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突然ですが、娘ができました。2  作者: ほととぎす
第1章の4 中学3年生編 (謎の圧力)
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川東という人物

引継ぎをしつつ残り僅かな在籍期間を過ごす伸朋。

そんな折、一人の老人が姿を現す。

  【伸朋と娘とお向かいさんと】


 土曜日、昨日の雨が嘘のように晴れ上がった。

この時期、週間天気もあまりあてにはならず、毎日その予報が更新されていく。

 今日も午後から新しい遊び場で遊ぶらしく、午前中に買い物に行きたいと頼まれて出かけることにした。


 会社の方はというと、翌日の水曜日に3人の意志は固い旨部長に報告したのだが、さすがに参った様子だった。一課主力が丸ごと抜けることになった痛手は大きく、ちょっとやそっとではその穴が埋まらないため、協力会社に人員補強をお願いする方向で考え出したようだった。

 ・・・そんなことにはならないだろうが、ひょっとすると私の起す会社とも『こっそり』協力関係を続ける事になるかもしれないな、そんなことを思った。

 


梨桜と並んでマンションを出ると、ばったりとよく見知ったご婦人に会った。


「おはようございます、杠さん。」

「おはよう、本間さん。今日はよく晴れましたねぇ。」


「そうですね、秋の日よりは心地がいい。

 それでですね、ちょっと急なんですが、今の会社を退職することにしまして、今度はこの子を見ながらのんびり仕事をしようかと考えています。」


ご近所さんなので、ざっくりと話しておくことにする。

何かあったとき、こういう小さな事でも話をしておくのと、しておかないのとでは全く違った結果を見ることがある。


「まぁまぁ、それはよろしいわねぇ。

 本間さんともたまにはゆっくりお話がしたいわ。」


「そうですね。午後からはこの子も友達と遊ぶと言うので、私も手持無沙汰でして、もしよかったらお茶でもどうです?」


「まぁ。楽しみにしていますね。」



「ねぇお父さん、ところで杠さんの旦那さんって何してる人?」

「う~ん、詳しい事は俺も知らないんだけどね、

 忙しいらしくてほとんど見かけないところを見ると、どこかの会社の役員とかをしているのかな?俺も数回しかお会いしたことが無いんだけど立派な方だねぇ。あんな風に年を重ねたいもんだ。」


「じゃぁ、先月私が会えたのはすっごい偶然なんだね~」


 そんな話をしながら、車に乗り込む。


 なんでも今日は、月末にある文化祭でバザーの手伝いをすることになり、そのために最低限のメイク道具が欲しいという。

 そう言えば、服は何回か見に行ったが、メイク道具は全く視野になかった。この辺が男親の至らないところだなと反省した。


 あそこの文化祭は、最近よくある奇をてらった様な催しはないが、『文化の日』らしい子供たちの作品が所狭しと置いてあり、去年は12クラスを見て回るだけで午後2時近くになり、危うく娘たちの出し物に遅れるところだった。

 そんな訳で、食事をすることはできなかったのだが、ああいった場でさえも、身なりに気を遣うあたりは、幼くてもさすがに女性と言ったところなのかもしれないな。


・・・


 デパートの店員さんに、お薦めをしてもらって買い物をした後、娘を例のスタジオまで送ってやる。

 あれから、歌うほかにも勉強場所としても使ってくれているようで、立地条件にも腐心した甲斐があったな、と嬉しくなった。


・・・


 昼食は軽く済ませて、午後2時頃お向かいの門をたたいた。


「ごめんください。

 そこで買ってきました。よろしければ。」


そう言って買ってきたこの秋限定の和菓子を差し出す。

確か、あそこの菓子が大好物だったはずだ。


「まぁまぁ、気を遣わなくっていいのに。

 さ、さ、上がってくださいね。」


こうしてお茶にお邪魔をするのはかなり久しぶりだ。

外からも見えるこの『こうやまき』も相変わらず美しい。


・・・


「さ、どうぞ。」


出されたお茶をゆっくりと啜る。


「あぁ・・・。久しぶりです。

 いついただいても本当に美味しい。」


「まぁ、ありがとう。

 それで、お仕事の事なんですけれどね?」


・・・


 驚いたことに、杠さんは私が仕事を辞めた経緯が娘の事だけではないと察していたらしく、ちょっと不安に感じていたらしい。

 さて、どうしたものかと一瞬考えたものの、中途半端なこのタイミングで独り立ちするのは確かに不自然感がぬぐえず、経済的な心配を掛けてもいけないと、詳細をぼかした形でいきさつを話すことにした。


・・・。


「まぁ、そんなことが・・・。

 大の大人がそんなことをしてはいけませんわねぇ。」


「まぁ、それがきっかけではあるんですが、あの子は人一倍寂しがりですし、私も独り者で十分蓄えもあるものですから、いっそのこと独り立ちしようと思ったわけなんです。」


「本間さんなら何をなさっても成功するとは思いますけれどねぇ、

 その方、ちょっと許せませんわ。わたくし。」


「気にかけてくれてありがとうございます。

 まぁ、そんな事をやっていたら、そのうち彼自分の身にも返って行くでしょうし、私は気にしていませんので、杠さんもどうかお気持ちを安らかになさってください。つまらない男のために気分を乱してはいけません。」


