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迷宮マスター  作者: 藤井ことなり
第2部 ロイヤルブルーの秘宝
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久しぶりの謁見 2

 エレベーター内の沈黙が重い……。


 3人とも同じようなスーツ姿で、アンだけがベージュのタイトスカートのスーツだ。


 ブロンドでひとつ編みだったのが、ストレートにしてヘアバンドでとめている。あとはそう変わってないかな。


「アン、久しぶりだな」


「……」


「ヘアバンドにしたんだな、あのティアラは持ってないのか」


「……」


「なんだよ、来い来い言っておきながら無視かよ」


 面白くないぞとばかりに言うと、つかつかと前に立たれて下から睨みつけられる。


「そうよ、何度も何度も来るように言ったのに、言い訳ばかりして全然来なくて……何回、航空券無駄にしたとおもってんのっ、キャンセル代もかかってんのよっ」


「高いところ苦手なんだよ」


「だから列車にしたのっ。それでもなんだかんだ言い訳して来なくて……1年よ、1年も無視されたのよ、なのに……、なのに……」


 真っ赤な顔になって黙ったと思ったら、こらえきれなくなったのか涙が溢れはじめる。


「うわぁぁぁ、サーチのバカーー、あんたなんか、あんたなんか……うわぁぁぁ」


 ディフィが一大事とばかりにアンを後ろから抱きしめ、かばう。


「サーチ、謝りな」


「あ、いや、ゴメン」


「うわぁぁぁーーーーー」


 さすがに悪いと思ったんで謝ったが、泣きやまない。


「もっとちゃんと心を込めて」


「だからゴメンて。遠いんだし仕事があるから仕方ないだろ、会いに行く理由なんてないし」


「理由がないって言ったー」


「あ、ほら、こうして来たんだし許してくれよ、大したことないだろ」


「大したことないって言ったー」


「あ、いや、だからもう……面倒くさいな」


「面倒くさいって言ったーーーーーうわぁぁぁん」


「サーチっ!!」


 ディフィが片手でネックブリーカーをかけ、オレを吊り上げる。苦しくて逃れようと足をバタバタさせる。


「やめろディフィ、エレベーター内で暴れるな、止まっちまうぞ」


 ボゥロが止めに入って、ようやく助かった。


※ ※ ※ ※ ※


 5階にある理事長室で、オレは3人分の冷たい視線を受けている。


 クルマを置き、合流したセバスさんとバトラスに、床にしゃがみ込んで泣き止まないアンを見て何があったかと訊ねられる。


 ずっと傍でなだめているディフィが、エレベーター内でのことを話したので、無言のまま非難の目でオレを見ているのだ。


 この場を何とかしないといけないのは分かっているが、どう言えばいいかが分からない。


 困りきったオレはボゥロに助けを求める視線をおくる。


 やれやれという顔をしながら近づいてくると「助けてやるから借りはチャラにしろよ」とささやく。


「ああ」


 小声で返事をすると、ボゥロはアンに近づき声をかける。


「理事長、そろそろ泣き止みませんと用が済みませんよ」


 泣いたままいやいやをするアン。


「サーチも謝ってますし」


 またもやいやいやをする。


「反省してますから。お詫びに何でもいうこときくって言ってますし」


「はあ?!」


 何言い出すんだボゥロのヤツ。だが効果てきめんでアンがピタリと泣き止む。


「ホント? ホントに何でもいうこときくの?」


「ええ。エレベーターでそう言ってたの聞きませんでした?」


「言ったっけ? 言ったかな? 言ったような気がする、うん、言った、私聞いた」


 言ってねぇーーーーー、アイツ何て都合のいい耳と頭してるんだ。


「ディフィ、そう言ったよね、聞いたよね」


「ええ聞きましたよ。何でもきく、一生ドレイになるって」


「まて、さすがにそこまでは言ってないぞ」


 するとまたアンが泣きそうな顔になる。まずい。


「いや……、何でもいうこときくまでは言った──かもしれん」


「ほらやっぱり言った。何でもだよ、何でもだよね」


「やれる範囲でだぞ」


 立ち上がり近寄ってオレの手をとり、満面の笑顔でぴょんぴょんと跳ねる。


 アンの笑顔をみるのはそれなりに嬉しいのだが、[何でも]がなんなのか気がかりで素直に喜べない。


「あ、そうだ。バトラス、誓約書を作って。何でもいうこときくって約束の」


「おい、そこまでしなくてもいいだろ」


「ダメよ、1年も無視したバツよ。バトラス、お願い」


「かしこまりました」


 理事長室にはアン用の席と来客用のソファセット、それ以外に事務用の席が設けられており、バトラスはそこで(手慣れた手つきで)誓約書を打ち込みプリントアウトする。


 それをアンに見せて確認したあと、テーブルの上に高そうな万年筆とともに置く。


「さ、署名してね」


 アンが手を引きソファに座らせる。やれやれと思いながら文面に目を通す。


─────────────────────

誓約書


私(署名者)はケイツー家の御令嬢でありケイツー財団の理事長であるアン・ケイツーによる要請を1年間無視し続け、不遜にも精神的暴力を加えたのを認め、後悔および反省した証明として一切拒否をしない[何でもいうこときく]をここに誓います。


署名(本人)


署名(証人)

署名(証人)

署名(証人)

署名(証人)


─────────────────────


 ……悪意を感じる文面だな。


 ちらりとバトラスを見る。すまし顔だが唇の端にザマアミロという感情がありありと出ている。


 ──そういうことか。こいつ、アンのことが好きなのか。


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