的だった。

こんな私のどこを気に入ってくれたのか分からないが、好きになると一直線になるタイプのようだ。学生時代はさぞやモテた事だろう。


「幼いころの恋の思い出は、いつ思い出してもちょっと胸が暖かくなるな。君の初恋はいつなんだろう?」


「今の会社に入るまで、私って恋愛感情が無いのかも?なんて思ってたんですよ、実は。なので、幼いころの恋の思い出は無いんです。」


そう言われて言葉に詰まってしまう。

まさか私が初恋の相手だったのだろうか?


言葉を紡げずに少しの間が出来てしまう・・・。


「本間さんはちゃんと思い出がありそうな口ぶりでしたね。」


しかし、彼女はそう話を続けてくれた。


そういえば、いつの間にか私の呼び方も『課長』から『本間さん』になっている。あまりにも違和感が無くて、気づかなかったが。


初恋・・・か。

それを想うたび、胸が締め付けられるように苦しくなる。

3年もの間、その相手がすぐそばにいたと言うのに。


彼女が苦しんでいたと言うのに。

それに気づくことすらできなかった。


「俺はマセていたのか、小学校へ入る前にとても好きになった子がいたんだ。ただ、親の転勤でまたすぐ引っ越して行ってしまった。」


「そうだったんですか。そう言うのってすごく寂しいですね。

 その後は会えなかったんですか?」


「・・・。

 前の会社に入ったとき、妙な既視感を感じる女性がいた。

 それが実はその子だったと、つい最近になって気づいたんだ。」


「・・・えっ」


「あの子の、・・・梨桜の母親だったんだ。」


ふと、目元にハンカチが押し当てられた。

どうやら、泣いていたらしい。


「あ、悪い、最近なんだか涙もろくていかんな。

 ま、詳しくはそのうち機会があったら、な。」


「はい。

 悲しいですけど、素敵な奇跡ですね。」


 素敵な奇跡・・・か。

芹野に目をやると、少し潤んでいるのが分かる。


新形と広島に離れて15年。

再び出会ったのがこの神川のソフトウェア開発会社だった。


・・・確かに奇跡のような縁だな。



「そういえば最近、あの子が恋愛の事で少し悩んでいるようなんだ。

 ちょっと話を聞いてやって欲しい。

 俺では、ちゃんとしたアドバイスになったかどうか自信が無い。」


「私でいいんでしょうか?」


「あの子も周りもそう言うお年頃なのか、恋愛に興味津々らしく、最近気になる子も出来たようなんだが、どうも自分に恋愛感情が無いんじゃないかと心配しているみたいなんだ。俺は慌てないで良いとしか言えなかったんだが。」


「ええ、私もそれでいいと思います。

 多分男性と女性の恋愛観は違うような気がするんですけど、

 女性でもいろんなタイプがあるので。

 梨桜ちゃんは、人をしっかり見るタイプだから、

 恋に落ちるというより、だんだん想いが積み重なって恋になるようなタイプじゃないかと思います。」


だんだん好きになる・・・か。

人を見るときは直感で見ているみたいだが、

恋愛においては意外とそうなのかもしれないな。


・・・


 二人で中学時代の話をしながら、3組に入る。


今年のメインはどうやら水彩画のようだ。

教室の一番いい位置に飾られている。


「これはまた・・・」


 それは杠さんの家の庭にそびえる『こうやまき』の絵だった。

縁側から見た構図となっており、座布団の上で丸くなるたまちゃんがいる。


「どこの木でしょう?」

「お向かいの家にある『こうやまき』の木だよ。

 凄いな、よく描けているし、なんだか温かい。」


「木の質感が凄いです。凄く丁寧で、それでいて力強い。

 ・・・って、私絵のことはよく解らないんですけどね。」


その隣に目をやると、囂々という音が今にも聞こえてきそうな滝の絵が。

流れ落ちる様子がとても強くて目を引いた。


書いたのは紗奏ちゃんか。


更にその横の絵は、同じくキャンプの時の星空だと思われた。

とても印象的な・・・心の内面のような星空だ。


「今年のGWに、娘とその友達を連れて、キャンプに行ったんだ。

 この2枚はその時のことを思い出して描いてくれたらしい。」


 その3枚の絵、特に梨桜の書いた『こうやまき』の絵を見ながら知らぬうちに言葉が漏れていた。


「むかし・・・

 家の近くに公園があったんだ。

 大きな欅の木があってね。

 俺はその木が大好きでいつも登っていた。


 ある時、引っ越してきたと言う母娘がやってきてね、

 引っ込み思案の娘と仲良くして欲しいという。


 その日に俺は夢を見たんだ。

 今でもはっきりと覚えている。


 その子を連れて欅の木に登り、彼女が落ちて・・・。

 夢の中でも死んでいるのがはっきり分かった。


 俺は夢の中で狂ったように泣いた。

 『落ちたら死ぬ』そんな簡単なことにさえ気づかなかった自分の愚かさを悔やみながら・・・。

 


