久しぶりの謁見 3
「バトラス、歳は幾つだ」
「今年で25歳になりますが、それがどうかしましたか」
同い年かよ。
それが7つも下の少女が好きだと? オレにはさっぱり理解できない、何考えてんだか。
「さ、サーチ、署名して」
対面に座り、ほおづえポーズでニコニコしているアン。
正直したくない。だがボゥロとバトラスはともかくディフィとセバスさんの視線が痛い。
まあ1年放っといて泣かしたのは事実だし、詫びの意味で署名してやるか。
本人欄にサーチ・ヴェルマークと署名する。それを受け取ったアンが何度も目を通して、にやにやする。頼むから軽い[何でも]にしてくれよ。
「──うん、わかった、代わるね」
そうアンが言ったかと思うと、ヘアバンドの中央が赤く光る。
「まったく、人の上に立つものは不動の心を持てとあれほど言ってるのに……。久しぶりだな従者サーチ、ようやく会えたな」
「女王か」
その途端、心臓を見えない手が掴む。
「ぐあぁぁ」
「敬称を付けんかまったく。せめて守護霊ならまだしも悪霊扱いしおって。自業自得だ」
こ、このやろう、全然変わってねえな。
「まあ、こちらの問題を片づけたから許してやる。今後は気をつけるように。それと私のことはシックスと呼べ」
「病気持ち? 自分が病気だと自覚して─ぐあぁぁ」
「お前は懲りるということを知らんのか。6世という意味だ。人前で女王と言われるのを子孫アンがいやがるのでな」
「人前で代わってるのか」
「たまにな。今日のグリーンヒル州知事との会食もそうだったよ。子孫アンがお前のことばかり──わかったわかった──まあそういうことだ」
脳内会話は相変わらずやってるらしい。
「さて、それぞれの挨拶は済んでるようだな。本題に入る。バトラス、あれを」
「は、シックス様」
部屋を出ていくバトラスを見送ったあと、素朴な疑問を訊く。
「バトラスはシックスのこと知っているのか」
「知っているのはここにいる者共と、子孫アンの両親のみだ」
「よく両親が納得したな」
「血の繋がりというのは濃いということだよ。子孫アンを通して魂の共鳴で納得させた」
「ヨセフさんは納得してるんですか」
オレが話をふると軽く咳払いをする。
「僭越ながらお嬢様を幼少の頃から御世話をさせていただいてますので、違うと判ります。そしてシックス様とお話しをさせてもらい、良き方と判断させていただきました」
「バトラスは……訊くまでもないか」
「納得したならいいが。従者サーチよ、私には無礼でヨセフには敬語なのはなぜだ」
「当然だと思うが──ぐあぁぁ」
「……ホントに学習しなくて懲りないヤツだな」
のたうちまわるオレを見ながら、ボゥロがそう呟いた。
※ ※ ※ ※ ※
バトラスが持ってきたのは、この前オレが手に入れた、手のひらサイズの秘宝箱だった。
それを受け取るとシックスは自分の席に座り、ディフィとバトラスは両脇の後ろに立つ。
オレとボゥロはデスクを挟んで立ち、セバスさんは少し離れたところに控えめに立つ。
「さて、財団が抱えてた3つの問題だが、はからずもすべて片づいた。従者サーチが来てスケイプ氏がスポンサーの約束をし、クレマ教授を抑えてくれた。これにより[財源][学術]の問題がなくなった」
「あとひとつは」
「法的な問題だな。王国の遺跡をケイツー家のものにするかどうかだが……、それは放棄することで解決した」
「放棄? いらないのか」
「もともと手に入れるつもりはなかったが、後々の駆け引きのため主張しただけだ。代わりに[ソーゲン村]をいただくことにした」
「はあ?! どういうことだよ──ぐあぁぁ。……ど、どういうことですか」
「まったく──。グリーンヒル州知事と話をしてな。
遺跡からの発掘物を展示する施設を最寄りの村であるソーゲンに建て、村全体を文化的リゾート地にする計画を打診した。すぐに快諾してくれたよ」
む、村全体をだってぇ。オレだけでなく全員が驚く。
「ここ1年で現代の仕組みをだいたい把握した。財団は非営利団体で利益を得ることはできないが、リゾート施設を管理する会社を創り、そこから利益を得て、寄付というかたちで維持費を捻出することにしよう。その会社の責任者を……ボゥロ、お前がやれ」
「お、俺ですか」
「お前は口が上手いし機転が利く。うまいことやれよ。起業の補佐にバトラスとセバスをつける。よいな」
「は」
「仰せのままに」
おいおい簡単に返事するなよ。そんなのできるのかよ。
「ケイツー家所有の会社から、起業のノウハウを教えていただきます。法的な手続きはバトラスが、ボゥロ様には経営者としての心得を」
「うむ。それと村のギルマスは何といったかな」
「トーマスのことですか」
「うむ、あの者を次の村長にさせる。グリーンヒル州知事には打診済だ。ボゥロ、トーマスの説得を任せる」
「は? はい……」
「よいな」
「はい」
「それらの資金はケイツー家とスケイプ財団から出させる。必ず成し遂げるように」
任命された3人は「拝命しました」と返事をする。オレは呆気にとられるしかなかった。
「どうした従者サーチ」
「……スケールがでかくてピンとこねぇ」
「この程度で驚くな。私はもっと大きな国を治めていたのだぞ」
シックスは少し自慢げに微笑んだ。




