明美の異変と一つの決断
学校では昨日の事故が尾を引いていて、
先生は沈静化に努めようと。
そんな中体調を崩した明美。
【明美の異変】
今日のHR、古井先生の様子はいつもより硬い。
先生は淡々と昨日の転落事故について話してくれた。
なんでも、5階から、途中の踊場へ落ちたそうで、腕の骨折はあるものの、心配はないらしい。
最後に、『憶測での発言は慎むように』
そう、やんわりととくぎを刺した。
一限目の授業中、これ以上縁君が疑われなければいいな、とか、
帰り道でのアレはさすがにやり過ぎだったな、とか、
そんなことを考えていると、
前の方で『ガタリ!』と音がした。
「木野下、どうかしたのか?」
先生が明美に声を掛ける。
ちらりとしか見えないけど、なんだか顔色が良くない。
それに、肩で呼吸している・・・様子がおかしい。
私は慌てて駆け寄って声を掛ける。
「明美?大丈夫?顔色良くないよ?」
そう言って手を取ってみると、とても冷たい!
それに、息が荒い。
「先生、保険の先生、呼んでください。」
「あ、あぁ。保健委員、美園先生を呼んできてくれ。」
「明美?
深呼吸しよう・・・ゆっくり、深呼吸。」
「(はぁ・・・はぁ・・・)・・・手、が動かない。
・・・死んじゃう・・・のかな・・・」
なんだかパニックになってるっぽい。
それに、これは経験がある。
過呼吸の症状がこんな感じだった。
紙袋を被せて息を吸わせるといいんだけど、素人はあまりやらないほうが良いって言われた。
「大丈夫、大丈夫だよ、
ほら、ゆっくり深呼吸しよ。
『すーー』、『はーー』・・・ゆっくり吸ってー、吐いてー・・・」
「木野下、 大丈夫か?
すぐ、美園先生来るからな。」
・・・
まもなく保健の美園先生が来て、彼女の様子を診る。
いくつか質問をし、
「過呼吸だと思うわ。」
そう言った。
先生と話している間にもだいぶ落ち着いてきたように見え、
保健委員に手伝ってもらって保健室へと運ばれていく。
なんとなく私もついていく。
・・・
・・・
・・・
「大丈夫?」
「うん。・・・ありがと。もう平気みたい。
手も足も動かなくなって、死ぬのかと思った・・・。」
「美園先生が、過呼吸だろうって。
前にもこういうことあった?」
「ううん、ない。初めて。
朝からちょっと体調は悪かったんだけど、
なんか急におかしくなってさ。」
「なにか悩みでもあったの?
今週は一回も一緒にいなかったよね?」
「・・・あんたには言いたくない。」
そう言ってそっぽを向く。
「そっか。」
そうは言うものの、握った私の手を放そうとはしない。
やっぱり心細いのかしら・・・
「・・・
あたし、・・・
あんたが嫌い。」
「うん。知ってる。」
「可愛いから。」
びっくりした。
そんなことを言われるとは思いもよらなかった。
「無邪気なちびっ子は可愛い、みたいな?
・・・って、無邪気じゃないか。(笑)」
「・・・・・・。」
「明美?
悩み事ってさ、嫌いな人に言うとすっきりするんだって。」
「・・・それ、どこ情報よ。(笑)」
「私情報。(笑)」
「今日さ、いつものアンタらのメンバーとカラオケ行きたい。」
「いいよ。体調は平気?」
「もう大丈夫。
だけど、今日はもうずっとここで寝てる。」
【明美の決断】
このいけ好かない女との因縁も今日で決着をつける。
コイツの周りは全くそろいもそろって、大馬鹿ばかり。
類は友を呼ぶ、とはよく言ったものだ。
【カラオケ店にて】
「あたし、ここにする!」
そう言って彼女は縁君の隣に陣取る。
放課後、皆を誘うと、二つ返事でOKしてくれ、私達はいつものカラオケ店に来ていた。6人と人数が多いから、今日は90分のセットに。
そして、じゃんけんで負けた私から歌い始めることになった。
どうもじゃんけんは昔から弱いような気がする。
(よーし! ここはいっぱつみんなの度肝を抜いてやろう!)
そう、意識して気持ちを高め、これまで出してないジャンルの歌に挑戦することにした。
ここのカラオケ店は洋楽もかなり幅広く入っているから、きっとあるはず。
お父さんのコレクションを眺めている間に気になった、「神」の帯。
たしか、ジューダス・プリーストも「神」だったような・・・
どこが違うのだろうと調べたら、ジューダスの方は「メタルゴッド」で、マイケルシェンカーの方は、以前に出したアルバムタイトルから「神」と呼ばれるようになったみたいだ。
その、MSGというアルバムの中の曲、「Never Ending Nightmare」
が凄く綺麗な曲で、私はこっそり練習していたのだ。
ただ、今日この歌を歌おうと思ったのにはもう一つだけ理由がある。
この間聞いた縁君の辛かった出来事・・・
(終わる事のない悪夢・・・)
(一人では眠れない夜・・・)
そんな時、私の歌で眠れたんだ・・・。
なんとなくそんなことを考え、
それを癒せればいいな・・・そう思った。
静かにアコースティックギターの音色が流れ始める・・・
(私は誰に一番そばにいて欲しいのだろう・・・)
(やっぱり、紗奏だろうか・・・)
(でも、今だけは縁君をそうだと思って歌ってあげる・・・)
(あなたが横にいないと、眠れない・・・そう思って)
・・・
・・・
・・・
じゃんけんで勝った明美が今はやりのドラマの主題歌を歌い終え、一巡すると、『次は一緒に歌いたい』、といって縁君に密着していく。持てる『武器』を最大限生かしての総攻撃だ。
でも、私は彼女のこの恋を応援はできない。
縁君の気持ちに気付いてしまったから。
つい2日前まで、彼の私への気持ちは『守るべき対象』のようなものだと思っていた。何故かはわからなかったけど、とても大切に思ってくれていると。
そしてあの日、どうして私の歌に特別な思い入れがあるのかも分かった。だから大切に思ってくれているのだと。
でも、彼の目に『恋愛感情』は潜んでいなかったはずなのだ。
それが、昨日の帰り道、あんな悪戯をしたせいで気づいてしまった。
・・・むしろ今までどうして気づかなかったのだろう?
