迷宮マスター?! その2
「どうしたの、男同士でなに泣いてるの」
ギルド入口から入ってきたアンとディフィが驚いているので、ボゥロが振り向いて説明する。
「なんでもない、トーマスは昔から感激屋だからサーチが親友の仇をとった話で感極まっただけだ」
オレはあらためてアンたちを見る。
白い膝下ブーツに白のショートパンツ、ライトイエローのシャツに白のコートワンピース、編み込んだブロンドロングヘアーにグリーンのベレー帽、そしてポシェットを肩掛けしている姿はお嬢様そのものと感じる。
いっぽうディフィといえば、黒のアフロに褐色の肌、ピンストライプの茶系のスーツに白の開襟シャツと、初めて会った時と同じような格好をしていた。
「すまない、顔を洗ってくる。注文はキャシーにしてくれ。ボゥロ以外な」
「うぉい!!」
ボゥロのツッコミを背に、トーマスはそそくさと洗面所へと向かった。
空いた席にアンが座り、ディフィはその斜め後ろに立つ。
それを不思議に思い訊ねる。
「ディフィ、今日は仕事なのかい」
「ああ。……ん? なんか変だな、ボゥロ、ちゃんと話したの」
「え? ……ああまだだ。ジョンの押収品をディフィの元パートナーが──」
そこまで話したボゥロに、ディフィがものすごい勢いで詰め寄り、そのままボゥロを壁にぶつけてネックブリーカーのように吊り上げる。
「余計なこというんじゃないって言ったろ。どうしてそんなおしゃべりなんだお前は」
「わ、わりぃ。つい口が……」
真っ赤な顔をして、締める手に力がこめられ、言い訳するボゥロが首を絞められ蒼くなる。
「ちょ、ちょっとディフィ、やめなさい。ボゥロが死んじゃうってば」
アンに言われてディフィはようやく力を緩めるが、離さない。
そして顔をこちらに向け、アゴでこっちに来いとオレを呼ぶ。
おずおずと席を立ち、おっかなびっくり近寄ると、ボゥロと同じように腕で首を絞められるように肩を抱き近寄せられる。
「サーチ、このおしゃべりみたいな目に遭いたくなかったら、よぉく聞きな。あの時カミングアウトしたコト、絶対にアンに言うなよ。わかった」
「カミングアウトしたコトって……、同性愛者っ──ぐあぁ」
「そ・れ・を・い・う・な・と言ってるんだ。アンに知られたらどんな顔して会えっていうの。絶対に言うなよ」
「わ、わかった……」
オレにとってアンたちは依頼人だ。
当然守秘義務があるから話さない。
ついでに言えばややこしい事に巻き込まれるのはもうごめんだ。
いっときはパーティーも悪くないと思ってしまったが、気の迷いだ、面倒くさい、やっぱり独りがいい。
これっきりでもう会わずにすむのなら、墓場まで持っていくさ。
「ねえ、なに話してるのよ。私に話せないことなのぉ」
不貞腐れてふくれっ面のアンに、ディフィは笑顔で振り向き、
「そうじゃないの、ふたりに今後のことをレクチャーしてただけよ。もう終わったから本題にもどりましょ」
そう答えてオレ達をなかば力ずく席に戻し、アンの斜め後ろの位置に戻った。
……ところまで一緒だったが、ボゥロがディフィの反対側、つまりアンの斜め後ろに並んで立った。
よくみるとスーツの襟に同じバッヂをつけている。
「ジョンの調査報告が終わったようなので、あらためて私から話しますね。まずはサーチ、案内をありがとう。おかげで未発見の地下王宮を発見したという功績ができたので、教授会の重鎮たちを見返せたわ」
「そういや最初はそれが目的だったな、おめでとう」
「ありがとう。で、ここからが本題。わたくしアン・ケイツーは大学を辞め、新たに財団法人を設立。そこの当主となりました」
「財団法人て……」
「簡単に言えば他から資金をもらって非営利活動、つまり儲けずに世の中のためになることをする集まりね」
「何をやる気なんだ」
イヤな予感がしてきた。
「世界中の文化財を発掘し後世に残す活動なんだけど、サーチにお願いがあるの」
「断る。オレも入れっていうんだろ、お断りだ、もうあんなひどい目にあいたくない」
「まってサーチ、話を最後まで聞いて」
「イヤだ。ボゥロ、ディフィ、お前たちもグルだな」
オレの言葉にボゥロは肩をすくめる。
「別に騙しちゃいないさ。今回のことで俺はもうギルドを脱退、引退したのさ。慰謝料は払ったが娘たちの養育費が残ってる。だからアンの財団に就職したのさ」
「ディフィもか」
「ああ。女性専門護衛会社は辞めてきた。今はまだ名前の決まってない財団法人の警備主任だ、もっともあたしひとりだけどな」
フフンと自慢気に鼻を鳴らす。どうやらアンに誘われてふたつ返事で引き受けたな。
「お願いサーチ、あなたの能力が必要なの。未開迷宮を探るには[エコーズ]の能力が必要なの。あなたなら迷宮のマスターになれるわ」
アンは切実に訴えてくれるが、オレの意志は変わらない。
今までどおり、独り気ままにダンジョンを探索して地図作成してギルドに売り、ハーブチキンソテーのベリーソースかけを食べられれば、それでいいんだ。
「相変わらず聞きわけないねぇ」
苛立ったディフィが近寄ろうとするが、アンがそれを制止する。
そしてポシェットから何かキラキラするものを取り出した。




