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迷宮マスター  作者: 藤井ことなり
第1部 女王の帰還
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迷宮マスター?! その3

 ベレー帽を外して代わりにそれを被る。あのティアラだった。


「それ持ってきたのか」


「持ってきたも何も、これはケイツー家の所有物なんだから受け継いだといっていいでしょ」


「よく委員会が許したな」


「委員会には宝箱の方を[封印(シール)]して渡したわ。アレを開けるまでは気にしてないでしょうね」


 ティアラを被り、中央の大粒の赤石が輝く。


 両手をテーブルの上に重ねておく。醸し出す雰囲気に威圧感がある。女王降臨か。


「久しぶりだな従者サーチ。話には聞いていたがなかなかの偏屈ぶりだな」


 同じ声だがもの静かで鷹揚なもの言いは、17歳の才気あふれる少女とはとても思えない威厳がこもっている。


 後ろのディフィとボゥロが緊張して直立不動の姿勢をとる。


 どうやらふたりはもう女王に接しているらしい。


「ふたりとも女王に会ったのか」


「こら、口を慎めサーチ。女王陛下の御前だぞ」


 慌てふためくボゥロに、オレは呆れる。


「女王ったって、国土も国民もいない、大昔のだろ。今はただの幽霊みたいなもんじゃないか」


「サーチっ!」


「よい、ボゥロ。従者サーチの言うとおりだ。今の私はそんなところだ。今はな。


 子孫アンの話の続きだ。財団法人とやらの表向きは遺跡の発掘と保護だが、真の目的はそれでは無い。このティアラの対のアイテムを探すためだ」


 そう言ってティアラを指さす。


「これはあと6つでひと揃いとなるものでな、それを集めたい。そのための組織と、資金を確保するための財団なのだ」


「揃えてどうするんだ」


「子孫アンも言ってたであろう。それが別世界へ通じる鍵なのだ。私はそこに行きたい。

 アイテムはおそらくすべて地下世界にある。地の底で役に立つお前の能力が必要なのだ。

 待遇は良くするぞ、手伝ってくれぬか」


「断わるに決まってるだろ。それを取りに行くということは、当然アリントみたいな奴らが守っているんだろ。あんな死にそうな目に、なんでわざわざあいに行かなくちゃならないんだ」


