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迷宮マスター  作者: 藤井ことなり
第1部 女王の帰還
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決闘 その6

 バカな、本当にいない?!


 ──いや、いるはずだ。


 根拠は……アリントだ。血の匂いはするがどこからか分からないと言ってたな。


 なら匂いで……って、そんなに敏感じゃねぇ、どうやって探す──


 輪になってるアリント達を[エコーズ・クリア]で観察する。


 彼らは衣服を身に着けていないから甲皮を透かしてしまう。ああ生殖器官はふだん体内に収まってるのね。だから裸でも平気なんだ──じゃなくて、そんなことはどうでもいい。


 アリントの視線はほとんどオレに向けられているが、数体はあさっての方を見ている。


 その視線は定まっていないが、決闘場の真ん中の……空中辺りに集まっている。


 [エコーズ]に戻してその辺りを見ると、床に血溜まりがわずかにあり、ポタリポタリと上から血が落ちてくる──まさか。


 天井を見上げるが何も見えない、天井のみだ。


 だがあえてジョンの固有振動数を放ってみた。


「[エコーズ・超音波共振攻撃(仮)]」


 長いうえに言いづらい。やはりアンに名付けてもらわねば。


 だがそれでも満身創痍のジョンには効いたらしく、セミの抜け殻のような格好で天井にへばりついてる姿を現し、たまりかねて落ちてきた。


「く、くそがぁ、やはり異能力者(ジーン・ホルダー)には効き目が薄いようだな。だがそれでも諦めんぞ」


 5メートルくらいというと2階建ての屋上くらいの高さか。


 そこから背中落ちしてしたたかに打ったのに(しかも大ケガしているのに)すぐに毒づけるなんて、なんて丈夫なヤツなんだ。


 ジョンは起き上がるとオレを指さしながら卑しく笑う。


「どうやらこれ以上ここに居ても仕方ないようだ、おさらばさせてもらうぜ。

 そして傷が癒えたら必ず復讐してやるからなぁ。

 アン・ケイツー、まずはお前だ。

 拐って監禁して孕ませてやる。そしてその画像をサーチ達に送りつけてやる。

 お前たちに悔しい思いをさせてから一人ずつ殺してやるからな。生首をコレクションしてやるぜぃ……ひっひっひっ」


「ふざけるな、ならばここで絶対に倒すからな」


 オレが思いっきり息を吸ったところで、ジョンは行動にうつる。


 全速力で離れていったかと思うと、長い舌を伸ばしてアリント達のはるか上の壁に吸い付き、そのまま自身も飛び上がり壁に鉤爪で飛びつく。


 そして同じように今度は天井に舌を伸ばして、そこに飛び上がる。


 そうか、そうやってさっきは天井にいたのか。


 あれならば土砂崩れも脱出できたはずだし、落とし穴を越えて上の壁画までいけただろう。


 そしてボゥロの会話を知っていたのも解った。


 異能力で気配を消してついてきていたんだ。


「あばよ、これから眠れない夜を過ごすんだな」


 そう捨てゼリフを残してジョンは天井を這っていく。


 アリント達が蟻酸を吐くがとどかない、まだ塞がっていない落とし穴に向かうジョンをアリント全員が追いかけはじめた。


 そしてアン(女王?)が立ち上がると、宣言する。


「この決闘、従者サーチの勝ちとする」


 そう宣言したあと、ひとり芝居がはじまる。


「終わったの? ならもうサーチと話してもいいよね──ああかまわんよ──サーチ、勝ったわ、勝ったのよ」


 そう言いながらアンはオレを探す。


 どうやらアリントとのリンクが切れてるらしい。


 オレはまずアンに駆け寄って手を握り[エコーズ]で周囲を見えるようにした。


「サーチ!!」


 感極まったのか思いっきり抱きつかれた。


 そしてオレはまるでそれが当たり前のように抱きしめ返し、しばらくしてから自分の行動に驚いた。


「ア、アン。今はそれよりジョンだ。逃がすわけにはいかない、追いかけよう」


「ええ、そうね」


 そう返事しながらも抱きついたまま離れない。


 正直アンのやわらかい身体から離れるのを惜しく思うが、逃がしてしまえば厄介なことになる。


「アン、追いかけるぞ」


 迷ったオレは、アンを抱きかかえ走りはじめた。


「え? あ! きゃん!?」


 ふたたびアンをお姫様抱っこして、ジョンを追いかける。


 アリントも全員追いかけているので、ボゥロとディフィは大丈夫だろう。


「アン、さっきのオレの攻撃。なんて呼べばいい」


「え、あれ? ……そうね、共振攻撃だから[レゾナンス]なんてどう[エコーズ・レゾナンス]」


「カッコいいな、それでいこう。あと悩みとしては息を吐く攻撃だから名乗り(コール)のタイミングがわかってない」


「心の中で唱えればいいんじゃない? いろいろ試してみたいわね」


「学者らしくなってきたな」


「サーチはカッコよくなったわよ。無事に帰れたら大陸中央都市(セントラル)に招待するわ」


「別にいいよ。オレはあの村か、ダンジョンがいい」


「偏屈らしいわね」


 くだらない会話をしているうちに、集団に追いついた。


 天井を這うジョンは速かったが、やはり床を駆けるアリントよりは遅く、先回りされ落とし穴の上に行くのをジャマされていた。


「よし、間に合った」


 名乗り(コール)無しで5メートルくらいの範囲だったんだ、ならここからでも届くはず。


 アンをおろして呼吸を整える。


 ジョンに向かい、狙いをさだめ、低音から声をだんだん高音にあげていく──固有振動数の反応有り、アンの手を強く握り、心の中でコールする。


「エコーズ・レゾナンス」


 心の中のコールとまったく同じタイミングで、アンも名乗り(コール)をした。

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