「まぁ。(ふふふっ)

 どこかのお坊さんみたいな事をおっしゃるのねぇ。

 ウチは子供ができなかったから・・・

 なんだかあなたがとても可愛くて・・・。

 おせっかいでごめんなさいね。」


・・・


杠さんは私の両親よりおそらく一回り位は年上だろう。

なんだかとても心安らぐ人だなと思っていたのだが、こんなに大事に思ってくれていたとは・・・。


この非才の身に勿体ない事だ。



  【川東という人物】


 私の後任は2課で係長をやっていた杉谷が就くことになった。

規模の大きな仕事では何回か一緒に仕事をしたこともあるが、取り立てて欠点は無いもののちょっとまどろっこしいなと思った記憶がある。


 人事の異動はやむを得ないものの、昇進についてはよほどのことが無い限り時季外れには行わない。

 青木と鈴木の穴埋めについてはまだ話が聞こえて来ておらず、しばらくはこの杉谷と力を合わせることになるだろう。


 社外からの圧力事案の為か、週明けの月曜には内示が出て、私との引継ぎを開始して水曜にはほぼ終えている。故に金曜日の今日、私の仕事は特になく、あらかた空になった机に座って、社内文書を読んだりしていた。


 と、そこへ内線が鳴る。

秘書課の桃井からだった。


 ネクタイを締めなおして社長室に入ると、見かけない老人がソファに座っている。


はて・・・?


「あぁ、急に呼び出して悪いね。

 ちょっとそこに掛けてくれ。」


そう言ってその老人の向かい側を指す。


「本間伸朋君、ちっとは己が身を振り返る事が出来たか。ん?」


突然そう切り出してきた。

なるほど、彼が川東取締役だな。


「自分の欠点はなかなか自分では見えないものですね。

 これを機に精進していきたいと思います。」


「おお。ちったぁ身の丈が分かったか。

 よしよし。

 こんなご時世にお前のような極つぶしが会社を放り出されても、食うても行けんだろうと思うてなぁ。

 こうして来てやったんじゃ。」


呆れたものだ。今のご時世まだこんな化石が生き残っていたとは。

ハラスメント発言のオンパレードじゃないか。


「ご足労痛み入ります。」


「ああ。仕方がないからのぉ。

 本当に仕方がない奴じゃ。

 まぁ、儂もな、仏の川東と言われて久しいからなぁ、

 ウチの末席で使ってやるわい。

 せいぜい精進して、儂に尽くすとせぇ。」


 あぁ、なるほどな。

そう言う魂胆だったのか。

ボケ老人の考えそうなことだな。


「お気遣い恐縮ですが、私の事は気になさいませんよう。

 この度、会社を興すことにしました。

 今後は広く一般の人に使い勝手のいいものを作って行こうと考えています。」


「んん?

 おい、この阿呆は何を言うとるんじゃ?」


「恐れ入りますが、彼には彼の人生設計があるのでしょう。」


(バシッ)


そう言ったとたん、平手で赤城社長の後ろ頭を叩く。


「おんしがそう言うヘタレじゃから部下のしつけもよう出来んのじゃ。

 あほんだら!」


さすがにこの馬鹿はくぎを刺しておかねばならないか。


「取締役、今はそう言う事をすると訴えられますよ。

 先ほどから、パワーハラスメント行為が続いています。

 加えて、暴力はそれ自体が罪です。

 気を付けていただきたい。」


「なんじゃぁ、おどりゃぁ!

 この儂に喧嘩ぁ売っとるんか!」


・・・とんだ老害だな。

この広島弁とも、土佐弁ともつかない口調はどこでどうやってミックスされたのか・・・。


「たった今の発言もハラスメントですよ。

 お話がそれだけなら、私は席に戻りますし、

 この場の出来事は私が証人です。


 それから、これは社長には黙っていようと思っていたのですが、

 お宅のお孫さんがうちの娘にフラれて、ストーカー化しているとの話を聞いています。事実うちまで何度もつけて来ていたみたいですし。

 そう言った話と、今回の私への横やり、総合的に判断すれば周りはどう思うか、お考えになったらいかがでしょう?」


「なっ! なにをっ!・・・」


そう言いかける老人を言葉で止める。


「更に申しますが、私に懲戒事案があるのならば、当社の委員会の中で懲戒人事が行われるべきことで、貴社にその権限はありません。この案件自体も大きなパワーハラスメント行為となりますよ。それを重々お考え下さい。」


「なっ!、なっ!、きっ!・・・貴様ぁ!」


またもや激昂しそうになる老人をひと睨みする。


「では、社長。

 先ほどの暴行の件、申し立てるのであればいつでもお声を掛けてください。」


正面の老人を睨んだまま敢えてゆっくりとそう喋った。


一拍待って、何も反論が無いようなので、

目礼をして社長室を後にする。


うちの企業体質も根っこの部分はひどいものだな。

あんな奴が取締役などと・・・他も推して知るべし・・・か。


案外、本当にこれがいい区切りになったのだと思うと同時に、残したみんなに申し訳ない気持ちがくすぶり始めた。


お越しいただきありがとうございました。


今年の冬はひと際夜が長そうで、良い時間が過ごせますよう・・・。

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