土井さんとの食事会(後編)
土井署長との食事会の中、思わぬ事実に席を立った伸朋だったが、
娘に慰められ、席に戻る。
【土井】
「佐川さんと昔何かあったのか?あいつ。」
「奥さんと娘さんの名前を聞いて感極まったって感じだったわね。」
「その時期にどこかで会ってた・・・?
佐川さんの娘さんが初恋だった・・・?
それにしてもあの様子はおかしいだろう。
そういえば・・・
梨桜ちゃんが、『お母さんの戸籍謄本とればわかる』って言ったな。
佐川さんの娘さんの方が唯さんだとして、
初恋の相手で、
梨桜ちゃんのお母さんだったって事か?
しかも今の今まで気づかないまま・・・。」
俺はそう言って、息子に目をやる。
これはこいつが持ってきた『縁』なのか?
梨桜ちゃんが言ったように、いずれはこの事実に気づくのだろうが、今ここで、というのが亡くなった彼との『縁』を感じさせる。
【伸朋】
「悪かった。取り乱した。」
「お前も普通の人間なんだな。」
「・・・。」
「お父さん?」
「あぁ。
そのお前達を助けて亡くなった佐川さんがたぶん、この子の祖父だ。
娘の唯さんが俺の幼馴染の子だってずっと気づかなくてな。
小さいころ新形に住んでたんだ、うちの近くに。
で、たまたま前の会社の同期になった。
3年間一緒だったのにな。
・・・だから、なんだか胸に来るものがあった。」
「あらあら。それはまたすごい偶然もあったものね。
それであんなに・・・。」
「出社初日の朝礼の時は妙に懐かしいような気がしたんだよな。
向こうは気がついていたのかどうか・・・。」
「気づいていたら、きっと言うわ。
あなただって気づいたら絶対に言ったでしょう?」
「そうだな。
・・・
なんかしみったれた流れになってすまんな。」
「いや、いい話じゃないか。」
いい話・・・、か。
確かに死んでしまった唯さんは今更どうすることも出来はしない。
私としては悔やんでも悔やみきれないが、彼女のことに気づき、仮に付き合うことになっていたとしても、その死が回避できたかもしれないなどとは思わない。
きっと、ただそばに居たかっただけなのだ。
梨桜が私を訪ねてきたあの日、思わず泣けてしまったのはあるいはどこかで何かを感じたのかもしれない。
【縁】
大人たちの静かな昔語りが終わると、父さんは飲み物をビールからコーヒーに変え、母さんと本間さんは次のビールジョッキをぐっとうまそうに飲む。
こういう時くらいもう少し飲んでもよさそうなものだけど、父さんはジョッキ1つ以上は飲まないことにしているようだ。それもここ最近はずっと飲んでいなかったはずで、この異様な硬さも僕にとってはなんだか誇らしい。
「それで縁、この間も聞いたがお前は俺たちと一緒に引っ越すのか?
残ってもいいんだぞ?」
・・・家でどっちでもいいって言っておいて、今更残るなんてどの口で言えと言うんだ・・・。
「だから俺はどっちでもいいよ。」
「まぁ。
じゃぁ連れて行こうかしらね?(微笑)」
「・・・・・・。」
これは、『残りたい』と言わせたいんじゃない、
『残らなくていい』と言わせたいのか。
きっとその後、何か言ってくるに違いない。
こんなに『ドS』だったか?うちの両親。
今までなら『じゃぁ残れ』ってなるんじゃないのか?
「どっちでもいいはだめだ。お前が決めろ。」
「僕は残りたい。」
ここで、残らなくていいと言ったら、おそらく負けだ。
「よし、良く言った。
場所はな、こいつのマンションに空きがあるそうだから、そこに住め。」
「そうね、いざとなったら本間さんがいるわね。」
マンション?
中学生の僕がそんなとこに一人で住んでいいのか?
普通下宿とかじゃないのか?
