ボディーガード
駅前でたむろするガラの悪い若者・・・どこかで見た事のある・・・
【ある日の出来事】
その日の夕方、信濃駅前には何やら怪しげな若者たちがたむろしていた。
「ぜってーぶっ殺す。」
「お前ら3人がかりで、あっさりヤラレルなんて、どんな中坊だよ。」
「チッ、油断しただけだ。
それにヤラレタ訳じゃねー。
誰が呼んだんだか、すぐサツが来やがってよ。」
彼らはイライラした様子で、辺りを睨みまわしながらそんな話をしている・・・。
「オイオイ兄さんたち、なんだか物騒な話しとるな。」
「んだ?テメー?」
そんなヤンキーたちに声を掛けに行ったのは、還暦は過ぎたであろうと思われるが、見るからにがっちりした初老の3人組だった。
「俺達ゃほら、この辺のご意見番みてーなもんさ。
まだお天道様も高けーうちから、殺すだの殺さねぇだのって物騒な会話が聞こえちゃー放っとけねぇだろう。」
そう言って少年たちに近づく。
「アー?ヤンのか?コラ?」
少年たちは今にも殴り掛からんばかりの勢いだ。
だが、いつものようにすぐ行動に移さないのは、彼らなりの『本能』がそれを躊躇わせているからなのだろう。
「そうはやるなよ。」
そのドスの利いた声と睨みに少年たちは立ち止まる。
暴力団だと勘違いしたのかもしれない。
「この間の仕返しだろう?
俺達ゃ、ちゃーんと見てたからな。
あの坊主にも釘ぃ刺しとくけどな、
お前らもちょっと付き合え。」
そう言って、今度は優しく声を掛け、すぐ目の前のファミレスへと連れて入った。
「ほら、何でも好きなもん頼め。」
少年たちは、黙ってついては来たものの、すぐに『はいそうですか』と言いかねてお互いに目を見合わせる。
「心配しねぇでも、取って食やしねぇよ。」
「あの、本職の方ですかね?」
「ん?
んなこたーどうだっていいじゃねぇか。
ただな。ここいらで面倒事起されちゃぁ、ちょっと困るんだわ。俺らが。」
「・・・
・・・じゃぁ、すんません、頂きます。」
とたんに丁寧口調になった悪ガキどもが、注文を終える。
「耳に痛てー話は最初にしとくがな、
お前ら、今の警察とか法律とかなめてると先々困るぜ?
若けー頃は、やれ箔がつくとか言って簡単に無茶をする。
だがな、今は昔みてぇに未成年者だからって甘くはねーぞ?
場合によっちゃ、逆送されて被告人だぁ。
そうなるとどうなると思う?」
ヤクザが説教かよ・・・と思いつつ、少年のうち一人が答える。
「少年院、ですかね?」
「あめぇな。
つぅか、少年院ってのは家裁が送るもんだ。
それじゃダメだってのが逆送になる。
人を殺っちまったら、まぁ実刑食らうわな。
情状酌量の余地があって、イイ弁護士が付きゃぁ、猶予もあるが。
どっちにしろ、そうすると、ここで前科者ってぇ事になる。
どうだ?箔がつくか?」
「・・・付くんじゃ、ないですかね?
ムショなんて俺ら怖くねーし。」
「あぁ。お前らはな、刑務所も前科も怖くねぇ。
だが、いずれ結婚もするだろうし、子供も持つだろう?
するとどうなると思う?」
「子供とか嫁は関係ネーと思いますけど。」
「それがな、あるんだなぁ。
『加害者家族』っつードラマ、見たこたぁねぇか?
ノンフィクションで、いー内容だったんなんだがな。
今の名前なんてすぐ足が付いちまうから、まず名前を変えて引っ越す。
ところがな、これがまたどういう訳か周りにバレちまう。
すると嫌がらせされて住んでいられねぇからまた引っ越す。
そう言うのを延々と繰り返して、
行き場をなくして人生を締めくくるって話さ。
お前らが考えている以上に、世間は前科者に冷てえんだ。
それに今は、ネット社会と来てる。
あっという間に名前も顔も全国区だ。
いいのか?それで?」
少年たちは、ふてくされた様に互いを見回す。
「すいませんでした。」
「あぁ、分かりゃいい。」
丁度そこに、オーダーした食事が運ばれてくる。
「いただきます。」
「あぁ。」
「ところで、俺達、こんなですし、『盃』貰う事って出来ないっすかね?」
飯を食いながら、リーダー格の少年がそう問いかける。
「俺達ゃそんなんじゃねぇよ。」
そう答えた時の少年の変化を見逃す剣崎ではなかった。
・・・
「ごちそう様っした。」
「あぁ。」
そう言って席を立つ。
剣崎が会計を始めた、その時!
