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突然ですが、娘ができました。2  作者: ほととぎす
第1章の2 中学3年生編 (援助交際疑惑)
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警察官の腫瘍

時間は少し戻り、援助交際の詳細な情報を入手した

土井署長は、その捜査に乗り出します。


(作中の地名等は全て架空です。)

  【神川県警】


 神川県警しんかわけんけいでは2年前から増え始めた県民からの意見に対応するべく、地域力の向上を一つの目標に掲げて取り組んできた。


にもかかわらず、いや取組み前にもまして同種の意見が多く寄せられるようになり、県警幹部は頭を痛めた。


 それが女子高生が絡んだビジネスと思われるものであったのだが、こういったものは傍目にはそれと分かりにくい事から、そうたやすく職務質問を掛けるわけにもいかず、具体的な情報が無い中ではなかなか取り締まることが難しかった。


 通常であれば、この種のビジネスはどこかで綻びが出るケースが少なくない。暴行や傷害、金銭トラブルに伴う女性側からの通報がその端緒となることが殆どであったが、神川県においては寄せられる情報量に比べて、そう言ったトラブルが殆ど出ていなかったことも、悩みの種であった。


つまりは追う糸口を探しあぐねていたのだ。


 そういった折、ちょうど定年で空きができる警察署長ポストがあった。

 通常このポストは、多くの場合ノンキャリア警察官が就くことになるのだが(警視庁以外では)、このような事情から、県警幹部は一人のキャリア警察官をあてることにした。


 県警の幹部というと誰もがキャリア組のエリートを想像するが、実際はノンキャリアが多数を占めることが多い。この神川県では本部長以下3人のキャリア幹部がいたが、『掃除屋クリーナー』こと土井一明警視正を引っ張ったのはこの中の警務部長であった。ただ、むろんこんな通り名はキャリア以外は知らないところである。


 同署においては当初、口にこそ出さないもののこの人事に対する不満がそこかしこに見受けられた。(地元人事が突然東京人事になったのだから当然と言える。)

しかし、署長に就くことになった土井の人柄により、わずかの期間で好意的な雰囲気へと変化していった。


 土井は当初から、この神川県南警察署内部を疑っていた。

というのも、県民からの情報元の多くがこの警察署管内であったことに起因する。もっともだからこそ彼がここへ配属になったのだが。


 地域の巡回記録簿を悪用した例はこれまでにもあり、今回のような件にはあてはまるように彼には思われた。


 着任してからというもの、激務の合間を縫っては地域課の巡回記録簿を眺めていった。家に帰るのは明け方になる事もたびたびであった。そうした中、土井はひとつのわずかな違和感を発見する。報告から、巡回連絡にかける時間がかなり多いと思われる割に、件数が比例していない者がいたのだ。それを追っていくと、今度はさらに不自然なことが浮かび上がる。彼と同年代の独身男性が多く、一戸建ての年配者など、本来協力が得やすい層の記録がほとんどない。

それ以外にも妙な偏りを感じた。そこで、他の署員に不審がられぬよう彼についての情報を集めていたのだが、署内の評判は上々のようで、これと言って怪しむべきところはなかった。


 そんな手詰まりとも思える状況の中で僥倖となったのが、彼の幼馴染が土井に渡した情報だった。

 ○聞き取りがやけに長い(中学生の娘がいた)

 ○中学生の学区について聞いていた(区割りまで知っていた)

 ○巡回連絡中にタブレット端末を操作していた

特に、制服警官は勤務中の個人端末の使用を原則禁止しているところが多い。この神川県もそうだ。この時点で彼の当該警察官への疑いは相当濃いものとなっていた。



  【土井一明】


「もしもし、俺だ。」


『お疲れ様です。』


「ひょんなとこから、いいネタが上がった。

 それで人手がほしい。」


『やりましたね。何人要ります?』


「4人出せるか?」


『・・・女警4人ですか。』


「2人でもいけない事はないんだがな、難しいか?」


『いえ、何とかします。そちらの人は使えませんしね。』


「頼む。」


 捜査はこれで何とかなる。あいつに任せておけば大丈夫だろう。


俺は電話をかけた後、対象のデータをメールで送っておく。


しかしそれにしても・・・自分のとった巡回記録簿の中に今回の被疑者が4名ともそろっていたなど、あいつは利口なのかバカなのかまるで分らない。


この件の捜査においては、当初から対象が署内にいると想定して動いていただけに、まさか捜査に署内の者を使うわけにもいかないのが悩みどころだった。それを解消するため、今年は部長に掛け合って安藤を呼んだのだが、これで結果が出せなければ危ういところだった。