「ダンジョンには危険はつきものだろう」


「危険の種類が違う。とにかくもう御免だね」


 オレの態度に業を煮やしたのか、ディフィが前に出る。


「サーチ、いい加減にしな。女王陛下がこうして頼んでいるんだ、受けなさいよ」


「いやだ」


「この、いい加減に……」


「やるかディフィ、今のオレならお前をズタズタにできるんだぞ」


 掴まれたら負ける可能性があるから、席を立ち距離をとる。


 テーブルを挟んで睨み合いをしていると、ボゥロが割って入る。


「待て待て待て、すぐに暴力で解決しようとするな。ディフィ、ここは俺に任せろ」


 ディフィをなだめたあと、ボゥロはオレに近づくと肩を抱き小声でささやく。


「相変わらず世渡りが下手だなお前は。ムキになればなるほどディフィもそうなるの分かってるだろう」


「そうは言ってもイヤなものはイヤなんだ。ボゥロもアッチの味方なんだろ」


「立場上はな。だが、お前さんに助けられた恩を忘れているわけじゃないぜ。そんなにイヤならとりあえず先延ばしにしろよ」


「先延ばしって、どうやるんだよ」


「そうだな……とりあえずやるって口約束して、あとで財団で正式契約するってのはどうだ。

 それなら俺たちはいったん帰れる。その間にどっかのダンジョンに逃げてしまえばいいじゃないか」


「そんなんで誤魔化せるのか」


「俺に任せろ、うまくやるからさ。それとも何かいいアイデアがあるのか」


「うーん……、わかった、任せる」


 たしかにこのまま居座られても埒が明かない。


 とりあえずお帰り願おう。後のことは後のことさ。


 話がまとまると、ボゥロは大きな声で女王に報告する。


「女王陛下、このボゥロ・ダイドーの説得によりサーチ・ヴェルマークは快諾してくれました。この場で陛下と約束するそうです」


「そうか。サーチ、手伝ってくれるのだな」


「ああ。正式な契約はあとで財団でするとして、手伝うことにするよ」


 ボゥロが女王の後ろにもどると、彼女は立ち上がりオレの前に来る。


「では、古(いにしえ)の作法にのっとり、約束をしよう。サーチ・ヴェルマーク、汝はこれより我が子孫アン・ケイツーの従者として働くことを約束するか」


「ああ」


「約束(プロミス)」


 そう言ったあとすばやく女王はオレに口づけ──つまりキスをした。


「!? な、なにを?!」


「主従の[約束(プロミス)]だよ。王族が信頼のおける従者と互いの魂を繋げる儀式だ」


「な、なにぃ」


 た、たしかに、どう表現していいか解らないが胸の中の心臓あたりに、鎖みたいなものに繋がれた感覚がある。


「王族との約束はたとえ口約束でも正式契約となるのだよ。それを守らなければならない立場だからな」


「ボ、ボゥロ、騙したな」


「ま、悪くおもうなよ。慰謝料は払ったが、今後は娘たちの養育費を払わなくちゃならんのでな」


 にやにやしながらうそぶいたので、頭にきたオレは[エコーズ・レゾナンス]をかましてやろうとしたが、できなかった。驚くオレに女王は言う。


「正式に従者となった以上、子孫アンの許可が無いと仲間を傷つけることは許されないぞ。ディフィもな」


 そのディフィもオレに対してもの凄い敵意を向けている。さっきのキスはオレのせいじゃねぇぞ。


「アイテム探しが終われば[約束(プロミス)]を解いてやる。せいぜい励むがよい」


 ティアラの輝きが消えた。威厳のあった女王が17歳の少女に戻り、顔を真っ赤にし、もじもじする。


「あ、あのね、サーチ……ごめんなさい……。でもどうしても一緒にやりたかったの、お願い、一緒にアイテム探しを手伝って」


 深々と頭を下げるアンに、もう怒りを通り越してどうにでもなれという心境となったオレは、ため息をつくと、あらためて返事をする。


「わかったよ、アン。しょうがないから手伝ってやるよ」


 顔を上げ、キラキラと目を輝かせホント? という笑顔を向けたので、反射的にうなづいてしまう。この笑顔は卑怯だなと思った。


「よっしゃ、これで契約成立だな。これからは仲間だよろしくなサーチ」


「ボゥロ、騙した分は貸しだからな。忘れるなよ」


 睨みつけるオレを軽く受け流す態度をとられ、この野郎と舌打ちする。


「サーチ、これからよろしくな」


 怒りを抑えながら手を出し握手を求めるディフィに、しぶしぶ応じると、やっぱり全力で握ってきやがった。


 痛ってぇ、こういうのは攻撃扱いにならないのかよ。


 ようやく離してくれたあと、アンのか弱い手で優しく握手する。


「──た、頼りにしてるからね」


「ああ」


 ……かわいいけど、あまりそういう態度をとらないでほしい。


 ほらまたディフィが睨んでいるじゃないか。


 ったく、しょうがねぇな。応えてやるよ。


「よぉし、それじゃ乾杯しようぜ。アンがいるからジュースでな。トーマス、頼むぜ」


 ボゥロの陽気な声で注文すると、ジュースの入った3つの陶器コップと、コーヒーカップがやってきて、ボゥロの前にコーヒーが置かれる。あとはジュース。


「なんだよ俺だけコーヒーかよ、んー、しゃあねえ、これでやるか」


 テーブルを囲み、それぞれコップを持つ。


「それじゃ、いくぞ。俺たちの無事帰還、財団発足、俺とディフィの再就職、そしてサーチというあらたな迷宮マスターの誕生に乾杯」


「「「「乾杯!!」」」」


 それぞれの思いとともに、杯を飲み干した──。




ーー 第1部 了 ーー

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