迷宮マスター?! その3
ベレー帽を外して代わりにそれを被る。あのティアラだった。
「それ持ってきたのか」
「持ってきたも何も、これはケイツー家の所有物なんだから受け継いだといっていいでしょ」
「よく委員会が許したな」
「委員会には宝箱の方を[封印]して渡したわ。アレを開けるまでは気にしてないでしょうね」
ティアラを被り、中央の大粒の赤石が輝く。
両手をテーブルの上に重ねておく。醸し出す雰囲気に威圧感がある。女王降臨か。
「久しぶりだな従者サーチ。話には聞いていたがなかなかの偏屈ぶりだな」
同じ声だがもの静かで鷹揚なもの言いは、17歳の才気あふれる少女とはとても思えない威厳がこもっている。
後ろのディフィとボゥロが緊張して直立不動の姿勢をとる。
どうやらふたりはもう女王に接しているらしい。
「ふたりとも女王に会ったのか」
「こら、口を慎めサーチ。女王陛下の御前だぞ」
慌てふためくボゥロに、オレは呆れる。
「女王ったって、国土も国民もいない、大昔のだろ。今はただの幽霊みたいなもんじゃないか」
「サーチっ!」
「よい、ボゥロ。従者サーチの言うとおりだ。今の私はそんなところだ。今はな。
子孫アンの話の続きだ。財団法人とやらの表向きは遺跡の発掘と保護だが、真の目的はそれでは無い。このティアラの対のアイテムを探すためだ」
そう言ってティアラを指さす。
「これはあと6つでひと揃いとなるものでな、それを集めたい。そのための組織と、資金を確保するための財団なのだ」
「揃えてどうするんだ」
「子孫アンも言ってたであろう。それが別世界へ通じる鍵なのだ。私はそこに行きたい。
アイテムはおそらくすべて地下世界にある。地の底で役に立つお前の能力が必要なのだ。
待遇は良くするぞ、手伝ってくれぬか」
「断わるに決まってるだろ。それを取りに行くということは、当然アリントみたいな奴らが守っているんだろ。あんな死にそうな目に、なんでわざわざあいに行かなくちゃならないんだ」
「ダンジョンには危険はつきものだろう」
「危険の種類が違う。とにかくもう御免だね」
オレの態度に業を煮やしたのか、ディフィが前に出る。
「サーチ、いい加減にしな。女王陛下がこうして頼んでいるんだ、受けなさいよ」
「いやだ」
「この、いい加減に……」
「やるかディフィ、今のオレならお前をズタズタにできるんだぞ」
掴まれたら負ける可能性があるから、席を立ち距離をとる。
テーブルを挟んで睨み合いをしていると、ボゥロが割って入る。
「待て待て待て、すぐに暴力で解決しようとするな。ディフィ、ここは俺に任せろ」
ディフィをなだめたあと、ボゥロはオレに近づくと肩を抱き小声でささやく。
「相変わらず世渡りが下手だなお前は。ムキになればなるほどディフィもそうなるの分かってるだろう」
「そうは言ってもイヤなものはイヤなんだ。ボゥロもアッチの味方なんだろ」
「立場上はな。だが、お前さんに助けられた恩を忘れているわけじゃないぜ。そんなにイヤならとりあえず先延ばしにしろよ」
「先延ばしって、どうやるんだよ」
「そうだな……とりあえずやるって口約束して、あとで財団で正式契約するってのはどうだ。
それなら俺たちはいったん帰れる。その間にどっかのダンジョンに逃げてしまえばいいじゃないか」
「そんなんで誤魔化せるのか」
「俺に任せろ、うまくやるからさ。それとも何かいいアイデアがあるのか」
「うーん……、わかった、任せる」
たしかにこのまま居座られても埒が明かない。
とりあえずお帰り願おう。後のことは後のことさ。
話がまとまると、ボゥロは大きな声で女王に報告する。
