突然会食 3
「ヴェルマークさん、私は息子の敵をとれるなら命は惜しくない。その秘密を教えてくれませんか。そうすれば犯人が狙ってくる、向こうからやってくるということなんですね」
「お、おい、シェパード、私たちもいるんだぞ」
「なら席を外せばいい。出ていかないなら、私とヴェルマークさんが出ていく」
「落ち着け。いつもの冷静なお前に戻れ。ヴェルマークさん、シェパードは冷静さを欠いている。席をあらためたい」
「いや、ストーク教授。聞かせてもらおうじゃないか、どうせハッタリだ」
「クレマ教授」
クレマ教授は、なにゆえここまで敵意を持つのだろう。
歳下のアンに嫉妬してるにしても、一切認めない、全否定の姿勢をくずさない、聞く耳持たない人を説得するのは、それこそ時間の無駄だ。
やはりスケイプ氏を納得させるのがいいようだ。
「そうですね……ああ、みなさんに話しても大丈夫か。ここにいるみなさんは頭のいい人ばかりのようだし、問題無いかな」
「どういうことです」
先程からストーク卿が代表して応答してくれる。
3人のなかでいちばん冷静なようだから、彼に話すのがベストかな。
「話しても、ヤツはやはり私を狙いに来るということです。ディフィ、君だけでも出ていくといい」
「はっ、あたしはサーチのお目付け役としてここにいるんだ。出るわけないだろ」
いつものディフィの返事が心強く感じる。
さて、架空の殺人鬼に追われる[真実]を話すとするか。
「ではお話ししましょう、報告書に書かなかったというか書けなかった事実を。
──遺跡を発見し、[王国の秘宝]を手に入れ帰る途中までは報告書どおりです。
隠しているのは帰る途中、皆が寝静まってジョン──を装った殺人鬼が、焚火の番をしているときの夜の出来事です。
尿意を覚えた私は目を覚まし、パーティーから離れたところで用を足していると、後ろから殺人鬼に首を絞められたのです。そして囁かれました『今度こそ殺してやる』と」
ここでいったん区切り間をおき、すぐに話を続ける。
「声でジョンだと分かり──すいませんスケイプさん、私たちはあとで調査報告を受けるまでずっと新米冒険者のジョンだと思っていたのです。もともと似ていたのか整形手術を施したのかわかりませんが、少なくともギルドの審査を欺けるほどの狡猾なヤツだったので、ずっとジョンだと思っていたのです」
「かまいません、続きをどうぞ」
「では──突然ジョンが理由のわからないことを言いながら首を絞めてきた。
混乱しましたが、死にたくない、また理由を知りたいという一心で、締めてくる手を抑えながら「どういうことだ」と訊き返しました。
その時はじめて自分は何十年もダンジョンで冒険者を殺害している快楽殺人者だと告白され、そして私の父を殺したと教えられたのです。つまりあの殺人鬼は私の父のカタキなのです」
「なんですと」
「ふん、作り話を」
「いや、クレマ教授、私は彼の経歴書も読んでる。たしか10歳のときに父親が亡くなって天涯孤独の身になってる」
「そのとおりですストーク卿。15年前、父のガイドでダンジョン攻略中に落盤事故が起きて死亡しました。
しかしそれは事故でなく殺人鬼の仕業で、その時一緒だった私も殺されかけたのです。
運良く落盤からまぬがれた私は、父に叩き込まれた技術のおかげで生還できました。その時の恐怖は未だに忘れられません」
「それが、本当なら……犯人は15年、いやそれ以上のあいだ犯行を繰り返していることになる。警察は何をやってるんだ」
「そこですよ、ヤツが狡猾だといったのは。警察の目が届かない危険な場所で事故死にみせかけて殺していたからなのです。しかし計算外のことが起きました、それが私なんです」
「……快楽殺人者の気持ちなぞ分からないが、つまり殺しそこねたヴェルマークさんが生きているのが許せないと」
「そう言ってました。そしてまた計算外が起きる。ヤツは歳を重ね、私は成長していたということです。
確実に殺そうとして自ら手をくだしたため、護身術を身につけていた私に反撃されたのです。
右肘をつかってヤツのわき腹に肘打ちを入れ、すぐさま右足でヤツの足の甲を踏みつけようとしましたが、これは外れました。
あとで護衛職だったディフィにきくと、反対だ、まずは足の甲を踏むんだと教えてくれました」
身振り手振りをしながら臨場感たっぷりに話す。
これは実際にやられたことだから、真実味あるだろうな。
「外した足をそのまま後ろに蹴り上げ、ヤツの股間にヒットし、怯んだ隙に脱出、ようやく対峙することになりました。
私の腕力に驚いたのでしょう、しばらく対峙したあとみんなのところに走っていき、私たちの食料の入った荷物を持って暗闇に消えていきました。それが話していない事実です」
ひと通り話し終わってからストーク卿をじっと見る。鍵はこの人だ、うまく気づいてくれよ。
「それが事実なら、なぜギルドや警察に言わなかったんだ。殺されかけたのに言わないだなんて、おかしいだろ」
クレマ教授が案の定文句を言ってきたが、それには応えずストーク卿を見続けた。
しばらくの沈黙のあと、ストーク卿が口をひらく。
「……いや、……そういう意味か。だったら確かに私たちは、このことを口外できないということか」




