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突然ですが、娘ができました。2  作者: ほととぎす
第1章の4 中学3年生編 (謎の圧力)
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退職願い、そして社内の様子

退職願を手に、部長と話をする伸朋・・・

 【退職願、そして課内の様子】


 (火曜日・梨桜が学校へ行っていたころ・・・)


 昨日、久々に飲み過ぎてしまい、電車に乗るのがおっくうになってタクシーで帰ることにした。

 すると、「方向同じなので。」と言って芹野が乗ってきたのを覚えている。私は家に着くまで眠っていたようで、起きた時にはもう彼女はいなかった。車内で特に喋った記憶もないし、取り立ててどうという事はないのだが、なんだか気にはなった。


 出社して、まずはメールのチェックと仕事の進捗具合をチェックしながらコーヒーを飲んでいると、部長が入ってくる。


「おはよーー。」


「 「 おはようございます。 」 」


一息ついたのを見計らって席へと向かう。

「おはようございます、部長。少しよろしいですか?」


「おはよう、本間君。

 あぁ、それじゃぁ奥に行こうか。」


 おそらく、昨日のうちに社長から話は通っているはずだが、改めて事の次第を説明せねばならないだろう。


 奥の小会議室で退職についての話を切り出す。

やはり既に社長から聞いていたようで、改めて『心当たりは本当にないのか?』と尋ねられた。いつもであればこういった事にあまり深く踏み込んでは来ないのだが、やはり圧力に対して思うところがあるのだろう。


話しておくべきか逡巡する。


確認すればすぐにでも分かる事ではあったが、現時点では根拠に乏しいため『心当たりは全くありません。』と繰り返しておいた。



『退職願』を部長の前にスッと出す。


「理由が理由ですし、今月末位でどうでしょうか?」


「あと10日程か。引継ぎの方、大丈夫かな?」


「ええ。誰が課長で来るかにもよりますが、仕事の方は係長二人が詳しいので問題はないはずです。」

「そうか、すまないな。

 本来ならハラスメント事案にしなければいけないんだが。」


「いえ、それには及びません。私も娘ができてこれまでのようには動けなくなりましたし、ちょうど頃合いかな、と思っています。」

「そうか。それじゃ、これは確かに私が預かっておくよ。」


 部長に一礼して会議室を後にし、何食わぬ顔で自分の席に戻る。

やり残したことが無いか、引継ぎ書類に漏れが無いかをひとつづつ確認していくことにした。


小一時間ほどもすると、鈴木と青木と芹野が部長席へ向かうのが見えた。

昨日の様子だと私の事は納得してくれた様子だったので、安心していたのだが、イヤな予感がする。


 ほんの30分ほどで3人とも戻ってきて、私に声を掛けてくる。

「課長、すみません、部長がお呼びです。」


「あぁ、分かった。なにかな。」

とは言ったものの、あらかた想像はついてしまう。

部長が正直に話すとは思えないが・・・。


さて、どうしたものか。


 会議室に入ると、部長が苦い顔で手を組んでいる。


「部長、あの3人が何か?」


「うーむ。

 3人とも退職願を持ってきたよ。

 君がそう言う事をするとは思えないんだが・・・。

 そんな働きかけなんか、してないよな?」


あの3人が、退職願?

バカな!!

これまで積み上げてきたキャリアを捨ててどこへ行こうと言うんだ!


てっきり私の件で何があったのかを聞きに来たのかと思っていた私は、何とも複雑な気持ちになった。


誰かの退職に触発されて自分も何となくそんな気になってしまう・・・そう言う事はままある事だ。

だが、それは一時的な感情のことが多く、それまでにいろいろため込んでいる場合が少なくない。

あの3人もそんなに思うところがあったのだろうか?


ずっと私の下だったから、それが気になった。



「初耳ですし、そんな恩を仇で返す様な真似をするはずがありません。

 昨日、最後位はご馳走でもしてやろうと、皆を連れて飲みに行き、

 退職のことまでは話したんですがね。

『自己都合』だとはっきり言ったのにな。」


「そうだろうねぇ、いや、すまない。

 一応突っ返すわけにはいかないからね、こうして私が預かってはいるんだが、・・・なんとか説得してはくれんかね?」


「ええ、もちろん話してみます。

 ただ、私にも何の相談もありませんでしたし、

 ひょっとしたら私に思うところがあったのかもしれません。

 そのあたり、腹を割って聞いてみたいと思います。」


そう言ってその場を失礼した。


コーヒータイムに、昼飯でもどうかと個別にLineを飛ばしておく。


 そして昼休み、多少フライング気味に4階へ向かい、出来るだけ角の席を確保して3人を待つ。


・・・


「おう!」

手を挙げて3人に合図を送る。


「すみません、遅くなりました。」


「いや、俺の方がフライングだ。(笑)

 それより、部長から聞いた。びっくりした。」


「すみません、相談もせずに。」


「いや、それは良いんだが、後の事は考えているのか?」


「できればご一緒したいなって話をしたんですよ。この3人で。」


そう言われて、心底驚いた。

ひょっとしたら私に不満があったのかもしれないとさえ思っていたのだが、よもや真逆だったとは。


そこまで慕ってくれていたのか・・・。

芹野の方は・・・昨日のあの時点から気持ちを固めていたのかもしれないな。それ故のあのさっぱりした顔だったのか・・・。


・・・昨日、あんなことを考えてしまった自分が恥ずかしかった。


「手紙の方は預かりという事になっている。

 今日、少し俺の話を聞いてから改めて判断してくれ。」


「よかった。ちゃんと話してくれるんですね。(笑)」


周りの耳や目に注意しながら、出来るだけ当たり障りのない表現で話を終えた。


(今日はできるだけ遅くならないようにしないとな。

 二日続けてひとりにはできない。)