 そして、自分の叫び声で起きてしまってね。

 横で寝ていた母親がやさしくなでてくれたのを覚えている。」


「その子が初恋の。」


「あぁ。本当に引っ込み思案でな、最初はなかなか打ち解けてくれなかったんだが、慣れてくると本当によくしゃべる子で・・・。


 再会してからは誰に対してもしっかりものを言う・・・

 そうだな、小さいころとはだいぶ雰囲気が違った。」


だから気づかなかった、というのはただの言い訳だろう。

古い思いを手繰れば重なる部分は確かにあった。


困ったときに私を見る視線・・・

嬉しい時の表情・・・

今思えば当時気づかなかった己を張り倒したくなる。


「付き合っていたんですか?」


「・・・いや、それがな、そうじゃないんだ。

 あの時も言ったと思うが、あの子の存在すら知らなかった。」


「・・・でも、その・・・」


「あぁ、その話はまた今度、な。」


 (さすがにここで話せることじゃない)


気づくと芹野の頭をポンポンと撫でていた。


いかん、梨桜で癖になっているのか。


「悪い。」


「いえ。」


 後ろの方からは生徒たちの黄色い囁き声が聞こえていた。



  【母と子】


 本間さんと別れてから、途端に歩みが早くなった。

母さんとしてはそう興味を惹かれるものもなかったようで、3年まで見て終わったが、待ち合わせまでまだ30分以上ある。


梨桜さんの件についてちょっと聞いておくのもありかもしれないな。


「ちょっと相談。」

「あら。いいわよ。」


 母さんを連れて図書室へと向かう。

文化祭の今日、大して人はいないはずだ。


 案の定、図書室はがらんとしており、学校中のお祭り騒ぎとは無関係の静謐な空間となっていた。

 窓側の席に座り、話を切り出す。


「この間、先々週の火曜日に梨桜さんが誘拐未遂にあった。

 彼女には本間さんがボディーガードを付けていて、登下校の道すがらの出来事はもれなく把握されている。それも普通の調査会社とかじゃなく、父さんの口利きの人だ。」


そう切り出した僕の話に、母さんは黙って耳を傾けている。

誘拐という言葉を聞いても驚いた様子が無いのは、自分の母親ながらさすがだ。


「だから、彼女に複数のストーカーまがいの生徒がいると言う事は分かっているし、そのうちの一人は完全に割れている。問題はちょっと犯人像が絞れないあと一人の方なんだ。

 僕が転校してから、わりとすぐに2回後を付けられた。気づいてそれとなく待っていたんだけど、2回ともこちらが気づいたのに気づいて引き返して行ったようだった。遠くて人相ははっきりしない。ただ、ほぼ間違いなくウチのクラスじゃない。

 その後、今月の頭に中間テストがあったんだけど、その最中に机に悪戯をされたらしい。朝彼女がそれを見つけたらしいんだけど、机を舐めた跡があったとか。ところが、僕のクラスじゃ毎月席替えをしていて、今月の席替えはテストのほとんど直前だった。だから、彼女の席を知っているのは、その後にウチのクラスに顔を出したことのある生徒である可能性が高いと思う。僕の記憶では5人だけだ。ちなみに、先に上げたストーカー君はその中には入っていない。それで、その事件の後に5人の名前を彼女のボディーガードさんだけには伝えてあるんだけど、今僕が言った事の中で何か気づいた事はあるかな?」


「そうね、誰か来るといけないから、誘拐を依頼したと思われる彼の事は『マル被』と呼びましょうか。付けてきた子がクラスメイトじゃないと思うその理由は?」


「距離にして約50m位だったかな、僕らは男女込みの5人でたまには立ち止まりながら帰っていたんだけど、マル被との距離は駅前付近まで約10分程変わっていなかった。距離的にクラスメイトならさすがにわかると思う、ただ人相までは分からない微妙な距離だった。」


「なるほどね。まず、付けてきた子とマル被が同じとも限らないし、

 机への悪戯がマル被とも限らない。」

「うん。それは分かってる。可能性が少し高い程度だ。」


「誘拐未遂って事は、当然署に引っ張られたのよね?

