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突然ですが、娘ができました。2  作者: ほととぎす
第1章の3 中学3年生編 (日常)
33/64

新学期、そして転校

2学期、土井縁は梨桜たちの通う神川南中学校へ転校してきた。

彼女はうっかり身近に接してしまい、小さな波紋が広がっていく・・・。

  【2学期】


 2学期初日、梨桜たちのいる3年3組は少し落ち着きがない。

というのも、今朝登校した見慣れない生徒のせいである。


4月に続いて、また転校生が来たのか?

どこのクラスだろう?

どんな子だった?

・・・

そんな会話があちこちから聞こえた。


しかし、4月に転校生を受け入れたばかりの自分達のクラスに、その彼が来ることになるとは多くの生徒が思っていなかった事だろう。


だから、担任の先生が『転校生らしき生徒』を連れて入ってきた時、クラスのざわめきは大きなものだった。


 4月、たまたま一人少なかったこのクラスに、安藤道兼が振り分けられたのはある意味順当だと言えたが、土井縁が振り分けられたのには若干の訳があった。


というのも、例の援交問題が解決してからすぐに、土井一明は予定を空けて南署管内の主たる中学校の内3カ所を訪問し、全校集会にて防犯への呼びかけをしていたのだ。こういった事は例が無い訳ではないが、少ないとはいえる。そしてその学校の校風や教師陣の気質などにもよるのだが、この神川南中学校においては極めて好意的に、というよりはっきりと歓迎された。そんな訳もあって、『あまり人との距離を縮めたがらない息子だが、宜しくお願いします。』そう穏やかにお願いされては、相応の配慮をしてやりたいという気になるのも道理であった。


「初めまして。両親の仕事の都合で転校してきました、

 土井縁といいます。よろしくお願いします。」


 彼は、前髪を目に掛かるくらいまで伸ばしていて、パッと見陰気そうに見えた。故にクラスのざわめきも程なくして収まる。そこが見た目好印象の安藤道兼とは異なった。


男女の交際というものがまだ早いと考えていた彼は、先の学校に転校した頃から努めて目立たないよう心がけていたのだ。


 そして休憩時間・・・


その転校生の周りに4人が集まり話をしだす。


すると、ガヤガヤしていたクラスが、別の意味のざわめきに包まれた。それもそのはずで、転校したばかりの土井縁の周りに集まった4人の内3人は、このクラスでも、いやこの学校でもかなり目立つ生徒だったのだから。


「縁君、学校の中は見て回った?」

「あぁ、夏休み中に。先生に連絡を取って案内してもらった。」


「それにしても、よくこのクラスになったね。

 安藤君が来たばかりなのに。」

「僕も驚いたよ、まさか一緒のクラスになるなんて。」


「縁と一緒に暮らしてると、見習うところが多いよ。

 僕もしっかりしている方だと思ってたんだけどね。」


 結局、安藤道兼は土井縁とマンションの一室をシェアすることとなった。はじめ、彼は両親に下宿を申し出たのだが、それが『彼女』の祖父母の家だと言う事で両親に却下されたのだった。

 部屋は1部屋なので、リビングをパーテーションで区切って部屋にした。と言っても12畳あるから十分なスペースが取れた。


すると、そこへ突然隣から声が掛けられる。


「ねぇっ! 二人って、一緒に暮らしてるのっ?」


なんだか少し興奮気味に見える。

話しかけてきたのは、斜め前の席にいた絵里沢美織という女生徒だった。


「あぁ。近所に住んでる両親の知り合いに面倒見てもらってる。」


その監督役が横に立つ本間梨桜の父親であることは、できるなら知られないほうが良い、それはこの5人に共通する認識だ。

ましてや、マンションが一緒だなどと知られた日には、どんな噂が流れるか分かったものではなかった。

幸い、あの地区はこの学区からは離れており、この学校に通う生徒はいない。

通うなら神川中学校だ。


「じゃぁ、部屋では二人きりなんだ!

 ねっ! ねっ! 

 どっちが攻めでっ、どっちが受けっ?」


興奮冷めやらずと言った様子で、彼女は続ける。


「 「 えっ? 」 」


「ちょっ!、ちょっと! 美織!