  【安藤史季】


 土井さんから連絡をもらい、私は直ぐ警務部長、総務部長、次いで本部長へ報告する。この件で私が来たことは、その経緯も含めキャリアの本部長、警務部長は承知している為、『いよいよか』という顔をしたが、そのいきさつに詳しくない総務部長は怪訝な顔をした。だがそれを、本部長がなだめる。総務部長はノンキャリアの地元最古参ゆえ本部長も気を遣う。


 これで想定している通りに進めば県警の信用は確実に落ちる。だが、まさか放っておくことなどできはしないし、昔なら内部で処理していたのだろうが、今はそういう時代ではない。


膿は出し、公表し、信頼の回復を図る。それが最善だと警察庁は知ったのだ。


土井さんが送ってくれた情報を個人で精査して整理する。


・・・


そうして数時間もすると、内線が鳴った。


 私は応援に集まってくれた4人の女警らとともに小会議室へと向かう。


「では、来てもらった理由から説明する。」


 ・・・


 私は、県警の取り組みと、条例違反の可能性のある4件について説明し、まずはその4人の女子高生に話を聞くよう指示した。


「いいか、くれぐれも対象に対しては慎重に取り扱うように。

 周囲の目には特に配慮し、彼女たちは被害者であるとの認識をし、

 十分な配慮の元聞き取りを行ってほしい。

 それから、聞き取りの際には、彼女たちをできるだけリラックスさせ、

 細部までしっかり話してもらう事、以上だ。」


「 「 はっ !」 」



  【今井巡査部長】


 私が地域に根差した警察官になりたい、と願い頑張ってきたことがようやく認められた気がすると同時に、背筋が伸びる思いで安藤警務課長から直接の指示を受けた。


署長から直接呼ばれたときは、何事かとひやりとしたものだったが、本部に行けと命じられた際にはさらに驚いた。


(県警本部・警務課長からの直々の指令、こんなことが・・・)


 指示された内容は、青少年保護育成条例に違反する恐れのある事例が出てきたため、まずはその被害者(当事者の女子高生)に事情を聴くようにとの事だった。


 対象の『能代果歩』さんについてはしっかり頭に叩き込んだ。

周囲に配慮するため、私服での聞き取りという指示が出ている。


そして、学校帰りの彼女を待ち声を掛ける。


「今日は、私は今井と言います。ちょっとだけ時間いいかしら?」


警察手帳を見せ、出来るだけ優しくそう声を掛けると、彼女は警戒感をにじませつつも頷いた。


車に乗ってもらい調べておいた喫茶店へ向かい、一緒に入る。


私が彼女に事実確認をすると、意外にもあっさりと認め、だが『悪い事はしていない』、とはっきり言った。男女の関係はないと言いたかったのだろうと私は思った。


私はセオリー通り、あなたは何も悪くない、ただ相手は『青少年保護条例違反という犯罪行為』にあたる事、また、こういうことをすることで、ともすると暴力行為に至ったり、脅迫されたりという事件に発展する可能性が高いことなどを、出来るだけ優しく彼女に話した。


