過去
過去のつながりが
土井さんの口から明らかに・・・
【梨桜】
「おっ、大丈夫か?縁。」
「うん。」
テーブルに戻ると、3人はなんだか楽しそうにビールを飲んでいる。
「悪いが、先に飲んでるぞ。
お前たちも、好きなもの頼め。」
「梨桜さん、ありがとう。
ごめんね、押し付けちゃって。」
そう言って麗子さんは微笑んでる。
・・・この笑顔にとてつもない『悪意』を感じます。ワタクシ。
「いえいえ、私がしでかしたことですから。
いつの間にこんな能力が備わったんでしょう?」
私たちはとりあえず、お昼をオーダーする。
「今まで女の子に興味が無いようなことを言ってたわりに、
やっぱり男の子だな。安心したよ。」
「・・・もう今日は好きに弄ってくれ。
さすがにこんな醜態をさらした後じゃ言い訳する気にもならない。」
「あら、言い訳があるなら聞くわよ?」
麗子さんは相変わらず『悪魔の微笑』で縁君をさらに追い込む。
「それについてはですね、私がYoutubeに『歌ってみた』って言うカラオケを上げていてですね、縁君はそれをとても気に入ってくれてたみたいなんです。」
「ふふっ。そうなの。よかったわね。」
「名前の通りいい『縁』があってよかったじゃないか。
俺も名付けた甲斐があるってもんだ。」
「私は、人から名前を頂くのはどうかしら?って言ったんだけどね。この人が名前を頂くんじゃない、良い縁がこの子にあるよう祈りを込めて付けるんだ、って。」
「そうなのか。お前にそんなところがあるとは知らなかったな。」
「25年前の渋谷無差別殺傷事件。」
「ん?」
「あそこに当時中学生だった俺と、母親がいたんだ。
亡くなったのは・・・」
「あなたっ。」
「あぁ。すまない、ここで話すことじゃなかったな。」
「ちょっと待って、それ、僕の名前に関係がある事なんだろ?
聞いたことなかったんだけど。」
「遠慮する間柄でもないんだし、俺も興味がある。」
土井さんは、麗子さんの方へ眼をやると・・・
彼女は『仕方ないわねぇ。』というそぶりを見せる。
「そこで亡くなったのが、最初に襲われた女子大生と、警察官だった。」
「お前たちを守って亡くなったのか?」
「女子大生が襲われた時、俺と母さんは現場からわずかの場所であっけにとられていた。その後奴は何人かに切りつけ、母さんにも切りかかってきた。そいつを確保してくれたのが亡き佐川警視長だった。」
「佐川・・・」
「お父さん!」
「ん?、知ってる人だったのか、佐川さん?」
「いや、そうかもしれないってだけだ。
佐川なんて名字はそう珍しいもんじゃないしな。
ただ、知り合いの警察官に佐川さんっていう人がいたんだ。
俺が小学校へ入る前に近所に1年くらい住んでた。」
「そうか。
それでな、母さんの怪我は大したこともなく、俺たちはほっとしていたところに、さらに事件が起きた。そいつの連れだった女が、落ちたナイフで佐川さんを刺したんだ。
その場にいた俺たちは、何が起きたのかわからなかったよ。ただ、俺はとっさに佐川さんから流れ出る血を、止めようとしたんだな。
その女は周りの大人たちが引きはがして、そこに警察官が駆けつけて、その場は収まった。
佐川さんの名前はその後、テレビや新聞で知った。」
「その人のご家族の名前なんてわからないよね?」
「ん?
まぁ、そうだな。あの当時からそういう情報は外には出なかったはずだ。ただ、俺は佐川さんの血を必死に止めようとしてたからな、彼の口から漏れ出たのを聞いてしまった。」
「聞いちゃダメ?」
「・・・どっちがどっちかわからない、二人の名前で楓と唯。彼はそう言ってた。」
「お父さん!!」
お父さんの方を振り向くと、涙がこぼれ落ちている。
「いや、楓という名前は確かにゆうちゃんのお母さんだが、
『ゆう』ちゃんが、唯さんだとは限らんだろう。」
「お父さん、本気でそう思ってる?
認めたくないだけでしょ?
お母さんの戸籍謄本とればすぐわかるんだからね。」
「あぁ、まぁ、そうだな。
悪い、ちょっと手洗いに行ってくるわ。」
「すみません、付き添ってきます。」
【伸朋】
まさかな・・・
そんなことが。
ある訳がないと思いながら、涙は後から後から流れ落ちてくる。
唯がゆうちゃんだったのか・・・?
俺は何で気づかなかった・・・?
唯は気が付いていたのか・・・?
何で守ってやれなかった・・・?
俺は、肺の奥底からうめき声をあげて泣いた。
【梨桜】
お手洗いに行くと、お父さんは両手をついて静かに呻きながら泣いている。
・・・口から魂がこぼれてしまいそうなほどに・・・
私は優しくお父さんの頭を撫でながら聞いてみる。
「おとうさん。
タイムマシンがあったら、昔に戻りたい?」
「あぁ。・・・あぁ。
あの頃の俺をぶちのめしに行きたい。」
「でも、そうすると今の私はいないかもね~。
・・・
どうしようもない過去でも、
・・・
変えたいような過去でも、
・・・
それがあって、今があるんですよ~。」
「あぁ。・・・」
そうつぶやくと、じゃぶじゃぶと顔を洗い始めた。
(よしよし・・・辛かったね。)
お読みいただきありがとうございました。
実はこの部分が一番書きたかったことです。ハイ。