 心配しなくてもそこから割れるんじゃないかしら?」


「だといいんだけどね。

 今はネットとかもあるから、依頼や代金の振り込みもネットだったりすると分からないんじゃないかと思って。」


「心配しなくても、大抵は追えるわ。

 それに、案件が案件だもの、金額も大きいはずでしょう?

 その5人の中に、お金に余裕のある子はいる?」


「あぁ、僕はそいつがアヤシイと踏んではいるんだけどね。」


「2週間か、そろそろマル被のところにも警察官が行ってるんじゃないかしら。」


「じゃぁ、もし警察がたどり着けない場合はどんなことが考えられるだろう?」


「そうね、まず人づての依頼なら必ず足が付いて辿り着くからこれは無いと考えていいわね。だから、その場合はやっぱりネットでの依頼。足跡を追えなくする手はそれなりにいくつもあるし。ただ、中学生がそこまでできるとはちょっと考えられないわねぇ。そもそも誘拐なんてことを依頼する時点で依頼料だって二桁じゃとても足りないだろうし、その後の監禁場所にも困るし、まず間違いなく大人も絡んでいるでしょうね。それから、それだけ執着しているなら、梨桜ちゃんの居所位とっくに知っているでしょうし、あなた方が後を付けられたのは、単に親密度が気になったってとこかしら。」


「やっぱりネット依頼だとたどり着けない場合もあるのか。

 後さ、その事件の前にまた僕らの後を付けて来ていたやつがいて、その彼が面が割れてるストーカーのひとりなんだ。ただ、その日に調査会社と思われる大人も僕らの後を付けて来ていたらしく、それを梨桜さんのボディーガードさんが僕らに教えてくれた。それから間もなくだな。僕が階段から突き落とされそうになって、逆にそいつが落ちて怪我をして、翌週には梨桜さんの誘拐未遂があったんだ。」


「ちょっと待ってね、縁。

 あなた今さらっととんでもないこと言ったわよ?」


「あぁ、大したことじゃないよ。僕への事は大概何とでもなる。」


「ま、いいわ。そのうち痛い目を見ても知らないからね。

 時系列的に、その週の出来事が、梨桜ちゃんの拉致未遂につながったとみていいわね。何か心当たりは?」


「その日は、一緒に住んでる道兼が彼女の家でご飯を食べるっていうから、僕は梨桜さんの家で食べることになったんだ。で、その様子までしっかり写真に撮っていたらしい。」


「なるほどね。学校帰りにあなたが梨桜ちゃんの家に入ったものだから逆上したのね。

 ところで縁ぃ、伸朋さん帰って来るまで結構~時間あったはずよねぇ。

 私としては、そこのところがチョットだけ気になるんだけど。」


「それはいらぬ心配だな。彼女は異性に恋愛感情を向けられることに、なんだかある種の抵抗を持っているみたいだ。だから僕も物理と心理両面で彼女との距離には気を配っているから。」


「まぁ・・・。

 女の子が好きって訳でもないんでしょ?」


「そう言う噂はあるよ。男除けのためにそれを否定してはいないけどね。

 なんとなくだけど、小さいころのトラウマか何かかなとは思ってる。」


「おや~? そのこころは?」


「ある日、皆でカラオケに行こうってなった日がある。

 僕らはよく5人で一緒に行動するから、その日も声を掛け合っていたんだ。そしたら、隣の女子が、『私も』って言い出して、あっという間にみんなで行くことになった。梨桜さんは仲の良い子と一緒にいたんだけど、その周りを男子が取り囲むような格好になってね、はっきりと『怖い』って顔に出ていた。」


「(ふふふっ)なるほどねぇ。

 なるほど、なるほど。

 本当によく見てるのね。母親とはいえちょっと妬けちゃうわ。」


「何を今さら。」


「あらっ、そろそろ時間ね。

 梨桜ちゃんの事は、何かあったらすぐ言いなさい。」


「あぁ。その時はお願い。」


これはただの保険だ。

彼女には指一本触れさせない。

お越しいただきありがとうございます。


先週は大雪でしたね。

雪は好きなのですが、最近は雪下ろしも間に合わないほど降ることも多く。


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