最初こそ強気であった彼女も、やはり警察官に直接話をされているという事実に、次第にしおらしくなる。


そして、女性としてこういう相手は許せない、しっかり対処したい旨を繰り返して話し、彼女に事実関係についてひとつづつ確認を取った。


「それから、こういうことは必ずもっと悪い奴がいて仕切ってるから、今日のことは相手には絶対言わないでね。」


そう念を押しておく。



  【安藤】


 翌日、直接こちらに来てもらった彼女たちに話を聞くと、4名とも素直に事実関係について話してくれた、とのことだった。


さて、第1ステップまでは順調だ。


被疑者は4名とも既に退職しており自宅にいることが多いだろう。

ここからは裏にいるやつに気付かれないようにする必要がある。


彼女たちを二人一組にし、今日明日の二日間で被疑者達に事情を聴きに行ってもらうことにした。


証拠資料、被害者の証言もあり言い逃れはできないだろう。


 - 2日後 -


 昨日、一昨日、被疑者4名にあたったところ、彼らは素直に認めたと言う。

ただ、『同意であり、罪にはならないんじゃないか?』、『ただ飯を食って、お小遣いをあげただけなのに何がいけないんだ?』とは言っていたと。


しかし、証拠写真を見せるとさすがに抵抗する気も失せたようだ。

確かに一線は越えていないのだろうが、さりげなく体に触れる様子がしっかりと映っていた。


また、土井さんの睨んでいた通り、被疑者達は『沢木巡査長』から情報を得てこれらを行い、報酬も支払っていたと、これはあっさり認めた。

そして、『手を出さなければ罪には問われない。手を出したら俺が捕まえる。』と言われていたという。


捜査に当たった彼女たちによれば、被疑者達と沢木の力関係はすっかり逆転していると考えられ、『沢木』の名前を出す際にはおどおどしていたという事だった。

人のいい警察官を装い、その実市民を裏切り脅すとんでもない奴だったのだ。


 私はこれらすべてを報告書にまとめ、沢木の所持品に対する差し押さえ令状を取り、土井さんへ連絡を入れた。


『すべてやらせてしまって、悪いな。

 しかし、さすがだ。お前を呼んでよかったよ。』


「いえ、とんでもありません。

 ご期待に添えてよかったとホッとしています。

 人を出してくれた各署長にもお礼の連絡をしたところです。

 皆、非常に優秀でした。」


『それで今日来るんだな?』


「はい、13時にそちらに。」


『了解した。沢木は呼んでおく。』



  【土井】


「おう、沢木、来たか。」

俺は努めてフレンドリーにこいつに話しかける。


「ハッ!、お話があるとの事で沢木巡査長、参りました。」


「まあ、そう畏まらずにそこに掛けてくれ。」

そう言って、座るよう促す。


「君が常々地域住民を大事にして職務に当たっていることは前任の署長からもよく聞いているよ。」


そう言って、俺はこいつの警戒を解き、あいつが来るのを待つことにする。あと5分だ。


・・・


署内がざわつき始めた。


来たな。


(コン・コン・コン)


「入れ」


「失礼します!、県警本部安藤警務課長、山本管理官をお連れしました。」


私は立ち上がり、彼らに敬礼する。

(当然沢木巡査長もそれにならうことになる。)


「沢木巡査長、青少年保護育成条例違反に関与した疑いがあるため、捜索差し押さえ令状を執行する。」


山本管理官がそう言葉を発すると、沢木は真っ青になった。

何も言葉が出ないようだ。


この捜査にあたった4人の女警が彼の所持品を接収していく。


そして、沢木は山本管理官に取調室へと連れていかれた。


「手間をかけたな。」


そう声を掛け、座るよう促す。


「いえ、お力になれてよかったです。」


「署内がざわついてるから、ちょっと待っててくれ。」


そう言って土井は、副署長、警務課長、地域課長を呼ぶ。


近藤、大川、前田があわてて署長室にやってくると、彼は概要を説明した。


 ・・・


「申し訳、ありませんでした。」


土井とは一回り以上も違う白髪の近藤副所長が直角に腰を折る。


「いや、こっちこそ、こそこそやってしまって申し訳なかったと思っている。ただ、身内の捜査だから、そこは理解してもらいたい。」


「いえ、とんでもありません。部下の指導が行き届かず、言葉もありません。」


そう言って、3人とも深く頭を下げた。


「この件が片付いたら、おそらく私は異動になるから、後のことは副署長に任せる。よろしく頼む。」



それから、数日後、沢木は依願退職することとなった。

いずれは逮捕・起訴されることとなる。


署内でごった返す記者を近藤副署長が対応しているが、

遠からず記者会見も必要となる。

それが誰になるかはまだ分からないが。



その日、記者たちが引けた後、私は署員に訓示をする。


「今回、このような結果となってしまい、大変残念に思っている。

 君たちにおいては、ひょっとしたら次は自分かと疑心暗鬼に陥って

 いる者もいるかもしれないが、その身にやましい事がないならば、

 心配には及ばない。


 また、今回のように我々権力のあるものがそれを曲げて使う事の重

 大さも十分分かって貰えたと思う。


 昨今我々警察の威信は、自らの失態によって度々傷つけられている。


 一度失った信頼を勝ち取るのは並大抵ではないぞ。


 それを肝に銘じ、強く自分を律して、職務に励んでもらいたい。


 以上!」


  「敬礼!」


  『ザッ!』


・・・

   ・・・

      ・・・


「お疲れさま。大変だったでしょ?」

「あぁ。さすがに疲れたな。」


「先にお風呂にします?それとも食べる?」

「・・・その続きはないのか?(笑)」


「あらっ(笑)私はそれでもかまいませんよ?」

「いや、冗談だ。先に風呂にする。」


遅くなりましたが、事件解決についてになります。

山も谷もないお話ですが、秋の夜長の暇つぶしになれば幸いです。


下記書籍を参考にさせていただきましたが、すべてその範囲内に

あるかは断言できませんので、叱るなら私を。


【参考書籍】

 ・警察手帳(古野まほろ)

 ・警察官白書(古野まほろ)

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