浅琲にて
今日は久しぶりに向かいの喫茶店で朝食を・・・
【喫茶店・浅琲】
『最近あまりいらっしゃいませんね。』
昨日、帰りがけに店の前(マンションの前)で、紫桜理さんにそう言われてしまった。
たしかに、梨桜と一緒に暮らすようになってから、ここへ来る回数はめっきり減った。
その、声を掛けられたときの彼女の様子が少し浮かないような気がして、高校生の頃から店を手伝う姿を知っている身としては、なんだか気になった。
そこでたまには変化もいいだろうと、『明日は外で食べるか?』と、二人に聞いてみたところ楽しそうに頷いてくれた。
そうして、今朝の朝食はこの浅琲で食べている。
土曜日という事もあり、店にお客は少ない。
去年まで頻繁にお世話になっていたモーニングセットは、さらに豪華に彩りも豊かになっていた。
これで採算が取れるのだろうか?
つい、そんな心配までしてしまう。
・・・
「 「ごちそうさまでした。」 」
二人も、とても満足した様子だ。
こういう顔を見ると親をやっててよかったと心底思う。
「それじゃ、俺はちょっと新聞でも読んで行くから。」
「は~い、じゃ私はお父さん来るまでカレーの番をしてるね。」
「カレーの番?」
「うん。今日の晩御飯はお父さん特性カレーだよ。
楽しみにしててね。」
「カレーって家によって味が違うよね。じゃ、今日はそれを楽しみに勉強する。」
「お昼は昨日言ってた焼き肉『宮さん』な。
もし、昼までに気が変わったら行きたいとこに連れてくから。」
そう言って二人を見送り、私は場所をカウンターへ移す。
「昨日の事気にしちゃった?」
他のお客さんがいなくなると、彼女は砕けた口調で話すようになる。
「いや、そうじゃなくてね。
ちょっと話でもしようかと思って。
どう?最近?」
「最近・・・、お客さん少ないよ。(苦笑)
伸さんも月に一度来るか来ないかだし。」
そう言って、可愛らしくこちらを睨む。
「ここはもともとご近所さんが多かったよな?」
「うん。駅から距離もあるし、出がけとか、帰宅前とかが多かったんだけど。」
「この間の事件が尾を引いてるのかな。
外からよく見える明るいつくりのチェーン系カフェと違って、ここはしっとり落ち着いた雰囲気だから。あの事件があって入りづらく感じられるのかもしれないな。」
5月に流れた警察官の仲介による援交問題が私の頭に浮かんだ。
報道によると、事件によく利用されていたのは、繁華街にある外から見えにくいカフェやレストランだった。
この店も、大きなガラス窓にはスモークが貼ってあり、中は間接照明で光量も抑えられている。非常に落ち着ける雰囲気なのだが、ああいう事件の後では心理的にちょっとためらってしまうのかもしれない。
「あ。なるほど。確かに先月からガクッと減ったかも。
でも、それより前からだよ。
駅前のファミレスがカフェ代わりに利用されやすくなったし。」
なるほど。
そういえば、去年梨桜に声を掛けられてここに入った時にも私達しかいなかったのを思い出す。
「これから夏に向かうし、表にテーブルを出してみたらどうかな?
それと、このスモークも剥がした方がいいと思う。
せっかくのこの素敵な店内が、外からは見えにくい。
・・・
とは言っても、その辺はマスターのこだわりかな?」
「あ。テラス席ね?
それいただき!
それから、外から見えやすくするのも大賛成。
お店の切り盛りはもう私に任されちゃってるから平気だし、
もともとこういう『知る人ぞ知る』的な雰囲気づくりってどうなの?
って思ってたんだよね。
アイデアありがとう。」
そう言って彼女は微笑む。
いつの間にかすっかり大人になったのだなと、不意に思った。
(Sunrise Sunset ・・・小学校の時聞いたその曲が頭に浮かぶ。)
「いやいや、アイデアという程のもんじゃないだろ。
けど、それじゃ、イイ気になってついでにもう一つ。
紫桜理ちゃんもパンツスタイルから、スカートにした方が店を明るくするなら雰囲気には合うんじゃない?」
「あー!
『ちゃん』付で呼ばれるの、すっごい久しぶり。(笑)
なんかイイね、やっぱり。」
そう言ってまた満面の笑みを浮かべる。
「私はこっちの方が動きやすいんだけど、
やっぱりお客さんにすると結構違うのかな?」
「常連さんはともかく、一見さんにはパッと見の印象が柔らかいほうが良いな。面接でも、パンツよりスカートの方が好印象に映るというデータも出てるし。」
「なるほど。面接かぁ・・・
私はここがあったから就活しなかったなぁ。(笑)」
「もうここは紫桜理ちゃんの店みたいなもんだからな。(笑)」
「もう永久就職しちゃおうかな?」
そう言って、またにっこりと微笑む。
うむ、スマイル0円ならぬ、100万ドル取ってもいい笑顔だ。
これだけ器量も気立ても良いのだからそう言う人がいても全然不思議じゃない。ただ、そう言う場面を全く見かけ無かったのが、逆に意外だ。
「そんないい人がいたんだな。気が付かなかった。」
「もうっ!、今の返しは0点でーす。」
そう言って頬を膨らます。
ん?
失礼な感じにとられたのか?
「ごめん、失礼なことを言うつもりじゃなかった。
ただ、そう言う姿を見かけなかったからさ。」
「そうじゃなくー!」
そう言って、ぐっと顔を近づけてくる。
「今の場合は
『お、おれ?そうだったの?』
とかってキョドるところだよ!(笑)」
そう言ってカラカラ笑う彼女。
「ぷっ、二人で漫才してどうするんだ。(笑)」
どうやら少しからかわれていたようだ。
浅琲はもともと、マスターが趣味で開いたようなもので、売り上げがどうのという心配はないのだろう。ただ、働いている紫桜理さんにすれば、客が来ないのではやる気も薄れてしまうというものだ。
そういえば、・・・
と、ここに越してきたばかりのころを思い出す。
彼女が高校生の頃。
制服で手伝っていた時にはいつも混んでいた。
どんな業種にせよ、地域型のお店で『子供が手伝っている』というのはそれだけで大きなセールスポイントなのだろうな。
おいでいただきありがとうございました。
随分涼しくなってきました。
皆様ご自愛を。