だけど、明美が彼にアピールしているこの絵を見ても嫉妬心が湧かない私は、やっぱり縁君に『恋』をしてるのではない。
・・・少なくとも今はまだ。
「悪い、木野下さん。もう少しパーソナルスペースを広く取ってくれ。」
クールなその声が明美に刺さる。
「土井君のことが好きなんです。」
「悪い、前も言ったが、今は誰とも付き合えない。」
「じゃぁ、梨桜がそう言っても付き合わないの?」
「彼女がそれを望むなら別だ。
みんなには言ってなかったけど、命の恩人なんだ。」
あっさりとそう言い放つ。
そしてゆっくりと私たちを見回す。
さすがにこの事を聞いたのは皆初めてのはずだけど、ふしぎと誰もそうびっくりした様子はない。
「その言い方だと、義理があるからって事になるけど!
好きだからじゃないの!?」
「それは、その時が来たら言う。」
「『男のその時』は、女にすると遅いのよ!
だいたい、紗奏と付き合ってるって噂だったから、みんなこの子に手を出さなかっただけで、今じゃ、凄い数の男子が浮足立ってんの!
こんなおとなしい子は、すぐに頭パーちくりんの俺様男子に持ってかれちゃうんだからね!
その時になって死んで後悔しろ!
・・・。
・・・ごめん、
・・・あたし帰るね。」
そう言って立とうとした明美を、力いっぱい抱きしめた。
「ありがとう。明美。
このツンデレさんめ。」
「違うし!
あたしは・・・あんたが嫌いだし・・・。」
・・・
泣いているのが胸から伝わってくる。
そして、私もなんだか泣けてきた。
「さっ、落ち着いたら歌うよ!
次私からだから。」
「(こほん)、なに?今日ので梨桜に惚れちゃったの?明美?」
そう言ってハンカチを差し出す紗奏。
私も明美も涙と鼻水でドロドロだ。
「違うし。・・・自分でもなんでこんなんなったか分かんないし。」
「ありがとう、木野下さん。
でも、いくら友達のためとはいえ、体当たり過ぎる。
もう少し自分を大事にしてくれ。」
「みんな、あたしを美化しすぎ。
バカみたい。
梨桜が嫌いだから、あんたを奪ってやろうって思っただけなんだから。」
「ねぇ、美沙・・・」
「あぁ。本当に伝説級のツンデレだな。」
「(グスッ)はぁ・・・。
見た目だってそんな悪くないし、胸だってあるほうだし、
ワンチャンあると思ったんだけどなぁ。」
「知らないのか?世の中にはつつましい胸が好きな男だっていると言う事を。」
「(グスッ)美沙っ!、ひどっ!
今年になってサイズ上がりましたーっ!」
「うん。意外とあった。びっくりした。」
てっきり、ずっと嫌われていると思っていた明美は、いつからかそうではなくなっていたみたいだ。
今日のことがきっかけだったのかは分からないけど。
それにしても、あのいきなりの感情爆発はちょっとびっくりした。
元々熱いタイプだとは思っていたけど、火が付くとあんな感じなのね。
だけど、申し訳ない事に、当の私の方にはいまだ恋愛感情っぽいものが生まれてこない。
こんな状態のままだと縁君の感情の行方だって定まらないような気がするのだけど。
ま、それはさておき、今は今を楽しもう!
今のこの場に似合う歌!
そうだ、「The Storm」にしよう!
Blackmores Nightのちょっとロックな曲だ。
【サーズデーナイト】
「どう思う?」
「ひどい!、酷すぎるよ梨桜!」
「だってあの時はそんなんじゃないって思ってたんだもん。」
「でもまぁ、良いんじゃない?
1曲目のアレ、彼に歌ってあげたんでしょ?
あれでチャラかな。」
「な・・・なんで・・・?」
「熱ーい思いが伝わってきましたよ、お嬢さん。
彼、泣きそうだったし。」
「むぅ・・・」
「でもやっぱ、ちゃんとゴメンはしようね。
さすがにキスのお預けは、キツ過ぎるっしょ。」
「うん。明日ちゃんと謝る。
・・・あとさ、私って恋愛感情ないのかなって、
ちょっと不安になってる。最近。」
「焦らなくていいって。
恋は落ちるものなのよ。梨桜。」
「もうっ。おねぇさんぶって~(笑)
・・・
あ、じゃぁ、紗奏はどうやって落ちたの?」
「知らないうちに落ちるから恋なのです。
・・・
理由なんて無かったなー。全部が好きだけど、
たぶん全部を好きになったのは、恋をしたからだし。
あれ?卵と鶏みたいになっちゃった。(笑)」
・・・
・・・
「今日はありがと。」
「いえいえ、どういたしまして。」
「それじゃおやすみ。」
「おやすみー。」
おいでくださりありがとうございます。
登場するカラオケ店では、とても幅広いものが歌えるようです。
きっとそんなカラオケ店もあると思います。
・・・フィクションですから。
アーティスト名、楽曲名はリアルです。
よろしければおひとつ。