 なんでもない!、みんな、なんでもないから!」


彼女と一緒にいた渡部茉莉華は慌ててそう言うと、彼女を連れてそそくさと教室を出ていった。


5人は顔を見合わせる。

「攻めとか受けって何のことだろ・・・?」

「 「 さぁ・・・・。」 」



そんな5人の様子を見る視線の中に、一つのねっとりした負の感情が混じっている事に、この時はまだ誰も気づいてはいなかった。



  【ある中学生の回想】


 僕が彼女を好きだと初めて意識したのは小学校3年の時だ。

理由なんて特になかったと思う。

気が付いたらそう言う感情が湧いていた。


『おはよう』


そう言葉を交わすだけで一日中バラ色のような気分だったのを6年経った今でも覚えている。


しかし、不幸にも4年生からの3年間クラスが離れてしまった。

当然、会話する機会なんて一度もなかった。


ただ、やはりまだ子供だったのだろう。

だからと言って悲しいとか寂しいとかいう思いはそうなかったように思う。


中学校へ進学し、祈るような気持ちで張り出されていたクラス分けを見た。

そして『ヨッシャ!』と心の中でガッツポーズをした。


小学校も3クラスとそれなりに一緒のクラスになる確率は低かったけど、中学校はそれが4クラスになった。僕はそれを何とか乗り越え、一緒のクラスになる事ができたのだ。


しかし、中学生になると、話をする機会は極端に減ってしまった。やはりみんなそれなりに『男子』、『女子』の意識が強くなったのだろう。授業などで班に分かれて勉強するときでも、女子の椅子に座るだけで冷やかしが起きるような状況だった。そんな中ではおいそれと話しかけることもできない。もっとも、そうでなくてもそうそう女子に話しかける事なんて、この僕にはできなかったのだが。


 小学校までとは違い、彼女の制服姿を毎日見るうち、僕の中の『好き』も急速に変化していったように思う。また、日に日にその思いは強くなっていった。


 彼女が触れたものが気になる。


 ・・・人に気付かれないよう、同じ場所に触れてみた。


 彼女が何かのメモをクシャクシャにして捨てた。

 

 ・・・まだいっぱいにもなっていないそのゴミ箱を空けに行き、

 それをこっそりポケットに仕舞った。


 捨てたものはゴミだから別にいいのだと自分に言い聞かせた。


 やがて夢のような1年が過ぎ、進級。

運命のクラス替えだ。


この学校は2年から3年へのクラス替えはないから、ここで引き当てられれば、2年間一緒に居られる。


 そして・・・


 残念ながら僕は今こうして3年2組に居る。


だが、そのおかげで得られたものだってあった。


偶然2年から3組になった親友(悪友)がいたから、僕は何かにつけて3組へ遊びに来ていた。(今だってこうして来ている。)


遊びに来るから張り出してある時間割だって覚えられた。


3組が教室を空ける時間には、急な腹痛を訴え・・・

そして、ほんの少しだけいけない事もした。

そう、・・・ほんの少しだけ。

そのほんの少しのイケナイ冒険が僕をこれ以上なく興奮させてくれた。



だが、今、目の前には信じられない光景が広がっている。


『鉄壁の百合』と評判の彼女が、楽しそうに転校生の『男』と話しているのだ。


彼女は男子が苦手ではなかったのか?

そいつとどんな関係なんだ?