・・・


 仕事を片付けて4人で会社を出る。

このあたりはビジネス街であり、落ち着いた店も多いのだが、『昨日の今日で外食は出来ないから』と、近くの喫茶店に入ることにした。


「さて、初めに言っておくが、まだ裏付けが取れてない事も含まれてるからな。」


「えっ?」


その言葉に3人とも少し驚いた様子だ。


「月曜、社長に呼ばれた。

 それで話を聞いてみると、どうやら本社の取締役の一人から目を付けられたらしい、という事がわかった。俺の居場所をなくしたいようだ。

 それで、その取締役とは何の接点もないと思っていたんだが、どうもそうでもないらしい。もっとも、これは調べればすぐにわかる事ではあるんだが。」


「・・・・・・」


「続けるぞ、

 娘の同級生にその取締役と同じ苗字の男子生徒がいる。

 その子がうちの子に振られてストーカー化しているらしい。といってもせいぜい家までつけて来るとか、ノートをこっそり拝借するとか、その程度らしかったんだが・・・。

 ところが、先週、何を思ったかその子がうちの子と仲良くしている男子生徒を、階段から突き落とそうとして、反対に自分が落ちて怪我をしてしまったと言う事らしいんだ。


 俺とその取締役は接点が全くなく、知っての通り仕事も順調で責められるべきところはないと思っている。そんな中で、降ってわいたように『俺のことが信用できないから配置を変えろ、他部署もまかりならん。』と言ってきた。これは相当おかしな話だし、それほど珍しい苗字ではないものの、疑える範囲ではあると思う。

 そもそもウチの人事に関して本社の役員に何か言われる筋合いは全くない。しかもうちで一般的にそう呼んでいるだけで、本来、子会社というわけじゃないのは知っての通りだからな。」


「しかしそれは・・・」


「そうだ。パワーハラスメントで簡単に訴えられる案件になってしまうな。年寄りにはいまだにこの辺が理解できないらしい。


しかし、ここからは本当に個人的なことになって申し訳ないんだが、俺は娘が可愛い。あの子も母親とずっと二人暮らしだったから、とても寂しがりでいつも一緒にいたがるんだ。それで、もうこれ幸いと会社を辞めて独立しようかと思ってしまった訳なんだ。」


「(苦笑)

 なるほど。そうでしたか。

 なら、なおさら課長と一緒したいですね。

 迷惑じゃなければですが。」


他の二人も、大きくうなずく。


「日付はいつにして出したんだ?」


「部長には世話になってますし、迷惑はかけられません。

 なので、12月末にしました。

 2月余りあれば、誰が来ても困らない程度には引き継いで去れます。」


「よく考えろよ~。(笑)

 就業規則やら、協約やらは今のとこに準じて作るとしても、そもそも利益なんて上がらないかもしれないぞ?(笑)」


「自分の人生ですからね、楽しく行きたいじゃないですか。」


どうやらこの青木をはじめ、鈴木も芹野も意志は固そうだ。


「・・・意志は固そうだな。

 部長には申し訳ないが、お前たちの人生はお前たちのものだからな。

 ・・・しかし、正直驚いたよ。

 俺をそんなに慕ってくれているとは思ってなかったからな。」


「まぁ、そうですね。金魚のフンみたいについて回るのってカッコ悪いじゃないですか。俺はそう言うのが好きじゃないんです。それに、変なお世辞とか言えないくらい課長は凄いですからね。

 まぁ仮に、100歩譲って売り上げが上がらなかったとしても楽しい人生になりそうだと思いますが、俺にはあなたが失敗する未来なんてどうやっても見えませんよ。(笑)」


「鈴木、芹野、お前達もそれでいいのか?」


「もちろん。」

「もちろんです。フラれてもフラれてもついていきます!」


「おいおい、まだフラれてねーだろ!

 課長だって実はお前のこと好きに決まってるって!

 もう会社は関係なくなるからな、期待してろ。」


「おいおい・・・(苦笑)」


「いえいえ、ちゃんとフラれちゃってるんですよ、鈴木さん。(笑)」


「マジか!?!」


これは早めに退散したほうが良さそうだ。


「・・・さ、悪いが、家で娘が待ってる。

 二日も遅くなるわけにいかないしな。

 今日は本当にありがとう。

 俺は幸せ者だ。」


そう言ってその場に3人を残して店を出た。

『ちょっと遅くなった、これから帰る。』

そう梨桜にlineをして、すっかり日も落ちてしまった道を、駅まで走った。



  【ある日の孫と祖父】


「あぁ、分かった分かった。

 ただなぁ、それじゃぁダメだなぁ。

 いいか。物事ぁ理詰めで考えるんじゃ。

 欲しいもんは必ず手に入れる。

 そん為に深慮遠謀を働かすんじゃ。

 わしが手本を見してやるわい。」


爺ちゃんはそう言って高笑いした。


「さすがジィちゃんだ!

 相談してよかった!」


困ったときは爺ちゃんだ。

今までもそれで間違いはなかった。

つまんねー事なんてしなくても最初っから頼んどけばよかった。


彼女がこの先ずっと自分のものになる・・・

そう考えると興奮して今夜は寝れそうにない。



お越しいただきありがとうございました。


もう師走ですね。


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