「死ねっ!、クソジジィ!」
リーダー格の少年が剣崎にナイフを突き刺す!
・・・
それを受け止めた左手から、血が滴り落ちる・・・。
「言っても分からねぇか、このバカが。」
そう言うと、剣崎はそのまま少年を投げ飛ばして拘束した。
傍にいた二人もすかさず残りのうち二人の腕を極める。
残った3人は互いに顔を見合わせる事しかできない。
「すんません。警察呼んでくれ。」
「は、・・・ハィ。」
あっけにとられ、硬直していたウェイトレスがようやく声を発する。
「切った張ったがしてぇならな。
最低限、相手との力量差位は見極めろ。
こないだの坊主の時だってそうだ。
おめぇらと俺らにゃぁ絶ってぇ超えられねぇ壁がある。
分かるか?」
「クソがっ!」
「分からねぇなら、すぐ死ぬぞ。
極道にどんな夢見てんだか知らねぇがな。
おめぇらじゃぁ、鉄砲玉にだって使えねぇよ。」
・・・
・・・
「剣崎さん、なんでわざわざ怪我したんです?」
久しぶりに乗った警察車両の中でかつての同僚が聞いてくる。
「わざとじゃねぇよ。会計中で間に合わなかったんだよ。」
「あ。そうでしたね。」
いくら古巣であるとはいえ、自分たちは今、一般人だと言う事を思い出した山崎は同意する。
「一応、署で経緯をお聞きすることになります。
お手間を取らせますが。
すみません。」
そう、運転手は丁寧に言う。
まだ若そうな警察官だが、剣崎たちの事は知っているらしい。
いつもなら、必ず後部座席にも警察官がつくのだが、今は運転手の彼ただ一人だ。俺が現場で名乗ったからだろうが、南署も何かと忙しいのだろうと昔を振り返って、そう思った。
【縁とボディーガード】
あれから出来るだけ登下校は一緒になるようにしている。
本人からも特に拒絶はされないから承諾してもらっていると勝手に考えている。
ただ、周りから誤解されないよう距離は広めにとって。
今日も出来るだけ早い電車に乗り、駅で待っていると、彼女が集札を抜けてくる。
これだけ人が多くても直ぐにその存在が分かった。
目をつぶっていても分かる気さえする。
「あ。ただいま。」
「おかえり。」
そう言って歩き出そうとした、その時、
初老の男が真っすぐこっちに向かって来る。
不審に思い、迷わず彼女の前に立ち、男に声を掛けようとしたところで・・・
「剣崎さん。手、どうしたんです?」
僕の後ろからニョキっと顔を出した彼女がそう話しかけた。
「あぁ、姫。
心配ないよ。ちょっと転んでな。」
その老人は途端に相好を崩す。
「もうっ。姫は止めてって。(笑)」
「ちょっと彼氏を借りてもいいかな?」
見ず知らずの老人が僕に何の話があると言うのか?
そう訝しんでいると、彼女は不思議そうにこちらを覗き見る。
「縁君、何かした?」
いや、なんで僕が悪者になる。
「いや、心当たりはない。」
「あまり虐めないでくださいね。」
彼女は目の前の男に向き直り、にっこり笑ってそう言う。
・・・
それから僕は、この男に連れられて目の前のファミレスに入った。
「土井君ねぇ。
もうちょっと考えないとさ。
姫が大事なんだろ?」
僕の名前を知ってる?
誰だ?この人は?