僕はもう何か月も君と話してさえいないと言うのに。


体を熱いものが込み上げてきた。

気も狂いそうなほどに。



  【背後の人影】


「こっちの印象はどうだった?」

「あぁ。明るくていい雰囲気だ。」

「だよね。僕もこの学校でよかったと思ったよ。

 雰囲気がいいのが一番だ。」


「この二人のワールドにクラス中毒されてるからな。(笑)」

「なーにー、美沙だってついこないだまでその仲間だったくせにー。」

「今は別の意味で目立っちゃってるよね~、美沙ちゃん。」


「まぁ、人がどう思おうがアタシは関係ないね。(笑)」

「あたし達だってそうだよねー、梨桜。」

「うん。(笑)」


こうしてワイワイ話しながら帰るのは初めてのことだ。

なんだかとっても楽しい。


そう思っていると・・・

そろそろ駅前というあたりで・・・


「あ。ちょっと僕、コンビニ。

 5分したら、Line見て。」


そう言って縁君はローソンに入っていった。


「 「なんだろ?」 」


私達は顔を見合わせた。


程なくして、彼を待つ4人のスマホがLineメッセージの着信を告げる。


『後つけて来る生徒がいる。男子。名前不明。

 南で降りる紗奏さん、美沙さん、

 彼が降りたら知らせるからしばらく待ってて。

 次で降りる僕らと梨桜さん、

 僕らは降りないから、梨桜さんは降りたらしばらく待ってて。

 どっちにしろ、折り返して戻ってくる。』


う~ん、そんなに心配しなくても平気なのにな。

そう思っていると・・・


『了解。僕たちのマンションが一緒だとバレると困るしね。』


あ。なるほど、そう言う事ね。

(なんだかドラマみたいな展開だ!)



  【縁】


 この神川南中学校は、最寄りの信濃青山駅から徒歩7,8分の所にある。女子の足なら10分くらいのものだ。

 小、中学校も定期的に統廃合され、数もだんだん減ってきたため、バスだけでなく電車通学の生徒もそう珍しくはない。

 ただ、やはり何かちょっとした理由がない限りバスの方が便利がいい。

例えば僕らのように何かの理由で本来の学区を外れている、とか。


 もちろん、だからと言って同じ方向へ帰る生徒が少ないわけじゃない。この学校は結構大きい。


 これが僕と道兼の二人だったら、もしくは女子生徒3人だったらおそらく気づかないのだろうが、この人数で一緒に帰っていれば必然的に立ち止まることも何回かは出てくる。ところが僕らの後ろを歩く一人の生徒とはその距離がほとんど変わらない。そもそも女子が混ざる僕らの歩みは男子に比べて遅いのだ。


 後をつけている、と仮定すると、まず可能性が高いのが『転校してきたばかりの僕と仲良くする美少女グループ、それはなぜなのか?』という疑問から生まれたもの。けれど、遠目でちらりと見る限りでは、つけてきている生徒は僕らのクラスメイトではないように見える。だから、他クラスの生徒が『そう言う噂話を聞いて気になった。』という可能性が最も高そうだ。道兼によればクラス内より、他クラスの方が美少女3人組の噂は大きいのだそうで、しかもその一人と付き合うことになった彼は何かと弄られてしまっているのだとか。


 後を付けてきている生徒にしたら、ただ気になっただけなのだろうが、僕たちとするとそれが大きな問題に発展しかねない。


何しろ、一緒のマンションに住んでいるのだから。


 僕と道兼が一緒の部屋を借りて、大人の監督の下で暮らしていると言うのは公言したから、

『それはどこなのか?』、

『ひょっとしたら美少女3人組の誰かと家が近いのか?』、

『ひょっとしたらどちらかと付き合っているなんてことは?』

などと疑うのは道理と言えば道理だろう。


 そんなことをサラッと考え、Lineメッセージを送り、コンビニを出ると、ここまでつけていたように見えた男子生徒の姿はなくなっていた。


 思い過ごしだったのかもしれない。

 だが、一応念のため少し時間を使うことにした。



  【梨桜】


『いなくなった。』


縁君がコンビニから出て、すぐラインをくれる。


なるほど、本当に気になってつけて来ていたのかもしれない。

私達がコンビニ前で立ち止まったので、こちらに歩いてくるのを躊躇って、方向を変えちゃったのかな?



「ちょっとお茶でもしていこうか?」


そう提案する縁君。

きっと彼は『念には念を入れて様子を見る』のだろう。


「OK。」

「 「 はーい 」 」


私達はいつものカフェに入り窓際に席を取る。

そう言えばここも2か月ぶりくらいだ。


「しかしあれだな、道兼といい土井君といい、慎重だねー。」


「同じマンションってバレると確かに変な噂流す人もいそうな気はするけど・・・。」


「やっぱりそんなにまずいのかな?」


と、私達は『そんなに慎重にならなくていいんじゃない?』と暗に彼を責める。(笑)


私としては、一応隠したいけどそんなに気にすることもないんじゃないかと思えてしまうのだ。だって、そんなことを言っていたら『お隣さんの幼馴染』なんて、どれだけ怪しまれるの?って気がするし。