「あぁ。それは任せてくれ。子供が一人だろうが二人だろうがそう変わらん。」
「それと、学校はどうする?」
「学校?」
「今までは官舎に近いと言うのもあるし、こっちに来た時のつてもあって今の学校にしたんだが、電車にしろバスにしろ、公立の南中のほうが近くて便利じゃないか?それに、安藤の息子は南中なんだろ?その子も残りたいって言ってるらしいぞ?」
嬉しい話だが、ここで即答するのはさすがに嫌だ。
「その安藤君とは面識はないんだけどな。」
「そうじゃなくてだな。
ウチはともかく、あっちとしては中学生一人置いていくわけにゃいかないだろうし、お前とその子が一緒に住んでお目付け役として本間がいれば話もスムーズにいくんじゃないか?ってことだ。」
なんだ、一緒に住めって事か。
いや、そういう理由を作ってくれたんだな。
子供の僕の顔を立てるとか、どんだけだよ。
さっきどういう風に答えても、結局は僕の気持ちを汲んでくれたんじゃないか?
こういう両親のもとに生まれたことに感謝しなきゃな。
同じキャリア警察官の息子同士、いろいろ情報交換も出来そうだし、勉強だって一緒にできるだろう。
実は相当良い提案じゃないのか?
「うん。僕はそれでいいよ。
じゃない、そうしたい、ありがとう。」
そう、ちゃんとお礼は言って、頭は下げる。
こういうのも家族の基本だと僕は思う。
【梨桜】
「ということで、梨桜さん、
うちの愚息をよろしくお願いしますね。(微笑)」
またその悪魔のような微笑みでそうおっしゃるんですね。
え~~っと、これは何とお答えすれば正解ですか?
『はい、私が責任をもってお預かりします。』・・・?
それとも、
『し、しかたないから、このアタシが面倒見てあげるわ!』
・・・ぷっ。
(イケナイイケナイ、変な妄想すると吹き出してしまう。)
(いえ、今のこの場を盛り上げるためにはあえて?)
などと考えたが、とりあえず無難に微笑んで頭を下げておくことにした。
そして、
「でもよかったね、これで一緒にカラオケいけるよ?」
と、縁君に会話のバトンを投げる。
しかも、麗子さんの弄りやすそうな話題で!(笑)
「あ、あぁ。その節は宜しく、お願いします。」
「ふふっ、この子ったらもう。
なんかこういうの見ると、いじめたくなるわねぇ。」
「いや、母さん、本当に凄いんだ、梨桜さんとその友達は。
俺がそう言ってるだけじゃない。
それはもうネットの数字にも表れてるから。
きっと、芸能事務所も梨桜さんたちを探してると思う。
あ。ほら、デザイン事務所のCMは前一緒に見たことがあるだろ?
もう一人の子はあの子だよ?」
「まぁ、そうだったの?
ふふっ、あなたがそんなに熱く語るなんてねぇ。」
「お前もネットなんて見てたんだな。
ずっと勉強ばかりしてるように見えたから、ちょっと心配だったんだが。」
「でもお父さんとしてもいろいろ大変ね。こんなに可愛いのに、世間から騒がれるほど歌も上手いなんて。」
「喜んでくれる人がいるなら、やった甲斐がある。
ただ、この子はそう言う衆目の前に出るのを嫌がってるから、
そっとしておいて欲しいんだがね。
あぁ、それから、家事も手伝ってもらってるし、
実際は俺の方が助かってるくらいだ。」
「あら~、それはいけないわ。
あなた、いい人紹介できないかしら?」
あれ?この流れはまずい!
「あの~、ありがたいお話ですけど、お父さんはもう売約済みで。」
「あらあら。梨桜さん、親子で結婚はできないのよ?」
ぷっ、なんてお決まりなことを!
でも、『お父さんの籍に入らなければ、結婚できたんですよ!』
な~んていったら、ドン引きされるかしら。(笑)
「実はお父さんにはもうとっても素敵な女性がいるんです。」
「おいおい、そんな人はいないぞ。」
お父さん、さっきのことで思慮を欠いていますよ?
お見合い話をされるなんて、お父さん的に望まないでしょ?
ほら、ちょっと考えて、ね?
「もちろん、私が成人するまでは我慢してもらいますけど。」
そう言ってお父さんを見つめてみる。
「・・・お前にそういう目論見があったとは、今はじめて気づいた。」
あれ?これは何か違う方にとった?(笑)
この場を濁そうと思っただけなのに、
お父さんガチにとりましたね!
