突然会食
ボーイに案内されたレストランの個室に着くと、促されて中に入る。
そこには8人は座れる円卓があり、年配の男が3人座っていた。
恰幅のあるひとりはジロリと、ひょろりとしたひとりは観察するように、そしてがっちりとしたもうひとりは複雑な感情の表情でオレを見る。
「お待たせしました、サーチ・ヴェルマーク氏をお連れしました」
そう紹介したのはディフィで、バトラスが調達してきたドレスを着て、オレと腕を組んでいる。
「ナイキくん、その姿はどうしたんだね。なんというかまるでクラブのジャズシンガーみたいじゃないか」
ディフィの身体にフィットした、スリット入りの紫のドレス姿に、目を輝かせながら観察男が尋ねる。
「ヴェルマーク氏は普段フィールドワークをしているので諸般に疎いところがあります。皆さまに失礼がないよう、サポートするように理事長から指示されました」
「それならいつものスーツでもよかろうに。そんな格好なんか、無駄だ」
ジロリ男が憤慨するように言うとディフィの腕に力が込められ、痛い思いをする。
どうやらコイツがクレマ教授とかいうヤツらしい。
「いいではありませんか、なんというかステキなレディがいる方が食事は楽しいものですよ。さあ席にどうぞ」
観察男が円卓の向かい側に座るように促した。
ディフィが会釈するので、合わせて会釈したあと座る。
するとクレマ教授がフフンと笑う。
「連れの女性がいるのに椅子をひいてやらないとは。たしかに常識を知らぬようだな、無駄なヤツだ」
え? そういうものなの?
ディフィを仰ぎ見ると睨みつけられてる、どうやらそうらしい。そんなの知るわけないだろ。
慌てて椅子を引いてやろうとしたが、気を利かせたボーイにその役を取られる。
手持ち無沙汰で棒立ちしているオレに座るように促され、されるがままに座り椅子を動かしてポジションを整える。
その際、ギーギーと鳴らしてしまい、またもやクレマ教授が常識知らずと揶揄する。
それをなだめて、観察男が話しはじめる。
「さて、自己紹介させてもらおう。グレイ・ストークという。中央都市大学の教授だ、専攻は古文書分析でなんというかいちおう貴族だ。財団の学術監査というクレマ教授と同じ仕事をしている。で、こちらが──」
ストーク卿が複雑男を指す。
「財団のスポンサーで、スケイプ財閥の総帥であるシェパード・G・スケイプ氏だ」
紹介されたとたん、オレとディフィに緊張が走った。
「はじめましてヴェルマークさん。いちどお会いしたかったので、失礼ですが急遽、会食の席を設けさせていただきました」
複雑男はジョンの父親だったのか。
ディフィは知ってたのか? ちらりと横を見ると強張った顔をしている、どうやら知っていたようだ。
なんとなく緊張しているなと思ってたが、オレのことじゃなくてスケイプ氏に対してだったのか。
※ ※ ※ ※ ※
──その後、コース料理が運ばれたが、やれナイフとフォークの持ち方が悪いだの、食べ方がみっともない、汚いなどと、いちいちクレマ教授が突っかかる。
だんだんイライラしてきたが、テーブルの下でディフィが足を踏んだり蹴ったりしながら落ち着けという合図を送ってくる。
こっちはギルドのダイナーでハーブチキンソテーのベリーソースかけしか食ってないんだ、そんなの知るわけないだろ。
頭にきてキレそうになる前に、ストーク卿がダンジョンでの仕事を訊ねてくる。
「ヴェルマークさんの報告書を読むのが楽しみでね。なんというか学生達のレポートと違って独特の視点で書かれているのでとても面白い。どんな人かと会うのを楽しみにしてたんですよ」
「はあ、──」
ディフィに蹴られる。
「あ、ありがとうございます。どっか、変でしたか」
また蹴られる。
「ど、どのようなところが、面白かったのでしょうか」
「なんというか、そう、小説を読んでるみたいかな。迷宮に至るまでの探検記のような記述、迷宮内の描写もなんというか宝を隠した遥か昔の故人との知恵くらべをしているみたいだ。おかげでそれらを隠した故人が、なんというかどんな人生を送ってきたかを想像して、楽しくなってくる」
嬉しそうに話すストーク卿に好感を持つが、クレマ教授の不満気な顔と、ずっと無言のまま料理を食べるスケイプ氏が気になり、苦笑いしかできなかった。
食った気もしないコース料理が終わり、コーヒーを飲んでいると、ずっと黙っていたスケイプ氏がようやく口を開く。
「……ヴェルマークさん、息子を殺したヤツはどんな男でしたか」
そのひと言で室内の空気が変わる。
ストーク卿はもちろんだが、クレマ教授もさすがに緊張した面持ちになる。
「お、おい、シェパード、なにもこんなところで」
「黙っていろグレイ。そのためにこの席を用意したんだ」
突然の会食の席は、スケイプ氏の意向だったのか。
「出来の悪い息子だったとは思います。ひと様にも少なからず迷惑をかけるような子でした。恨みを買ってろくな死に方をしないぞ、と叱ったこともあります。そしてそうなりました。ですが──」
スケイプ氏が言葉をつまらせる。