また、さっきのやり取りから、『姫』というのが梨桜さんだと言うのは分かる。
しかしこの人とどういうつながりが・・・
そう、一瞬考えたところで、『ボディーガード』という言葉に思い当たる。
「梨桜さんのボディーガードの人ですか?」
「おい。
俺はもう現職じゃねぇ。
土井さんにゃ世話んなってるが、礼儀を守れよ、小僧。」
はらわたに響くような声でそう言ってくる。
その瞬間、雷に打たれたような衝撃とともに自分の犯した非礼に気づく。
この人の問いかけに、見下すような質問で返してしまった。
彼を訝しむがゆえに犯してしまった過ち。
「失礼しました。」
すぐに頭を下げ、非礼を詫びる。
「それで、梨桜さんは確かに大切ですが、僕が何か?」
「君、こないだ不良どもを投げ飛ばしたろ?」
あぁ、その事か。
あの場面では仕方がないと思うのだが。
「えぇ、あの場面ではやむをえませんでした。」
「違うねぇ。
全っぜん違う。
君があんな馬鹿な事なんてしなくても、姫は上手にあの場を収めてたさ。
正義漢なのはいい事だがな、それで反発を招くこともある。
あの不良どもがあの後どういう行動に出るか、考えたか?」
「そうしたら、また守るだけです。」
「またまた、全っぜん違うね。
本当の正義ってのは、『何にも起こらねぇようにする事』だと、思うんだがね。
正しい事だからって、それをただ振りかざしてちゃぁ、どんどん悪い方へ転がっていくもんだ。
畢竟、どちらかが死ぬまでな。
だから犯罪を防ぎたいと真に願うなら、
犯罪者を捕まえるときだって、相手の立場に立って考える。
仮にやっつけるときだって相手のことを考える。
そうする事で、『その後の犯罪を防ぐ』事ができると、俺達ゃ考えてる。」
「じゃぁ、あのまま放って置いたら良かったと言うんですか?」
「あの場面なら、放っておいても上手くやったと俺ぁー思うね。
・・・
なぁ、縁君。
・・・
その場の空気ってやつ、読めるか?」
「空気・・・ですか?」
「あぁ。あの場面なら、実力行使に踏み切りそうなのかどうか?
だな。
周りの目など気にしないのか?
人けのない裏通りならともかく、駅前で。
あるいは、後を付けていきそうな気配はあるのか?
そう言う空気を感じられるかって事だ。」
そう言われて、あの場面を思い出す。
・・・確かに彼女は落ち着き払っていて、相手との距離もあった気がする。空気も緊迫している・・・とまでは言えなかったか?
「あんとき縁君は、どう考えて不良どもを投げ飛ばした?」
あの時、僕は・・・?
「姫の立場で考えて割って入ったのか?」
そう言われて、改めて思い返すと、確かに困った様子ではなかったように思われる。
「好きな子の前で、良い恰好をしたいってのは若いころはみんな思うもんだ。
だがな、それがきっかけで、大事な人を危険に巻き込んだりする。
そう言う事があっちゃいけねぇぞ。」
「そうかも・・・知れないです。
すいません。
僕が浅慮だったと思います。」
「あぁ、
あの馬鹿どもと違って、やっぱり土井さんの息子だ。」
そう言って、満足そうな笑みを浮かべる。
・・・あの馬鹿どもと違って・・・?
「あの、ひょっとしてそのケガは?」
「あぁ、笑っちゃうねぇ、説教しようとして怪我しちまってさ。
まぁ、こんななぁ気にするこたぁねぇんだが、くれぐれも厄介事を姫の周りに持ち込まんでくれよ。」
「はい、肝に銘じます。」
・・・一つ一つ、骨身に染みる言葉だった。
良かれと思ってやったこと・・・
だが、今振り返ってみれば、確かにイイ所を見せたかったのかも知れない。
この人には、ある意味自分のせいで怪我を負わせてしまったとも言える。
・・・それにしても、梨桜さんが『姫』とは?
「一つお聞きしてもいいですか?」
「ん?」
「梨桜さんを姫と呼ぶ理由が聞きたいです。」
「あぁ、聞いてると思うが、俺達ぁあの子の警護をしててな。
それを仲介してくれたのが土井さんなんだが、
ひょんなことから彼女に気づかれてしまってなぁ、
ところが、それを疎んずるどころか、労ってくれるんだ。
コーヒー買ってくれるんだぜ?『お疲れ様です。』って。
それに、人が困ってるのを見かけると手を貸す、
見て見ぬふりはしない、
かといって、見ないで欲しいところは決して見ないんだ、あの子は。
ものすごく、相手の心情や場の空気を読むんだな。
今の時代にもあんな子がいるんだと、俺達ゃ嬉しくてね。
そんな訳で、今じゃ、俺らみんなあの子の大ファンさ。」
なるほど。
彼女が歩く度、こうしてその影響が広がっていくのか。
あの不良どもも、ひょっとしたら何事もなく心を入れ替えるきっかけにすらなっていたかもしれない。
全く、・・・自分はまだまだこれほどまでに至らない。
お立ち寄り頂きありがとうございます。
読書三昧の日々も、8か月も続けるとさすがに飽きてきます。(笑)
皆様もどうか適度にお出かけいただきますよう・・・。