「女王陛下、このボゥロ・ダイドーの説得によりサーチ・ヴェルマークは快諾してくれました。この場で陛下と約束するそうです」
「そうか。サーチ、手伝ってくれるのだな」
「ああ。正式な契約はあとで財団でするとして、手伝うことにするよ」
ボゥロが女王の後ろにもどると、彼女は立ち上がりオレの前に来る。
「では、古の作法にのっとり、約束をしよう。サーチ・ヴェルマーク、汝はこれより我が子孫アン・ケイツーの従者として働くことを約束するか」
「ああ」
「約束」
そう言ったあとすばやく女王はオレに口づけ──つまりキスをした。
「!? な、なにを?!」
「主従の[約束]だよ。王族が信頼のおける従者と互いの魂を繋げる儀式だ」
「な、なにぃ」
た、たしかに、どう表現していいか解らないが胸の中の心臓あたりに、鎖みたいなものに繋がれた感覚がある。
「王族との約束はたとえ口約束でも正式契約となるのだよ。それを守らなければならない立場だからな」
「ボ、ボゥロ、騙したな」
「ま、悪くおもうなよ。慰謝料は払ったが、今後は娘たちの養育費を払わなくちゃならんのでな」
にやにやしながらうそぶいたので、頭にきたオレは[エコーズ・レゾナンス]をかましてやろうとしたが、できなかった。驚くオレに女王は言う。
「正式に従者となった以上、子孫アンの許可が無いと仲間を傷つけることは許されないぞ。ディフィもな」
そのディフィもオレに対してもの凄い敵意を向けている。さっきのキスはオレのせいじゃねぇぞ。
「アイテム探しが終われば[約束]を解いてやる。せいぜい励むがよい」
ティアラの輝きが消えた。威厳のあった女王が17歳の少女に戻り、顔を真っ赤にし、もじもじする。
「あ、あのね、サーチ……ごめんなさい……。でもどうしても一緒にやりたかったの、お願い、一緒にアイテム探しを手伝って」
深々と頭を下げるアンに、もう怒りを通り越してどうにでもなれという心境となったオレは、ため息をつくと、あらためて返事をする。
「わかったよ、アン。しょうがないから手伝ってやるよ」
顔を上げ、キラキラと目を輝かせホント? という笑顔を向けたので、反射的にうなづいてしまう。この笑顔は卑怯だなと思った。
「よっしゃ、これで契約成立だな。これからは仲間だよろしくなサーチ」
「ボゥロ、騙した分は貸しだからな。忘れるなよ」
睨みつけるオレを軽く受け流す態度をとられ、この野郎と舌打ちする。
「サーチ、これからよろしくな」
怒りを抑えながら手を出し握手を求めるディフィに、しぶしぶ応じると、やっぱり全力で握ってきやがった。
痛ってぇ、こういうのは攻撃扱いにならないのかよ。
ようやく離してくれたあと、アンのか弱い手で優しく握手する。
「──た、頼りにしてるからね」
「ああ」
……かわいいけど、あまりそういう態度をとらないでほしい。
ほらまたディフィが睨んでいるじゃないか。
ったく、しょうがねぇな。応えてやるよ。
「よぉし、それじゃ乾杯しようぜ。アンがいるからジュースでな。トーマス、頼むぜ」
ボゥロの陽気な声で注文すると、ジュースの入った3つの陶器コップと、コーヒーカップがやってきて、ボゥロの前にコーヒーが置かれる。あとはジュース。
「なんだよ俺だけコーヒーかよ、んー、しゃあねえ、これでやるか」
テーブルを囲み、それぞれコップを持つ。
「それじゃ、いくぞ。俺たちの無事帰還、財団発足、俺とディフィの再就職、そしてサーチというあらたな迷宮マスターの誕生に乾杯」
「「「「乾杯!!」」」」
それぞれの思いとともに、杯を飲み干した──。
ーー 第1部 了 ーー
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