「親が同居してればどうってことないけど、僕らは二人だけで住んでるから、いろいろ勘ぐろうと思えばできる。」


わたしが、『ん?』って顔をすると・・・


「ほら、例えば部屋に上げるのも親が居るのと居ないのとじゃ見え方が全然違うでしょ?」

そう安藤君が捕捉してくれる。


「なるほど~、いろいろ考えるんだね~。

 人生疲れそう。(笑)」


「 「 ぷっ 」 」


「それくらい慎重にならないといけないくらい注目されてるんだよ。」


「そうそう、そういえばせっかく今まで、百合カップルでカモフラージュして来たのに、今日来たばかりの土井君と仲良く話しちゃったからね。正直言って、梨桜が土井君の席に行ったとき、『あちゃー』って思ったよ。(笑)もうしょうがないから、あたしも混ざったけど。(笑)」


「それな!(笑)

 今日は意外と脇の甘い梨桜が見れた。(笑)」


「え~、私っていつもそんなに防御力高くしてたっけ~?」


「アハハっ。今まで男子の席に話しかけに行ったことなんてあるか?」


「・・・ないね。(苦笑)」


「一部男子は、血の涙を飲み込んでたぞ、きっと。(笑)」


今日の美沙ちゃんはなんだかとっても『S』チックです。


「そんなことないと思うんだけどな~・・・」


・・・と、自分のお子様体型を再確認する。


「でも、去年より確実に成長してるよ、そこも。

 小さい分だけ、伸びしろはある!」


「紗奏っ!!(笑)」


「あの、一応僕らもいるから、あんまりそう言う・・・」


「 「 あははっ 」 」


今日はとっても弄られる日だな~・・・

と、私はちょっと嬉しくなってしまった。

結構かまってちゃんなのかしら。(笑)


「ま、梨桜がうっかりするのも分かるよ。もう2か月も『ご飯同棲』だからな。ついつい家に居るときの距離感出しちゃったんだよな。」


「ご、ご飯同棲って!」


「あははっ」


「まぁ、9月からは頑張って二人で作るから。」


そう、安藤君のご飯の件はどうしようって話をしたら、『もちろん自分で作るよ』と言うのでびっくりした。女子でもなかなか自炊なんてする子はいないのに。


「ご飯同棲はともかく(笑)、北海道旅行は楽しかったね。」


そんな風に安藤君は話題を変える。


そう、なんと8月のお盆明けから、ウチと紗奏と美沙ちゃんの家族8人、それに土井君と安藤君を入れた総勢10人で北海道へ行ってきたのだ。


3泊4日! 今年の夏休み一番の超特大イベント!


紗奏のところは、なんでも協力会社さんを入れたとのことで、皆で少し休みを取るようにしたのだとか。働きづめだったしね。


美沙ちゃんのとこも、夏はしっかり空けてくれたし。

ただ残念だったのは紗奏の従兄さんがこれなかった事。

まぁ、大学生だもんねそうそう一緒はできないか。


歩いて散策する時には、紗奏が『今度こそ本間さんとヒグマの対決が見られるかも!』なんていうもんだから、『縁起でもない!』ってみんなに突っ込まれていた。けど、本当にいたる所に『クマ出没注意』だとか、『餌をあげないでください。』っていう看板が立っているのにはびっくりした。大きなヒグマは3mにもなるのだとか・・・それでもお父さんがやられちゃう姿はちょっと想像がつかない私は、たぶん感覚がおかしいんじゃないかと思う。(笑)



 カフェを出て、みんなで電車に乗る。


「ごめん、ちょっと・・・」


4人にそう言い、私は帰りがけに買ったケーキを持って、一つ後ろの車両に移動する。


扉を抜けるとすぐ目の前に見てくれ怖そうなその人が。


「お疲れ様です。はい、これ食べてください。」


「あ、あぁ、ありがとう。」

なんだかちょっとばつが悪そうに剣崎さんは笑っている。(笑)


皆のところに戻ると、さっそく紗奏が・・・

「餌付け?(笑)」


「これっ!(笑)」


後の3人も、『あぁ・・・なるほどな』って顔で納得してくれている。


ボディガードさんという、このこそばゆい感じもなんだかすっかり慣れてしまっていたし、考え方も少し変えてみた。


私だけじゃなく、みんなが安全にいられる。

それで良いんじゃないか・・・と。


お立ち寄りありがとうございました。


このところめっきり寒くなってまいりました。

ご自愛くださいますよう・・・。

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