・・・でもこれはこれでいっか。
「お?なんだなんだ、隅に置けないじゃないか。
詳しく聞かせろよ。」
「ふぅ・・・
会社の部下に何故かたいそう気に入られてるようなんだが、年が一回り以上違うから、そういう目じゃ見れないって伝えてある。」
「とても素敵な人なんですよ。
麗子さんにはちょっとだけ及びませんが。」
といって、仕返しとばかりに微笑んでみる!(笑)
「まぁ。(微笑)
この子ウチに欲しい。なんだか闘志が湧くわ。」
「おいおい、まだ嫁姑戦争を始めるには早いと思うんだが・・・。」
「ふふっ。
ところで、本間さん。一回り違うって、30手前くらいでしょう?
今ならそのくらいの年の差なんていっぱいあるわ。
それに、女性ならちょっと焦りだす時期よ。
梨桜さんが成人するまで待つと、妊娠の問題も出てくるし。」
妊娠の問題?そんなに早く産めなくなるんだっけ?
「えっと、妊娠の問題というと・・・?」
私がそう聞くと、麗子さんは土井さんの方へ眼を向けちょっと考えるしぐさをする。
「えっとね、これは早めの結婚を勧めるわけじゃないから、そういう意味でとらないでね。年を取ってから妊娠するとね、子供にいろんな影響が出る場合が多いのよ。母親本人にもね。35歳位には一度産んでおいたほうが良いと思うわ。もちろん、40歳を過ぎても、50歳近くになっても元気な子供を産む人もいるけど、やっぱり統計的にはね。障碍のある子供が生まれる確率は上がるから。」
それは初めて知った。
そうか、子供の障碍かぁ・・・それは考えたことなかった。
とりあえずこの場を濁そうと振ったのが、
とんだシリアスな路線に入ってしまった。
(でも、この人とのトークバトルはなんだかとても楽しい。)
芹野さんは確か今年で25歳。
あと5年頑張って待ってもらおうと思っていたのだけど、30歳じゃきついのかな?
あんなに素敵で、あんなにお父さんを思ってくれる(たぶん)人なんてそんなにはいない。(いや、お父さんはとっても素敵だけど、いい人が寄って来るかは運だから。)
これは私の姉妹を含めての大作戦に練り直す必要があるかも。
「そうなんですね。初めて知りました。
女性ならやっぱり、自分の子供も欲しいですもんね。」
「おいおい、俺は子供はお前以外いらないぞ。
というか、別に妻だっていらない。」
「ダメですよ、お父さん。
年を取ったら、ちゃんと奥さんと縁側で日向ぼっこするのです。
私はそれを遠目に見ていじけるので。(笑)」
( ( ぷぁっはっはっ! ) )
「あなた、この子本当に中学生かしら?」
「だな。さっき本間が手洗いに立ったときなんて、娘というより奥さんみたいだったしな。」
「えへへ。おだててもなにも出ませんぜ、アニキ。」
「ぷっはっ、この話術も大したもんだ。
本当にウチにも梨桜ちゃんみたいな子がもう一人欲しいわ。」
「それはなに?私への要求ととっていいのかしら?」
「あのさ、思春期の子供の前で盛るのはやめてくれ。」
「アハハっ(笑)」
縁君も突っ込みどこが上手くて速い!
「さて、それじゃぁこの辺にして、
縁ご自慢の梨桜ちゃんの歌でも聞きに行くか?」
「俺は良いが、電車の時間に遅れるなよ。」
「あぁ、19時くらいに出りゃ十分だろ。」
「お前は平気か?」
「うん。」
「お前達もいいよな?」
「ええ、私も梨桜さんの歌がとっても聞きたいわ。(微笑)」
「僕ももちろん。直接聞けるなんて。」
「今分かったわ。私のこのモヤモヤは梨桜さんに対する嫉妬ね。
ごめんなさい、大人げなくて。
いやな気分にさせなかった?」
「いえ、私も麗子さんとのトークバトルはとても楽しいです。」
「あら~。これはもうウチの子決定ね~。」
「この子は絶対誰にもやらん!」
「アハハッ、もうっ!
心配しなくてもどこにも行かないって。」
「本間のこんな姿を俺は初めて見たぞ。
今までの人物像が根底から覆った。」
「あのさ、カラオケの時間が無くなる。」
「うん。いこ。」
そう言って私たちは、カラオケに行き存分に歌ったのでした。
本当に一つの家族みたいに。
お立ち寄り頂きありがとうございました。
また、評価くださり感謝です。
つたない読み物で恐縮至極です。




