ダンジョン、クリア
共振の波動は広範囲に影響が出るのでアリント達も悲鳴というか鳴き声というかつらそうな奇声をあげる。
だがジョンにだけ致命的な攻撃なので何とか耐えてる。
そのジョンもしぶとく天井にしがみついていたが、ついに力尽きて落ちてしまう。
オレたちは(少なくともオレは)そこまでしか考えてなかった。
だが予想外の光景がはじまる。
アリントがジョンを喰いちぎりだしたのだ。
まるで本物のアリのように虫の死骸をみつけて群がり大アゴで喰いちぎり解体しながら巣に運ぶごとく、群がっていく。
それを見せないよう抱きかかえアンの目と耳を塞ぐ。
オレが最初で最後に見た光景は、ジョンの首が大アゴでひと千切りにされたものだった。
「女王、止められないのか」
「もう遅い。もともと決闘場から逃げ出したらそうなる運命だったのだ。同情しなくてもよいぞ、あれはお前も平等にそうなるように命じていたからな」
耳に残る断末魔の声、ダンジョンにこだまする引き千切られる音、アリントの咀嚼音が続き──最終的にはコリコリという音になったので、骨だけになったなと想像した。
アリントの恐ろしさを、まざまざと見せつけられた。
「大丈夫なのか、今度はオレ達を襲ってこないか」
「私がいるかぎり大丈夫だ。だが心配ならすぐさまここから出るのだな。どうする」
「もちろんすぐさま出る。ボゥロ達と一緒にな」
アリント達が静かになったのでアンから身体を離し、気分は大丈夫か確かめる。
「あのぐらいよくあるコトだが?」
「女王じゃない、アンの心配をしてるんだ」
「なんだ子孫アンの方が好みか。まあ悪くはないがもっとたくましくないと、子をつくらせるのは賛成できぬな」
「な……」
なに言ってるんだっ、と言いたかったがその前にアンに代わったらしく顔を真っ赤にしてうつむく姿にドキリとし、慌てて手をつないだままではあるが身体を離した。
「だ、大丈夫か、気分は悪くないか……」
「う、うん……平気だよ……」
「そうか……、それならよかった……」
それきりたがいにおし黙ってしまった。
──アンの顔が見れない、なんだろう、こんな感情はじめてだ。
「……とりあえずボゥロ達のところへもどろうか……」
「うん……」
身体を離し微妙に距離をとるが、手はつないだまま歩いてボゥロ達のところへと向かう。
そのあいだ何も話さなかった。
いつものアンなら色々と訊いてくるのに黙ったままなので調子がくるう。
なにか話さなくてはとあせった。
「……アドバイス」
「え?」
「アドバイス、ありがとうな。おかげで勝てたよ」
「う、うん。気にしないで……」
「……」
「……」
「そ、それにしてもよく祝福の吐息が使えたな。やっぱり本当に女王の子孫なんだな」
「あ、あれね。うーん、たぶんだけどサーチが[エコーズ・バット]を使える状態になったから私の声が届いたというか反応したと思うの。
それとこれもたぶんだけど、女王の祝福の吐息がまだサーチの肺の中に残ってたからじゃないかな」
「あーなるほど、それなら辻褄が合うか。さすが天才考古学者だな。でももう少し上手くなってくれよ、けっこう痛かったんだから」
「初めてだから仕方ないじゃない、今度は上手くやるわよ」
「今度って……」
途端に思い出した。あれは本来直接送り込む──つまり口づけ──つまりキスを──。
続けて思い出す、アンの下着姿を、そして……おっぱい(左のみ)を……。
「なに考えているの」
怒り気味の声でアンが強く握りしめる。
「な、なにも」
「ウソおっしゃい、私のバスト思い出してたでしょ?!
忘れてよ、忘れなさい、絶対に記憶から消すのよ!
それと女王の言ったこともね。私はまだ結婚する気ないんだからね!!」
ひと言いうたび、手を握りしめる力が強くなる。
「わ、わかりました」
女王じゃないのに敬語で返事してしまった。そのぐらい迫力があった。
その後しばらく互いに無言で歩いていたが……。
うがあぁぁ、耐えられねぇぇぇ、こんな空気というか雰囲気、耐えられねぇぇぇぇ。
さっさとアンから離れたいのに手を離さない、離せない。
なぜなら離した途端アンは暗闇に取り残されるからだ。
逃げ出したい気持ちと義務感がせめぎ合う、それと同時に──認めたくないが──アンと手を繋いでいたいという気持ちが……ある……。
「女王が余計なこと言うから……」
「う、うん、そうね。──余計なことじゃない──私にはまだはやいの──今は時代が違うんだってば」
またひとり芝居がはじまった。
たぶん女王と脳内会話してるんだろうが。
ん? ということは今までの会話を聴かれていたってことか?
うわぁ。
途端に恥ずかしくなってきた。
「アン、その王冠──ティアラだっけ? それもうはずしたらどうだ」
「え? え、そうね。もうはずしちゃおうか。──え? やめた方がいい? うしろを見ろ?」
言われて後ろを見ると、アリントの大群があとをついてきていた。
「外した途端、アリントは見境なくなるからやめておけ」
女王の助言を素直に受け入れとともに、またもやアンをお姫様抱っこしてオレは走り出した。
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